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第三章【9】目隠しの術
森を進みつつ、ライモは自身に目隠しの術をかけてみた。要領は分からないが、小屋や村への通路に掛けたのと同じことをやってみた。
「いけたか?」
しかし、自分では自分の姿がどうなっているのか分からない。するとちょうど近くにヒトの気配を感じた。聞き耳を立てて居場所を探ると、旅人らしい二人組が森の中の小路を歩いていた。
ライモは二人の正面に回り、二人に向けて手を振ってみた。
「なっ! 何だっ!」
「山賊かっ?!」
二人はすぐにライモに気付き、剣を抜いた。突然現れ、何故か手を振ってきたオークに怯えた様子だ。完全に失敗だ。
「あー……すまん。知り合いかと思ったんだ」
ライモは警戒する旅人に謝り、言い訳をして立ち去った。
ライモは森の茂みに戻り失敗の原因を探った。
いつもの魔術は、その土地に術をかけているのではないか。ふとそんな風に思った。今度は歩きながら魔術をかけてみた。自分自身にかけることをさらに強く意識した。
ライモはまた先程の旅人を追いかけ、そっと二人の前に出てみた。二人はライモに全く気付かず歩いている。
(やった! 成功だっ!!)
わずか2回試しただけでうまくいった。ライモは嬉しさのあまりその場でバタバタと足踏みをした。
「んっ?! 何か足音がしないか?!」
「ああっ! 聴こえた! 何かいる!」
旅人二人が再び剣を抜く。ライモは慌てて動きを止めた。
どうやら視覚は遮ったが、音は聴こえてしまうらしい。土地に目隠しの術をかけた時は、音も完全に消せるのだが、さすがに完璧に同じとはならなかったようだ。
ライモは無駄に怖がらせてしまった旅人二人に心の中で感謝を述べ、先を急いだ。
ライモがエルフの城に辿り着いたのは東の街を出て七日後だった。十日は掛かると思われたが、雨に遭ったのも最初だけで順調に進むことができた。
エルフの城は森の中に溶け込むように存在していた。石と樹が複雑に絡み合ってできた巨大な城だ。
まだ春の始めで、森の木々はやっと枝の先に小さな葉を芽吹かせ始めた頃だというのに、その城の周りだけは木の葉が生い茂り、花が咲き誇り、蝶が舞っている。季節を無視したおとぎ話のような空間。それはつまり強力な魔術が存在する証拠だ。ライモは立ち向かう敵の強大さに身震いした。
ライモは入り口を探しつつ、城へと近づいた。途中、一人のエルフが歩いていたが、ライモの姿には気付かなかった。目隠しの術がしっかりと効いているようだ。ライモは足音に気をつけながらさらに先を進んだ。
入り口らしき場所から中に入ると、城の中は太陽の光が振り注ぐ異常に明るい空間だった。とにかくユリを探さねばならない。聞き耳を立てて神経を研ぎ澄ましユリの情報を探す。城の中は複雑に入り組んでいたが、闇雲に探す以外の手段もなく、ライモはひたすら歩き回った。
途中、調理場らしき所に出て、置いてあった焼き菓子を拝借した。驚くほど甘く柔らかくいい匂いがした。
(ユリはこんなうまいものを食ってたのか……)
ライモがユリに出していたものは、皮を剥いただけの果物や焼いただけの鳥などだ。
(でもユリはどれもうまそうに食べてくれたんだよな……)
ライモが出す粗末なものでも嬉しそうに口にしてくれたユリ。それこそユリから溢れるライモへの想いだったのだと感じた。
(あとちょっとだ。ユリ。待っててくれっ!)
ライモは心の中で強くそう願った。
半日以上かけて城を捜索し続けていたその時、ライモは目の前を通過した一人のエルフに気付いた。ユリの家臣のアルマスだ。
ライモは後を付け、アルマスが一人になった時、背後からアルマスに掴みかかった。
「なっ?!」
「静かにしろ」
アルマスの喉元に小刀を押し付けた。アルマスは見えない何かに捕らえられ驚き、身を強張らせている。
「動くなよ。この小刀には毒が塗ってある」
「だ、誰だっ?!」
ライモはアルマスの質問を無視して話を続けた。
「ユリの居場所まで案内しろ。騙そうとしたらすぐに喉を突き刺す」
アルマスは恐怖に顔を歪ませコクコクと頷いた。ライモはアルマスを抱えたまま、アルマスにも目隠しの術をかけた。
「お、お前……何者だ……?」
「黙って歩け。グズグズしていると指を1本ずつ折る」
アルマスがもしユリを心から愛していたならば、きっとユリの場所は教えないだろう。しかし、アルマスはユリの夫候補5人に名乗りを上げている。他のエルフ達と一緒になってユリを犯そうとしている奴が、ユリを心から思っているはずもない。恐らくこの男はユリに欲望しか抱いておらず、我が身が一番可愛いはずだ。それはライモの勘でしかないが、ライモはそこに賭けることにした。
アルマスは震えながらもすぐに歩き出した。
そして回廊を進み、薄暗く狭い螺旋階段を登り始めた。先程までいたおとぎ話のような美しい空間とは全く違う雰囲気だ。同じ城の中とは思えない。
螺旋階段は長く続く。どうやら高い塔に登っているようだった。この塔にユリは閉じ込められているのか。やがて階段の終わりが見え、頑丈そうな扉が1つ見えたが見張りが誰もいない。
「本当にここか? 嘘だったら分かってるな!」
「ほ、本当だっ」
アルマスは扉の前に立つと、ドアノブに少し触れた。途端にドアノブが光りシュンッと音を立てると、カチリと鍵が開くような音がした。
扉の先はまるで牢屋だった。壁は剥き出しの石のままで、ライモでも手が届かないような高い位置に小さな明り取りの窓があるだけだ。
そこに置かれた粗末な寝床に、簡素な白い服を纏った美しい金髪のエルフが座っていた。扉が開いた音に気付きそのエルフがこちらに顔を向けた。
ライモがこの城ですれ違ったどのエルフ達よりも美しく、そして最も愛おしいエルフがそこにいた。
「ユリ……」
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