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第三章【10】再会と……

 ライモが思わず呟くと、ユリはハッとして立ち上がった。そして誰もいないように見えるはずの入り口を見つめ、大きく息を吸った。 「ラッ……!」  匂いでライモの存在に気付いたらしいユリは、名前を呼びそうになりながらも息を詰めた。 「お前はここで寝ててくれ」 「うぐっ!!」  ライモはそうアルマスに告げると、アルマスの首を軽く絞めた。アルマスは軍人のクセにあっさりと気絶した。 「ユリっ!」 「ラッ、ライモっ!!」  ライモは目隠しの術を解きユリに駆け寄ると、自分よりも二回り小さいその身体をしっかりと抱き締めた。ユリもまたライモにしがみついてきた。 「ユリ、助けにきた!」 「嘘みたいだっ……ほ、本当にライモなのか?!」  腕の中にユリがいる。ユリの声、ユリの体温、ユリの香り、ユリの髪の手触り。その全てがライモの感情を激しく揺さぶってくる。 「なんて酷い火傷っ! ……き、牙は?! 牙はどうしたんだっ?!」  ユリがライモの顔を掴み、目を見張った。頬に当たるユリの柔らかな手の感触が嬉しい。 「ああ、すまん。ちょっとヘマしてな」  ライモは笑って誤魔化したが、ユリの美しい緑の瞳からは一気に涙が溢れ出してきた。 「ば、バカぁ……っ!!」  ユリはライモの無茶を察した様子だった。しかしライモにとって、牙1本などユリと天秤に掛けたら羽根よりも軽い。 「ユリ、ここから抜け出すぞ。魔術を無効化する魔法薬を手に入れたんだ」 「えっ……」  ライモは「これだ」と言って、懐から小瓶を取り出しユリに見せた。 「これでその銀の首輪を外す。そしたらユリの転移魔法で、」  ライモが言いかけた所でユリが首を横に振った。 「私は魔力を封印されてしまったんだ……」  ライモはこの部屋の見張りが手薄なことに納得した。魔術を使えなくなったユリ。扉を魔術で施錠してしまえば、それだけでユリは逃げられなくなる。 「分かった。大丈夫だ。俺の目隠しの術で抜け出そう。この城にもそれで入って来たんだ」  ライモはユリを安心させるべく落ち着いた声色で話した。ユリも涙を拭き、強い眼差しで頷く。 「よし、じゃあやるぞ」  ライモはユリに向かって宣言すると、小瓶のコルク栓を抜きユリの首輪に液体をかけた。銀の首輪に魔法薬をかけるとシュワシュワと白い煙が立ち登った。 「凄いっ! ライモ見てっ!」  ユリに言われてライモが視線を落とすと、ユリの手のひらから、うっすらと緑の光が出ていた。 「魔力が戻ってきてる……! 私に掛けられた魔術も解除されたんだ!」 「ああっ! スゲェ……!」  魔法薬は本物だった。迷わず牙を対価に差し出して良かったとライモは心から安堵した。  しかし。 「く、首輪には……効いてない……!」  ユリが首輪を掴み青ざめた顔でライモを見た。 「そ、そんなっ……!」  ライモはユリの首輪を掴み、力任せに破壊しようと試みた。その時、バシンッ! と手のひらに鋭い痛みを感じた。 「くっ……!」 「ライモっ!」  ライモの手のひらから鮮血が滴り落ちた。 「ダ、ダメだっ! ライモ、逃げろっ! きっと王に気付かれたっ!」 「そ、そんなっ、ダメだ! 俺はもうユリから離れないっ!」 「ライモっ……」  ユリは苦しそうに顔を歪ませライモの頬に触れ、そして唇が触れ合う程の距離で囁いた。 「……ライモ。もう……私のことは忘れろ。お前の寿命は短い。村へ帰ってオークとして生きろ……」 「ユ、ユリっ! 何を言って……!」 「助けに来てくれてありがとう。最後に会えてよかった。私は千年先もライモを忘れない」  ユリはそう告げて唇を合わせてきた。牙を1本失ったライモの唇は、以前より深くユリの唇の柔らかさを感じた。 「いつか、いつか役目を終えたら、ライモの子孫たちに会いに行くよ……」  ユリは無理矢理笑顔を作り、その緑の瞳から再び涙を溢れさせた。  ユリの言う『役目』とは、エルフの5人の男達から犯され子を孕み産むことだ。この先千年。そんな悲惨な目に遭うことをユリは受け入れようとしている。 「い、嫌だっ! ダメだっ! ユリっ!!」  ライモは叫び、ユリの肩を強く掴んだ。  その時だった。 「おのれ……私の城に虫けらが入りこむなんて……」  青い光と共に、エルフの女が現れた。西のエルフ王だ。エルフ王は禍々しく目を血走らせ二人を睨む。 「ライモっ! 手荒でごめんっ!」  途端にユリがライモの胸に右手のひらを押し当てた。 「必ず生きて。愛してる」 「ユリッ、何をっ」  ライモが焦りそう口にした瞬間、宙に掲げられたユリの左手から、石の壁に向けて緑の光が放たれた。緑の光は『バンッ』と大きな音を立てて石壁を破壊し、狭く暗かった部屋に外の光が流れ込む。 「ユッ!」  次の瞬間、ユリの右手が光り、胸を潰されるほどの衝撃がライモを襲った。何が起こったか分からぬまま、ライモは石壁の穴から空へと射出されていた。 「ユリーーーッ!!!」  ライモは必死に叫ぶが、エルフの城は夕陽を背にしてみるみる小さくなっていく。  すると今まで居た塔らしき場所から、青い火の玉が3つ飛び出した。隠れ家の小屋を燃やしたものと同じ火の玉だ。その3つの青い火の玉はライモを追撃しようと追ってくる。その時、さらに塔から緑の光も飛び出してきた。今ライモを包むんでいる光と同じ色のその緑の光は、次々と青い火の玉を撃ち落としていく。 「ユリッ!!」  ライモを殺そうとするエルフ王にユリが必死に対抗しているのだと分かった。  さらに、もうほとんど見えないくらい遠くになった塔からキラッと緑の光が輝き、次の瞬間、塔から爆煙が噴き出した。 「ユ、ユリーーーーっ!!!」  遅れて届くドオォォンと鳴る爆音。 「ユリッ! ユリッ!!!」  叫ぶが、ライモには成す術もなく、ライモの身体は大きく放物線を描き、そのまま西のエルフ領の外まで飛ばされていった。  やがて地表に近づくが、落下速度が落ちることはなく、ライモはそのままの速度で高いモミの木にぶつかり、枝葉に擦られながら地面へと落下し、そして、気を失った。

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