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第三章【11】エルネスティ(1)

「……か、危険……ます」 「大丈夫……彼は……」  近くで誰かの話し声がした。  うまく開けられない瞼越しに真っ白な明るい光を感じる。身体全体が陽だまりにいるかのような暖かさに包まれ、なんとも心地がいい。まるで、ユリを抱き締めて迎えた朝のような、そんな感覚だ。 「さあ、ゆっくりと目を開けて」  穏やかな声で呼びかけられ、ライモはその言葉に素直に従った。 「やあ、気分はどうだい?」  徐々に晴れていく視界に金の髪と長い耳を持った人物がぼんやりと映った。 「……ユ、リ」  ライモがポツリと呟くと、その人物はカバッと顔を近づけてきて叫んだ。 「やっぱり……! 君はユリと繋がりがあるのだね!」 「なっ!……うっ!」  驚き身を起こした途端、脇腹に走る激痛にライモは呻いて身を丸めた。 「ああ、すまない! 君は肋骨が3本折れてるんだ。治癒を続けよう」 「あ……あんたは……」  そこにいたのは銀色に近い長い金髪で整った顔立ちをした男のエルフだった。  辺りを見渡すと、白い布が張られた部屋のような場所で、ライモは絨毯の上に寝かされ治癒魔法をかけられていた。さらにはもう一人、褐色の肌に黒髪の女のエルフが部屋の隅に槍を持って立っている。 「さあ、もういいだろう。まだどこか痛むかい?」  金髪のエルフに促され、ライモはゆっくりと身を起こした。 「いや……どこも、痛くはない……」  ライモは覇気なく答えた。そして何をしていたのか頭をめぐらす。 「俺は……」  ライモは思い出し頭を抱えた。  ユリの救出に失敗したのだ。  さらに最後に見えた塔の爆発。ユリが無事なのかどうかもわからない最悪な現実がそこにあった。 「な、なあ! 俺はどれくらい気を失ってたんだ?」  ライモが焦りながら詰め寄ると、エルフの男は嬉々として答えた。 「それほど経ってはいないよ。夕焼けの空に緑の光が落ちてくるのを見て、落下地点を追ってすぐに君を見つけたんだ。ここはその近くに張った天幕の中さ」 「……そうか。助けてくれたこと、感謝する」  ライモはまだそれほど時間が経ってないことに安堵しつつ、エルフの男に頭を下げた。 「それで! 君とユリはどんな関係なんだい?!」  エルフの男はライモの礼などどうでもいいという勢いだ。ユリよりも淡い緑の目がらんらんと輝いている。 「あ、あんた……何者なんだ……?」  ライモはこの男が不気味に思えて尋ねた。そもそもエルフだ。西のエルフ王の手先の可能性だってある。  ライモの不審そうな表情に察したのか、エルフの男はライモから顔を離し胸に手を当て、座ったまま、それでも優雅にお辞儀をした。 「これは失礼した。私はエルネスティ。東のエルフ領を治める者だ。こっちは護衛のイラ」 「東のエルフ領……はあっ?!」  ライモの声が天幕に響き、その大声でイラと呼ばれた褐色肌のエルフが槍をつかみ直す。  しかし驚くのも当然だった。目の前にいるのはユリが話していた、ユリを番にしたいと言っていた東のエルフ王、エルネスティだと名乗っている。  言われてみれば、男は身分が高そうな装いをしていた。白を貴重とした服には白と銀の糸で繊細な刺繍が施され、長い耳の片方にはキラキラと光る宝石が吊るさがっている。 「私を知っているのかい? ユリから聞いたのかな」  ライモの焦りと相反し、エルネスティは実に嬉しそうに笑っている。 「えっと……」 「あ! やっぱり待ってくれ! 是非、私の推測を先に聞いて欲しいんだ!」 「は、はぁ……」  不審がるライモを尻目にエルネスティは饒舌に語り始めた。 「つい100年と少し前のことだ。西のエルフ領にΩの子が生まれたと聞いて、私は会いに行ったんだ。美しい金の髪と美しい緑の瞳の子でね。見た瞬間、胸の中で小さな雷が弾けるのを感じた。この子は将来、私の運命の番になるかもしれないと、そう思った。その子がユリだ」  エルネスティが過去を見つめ愛おしそうに微笑む。幼いユリを知っていることや、『運命の番』という言葉に、ライモは胸の奥がムカっとした。 「ところがつい最近、ユリに発情期が来たと西から伝達がきた。まだ100年先だと思っていたから驚いたのだけれど、またすぐに伝達が来たんだ。今度は『ユリが純潔を失った。もう嫁がせられない』と。それで私は思ったんだ。ユリに発情期を100年早めるほどの強い出会いがあったのではないか。それはつまり、『運命の番』なのではないかと」  ライモの喉が勝手にゴクっと鳴った。 「私はそれを確かめる為に出向いてきたんだ。そしてつい先程、エルフの魔術を纏ったオークが空から落ちてきた。さらにきみは夢現にユリの名を口にした」  エルネスティはライモに強い視線を向け、尋ねてきた。 「もしかして、君が、ユリの運命の番なのかい?」

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