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第四章【3】小鳥
それからライモにたっぷり愛され、ユリがくったりと蕩けきった頃だった。1羽の白い小鳥がパタパタと飛んできて、ライモの頭にとまった。
「な、なんだ?」
驚き頭を振るライモだが、小鳥は振り払われないようにライモの銀の短髪に爪でしがみついている。ユリはそのファンシーな光景に、ライモに組み敷かれたまま思わず吹き出した。
『やあ。取り込み中の所、申し訳ないね』
すると突然、その小鳥がしゃべった。しかもその声はよく知る声だった。
「エ、エルネスティッ?!」
ライモは慌てて近くにあった布を取り、布が濡れるのも構わずユリの身体にかける。小鳥の視界から隠すためだ。
『少々急ぎの用件だ。今、君たちの家の前にいるから、出てきてもらえないかな?』
「だ、だからって、覗いてくんなよ!」
『ああ、安心して。今この鳥からそちらの情報は何一つ伝わらないようになってるから』
「し、信じられるかよっ!」
『じゃ、よろしくね〜』
小鳥は一方的にそう告げるとパタパタと飛び立って行った。
今ユリとライモが過ごすこの庭には目隠しの術がかけてあった。恐らくエルネスティはその術を見破り、二人が庭でナニをしているかも予想してあの小鳥を飛ばしてきたのだろう。
「ライモ、行こう。エルネスティ様が自ら来るなんて、何があったか気になる」
「はぁ……まったく……」
ユリはライモと共に水から上がり、魔術で髪を乾かし、服を着ると玄関先に急いだ。
「お待たせしました。エルネスティ様」
「ああ、すまないね」
庭先にはエルネスティがイラと共に立っていた。一見いつもと変わらない穏やかな笑顔。しかし横に立つイラからはピリピリとした緊張感が漂っていた。
「水浴びまで覗きやがって、なんなんだ?」
「ああ、水浴び中だったのか。わからなかったよ」
「ホントかよ」
ライモは親しい友人に接するようにエルネスティに話しかけ、エルネスティもまた当然のように受け答えている。
東のエルフ領に来たばかりの頃は、ライモもエルネスティに対して敬語を使おうと努力していたようだが、そのぎこちなさにエルネスティが笑い『使わなくていい』と言ってくれたのだ。エルネスティはさらに『ライモとユリは家族に近い存在になって欲しい』とまで言ってくれた。なぜそこまでエルネスティが二人に固執するのか、ユリにはよく分からなかったが、『生物学者としての血がそうしたいと言っている』とエルネスティは語っている。結局、ユリは変わらず『エルネスティ様』と言っているが。
「実は、西からの使者が領土内に入った。今こちらに向かっていて、夕暮れ前には城に到着しそうなんだ」
「えっ!」
ユリは驚きライモを見た。ライモもまた表情を強張らせた。『西の使者』とは西のエルフ領からの使者。つまりエヴァリーナの使いの者だ。
「何しに来たんだ?」
「きっと、ユリの様子を伺いに来たんだろうね」
「10年間も何も無かったのに?」
「エルフにとって10年はわずかな時間だよ」
エルネスティの言葉にユリはゾッとして自身の肩を抱いた。
ユリも西から何かアクションがあるにしては早すぎると思った。エヴァリーナは何千年も生きているエルフだ。それ考えれば10年など一瞬だろう。つまりまだまだエヴァリーナは高い関心をユリに向けているということだ。
「だから今からユリは私と城へ来てほしい。ライモは街の宿を取らせるから、しばらくここを離れてくれ」
ユリとライモは互いに視線を合わせ頷き合った。
「わかった。ユリを頼む」
「すまないね」
この状況はエルネスティに従うのが最適だと二人とも思った。
「じゃあ、行ってくる」
「うん、気をつけてね」
「ああ。ユリもな」
短い挨拶を交わし、イラと共に歩いていくライモの背中を見つめる。ライモとイラが並んで歩く姿に胸がモヤっとしてしまった。
イラはスラっと背が高く、鍛えられ引き締まった身体の持ち主だ。顔も整っているし、何より褐色肌の大きな胸は男の視線を惹きつける。ユリだって見てしまうくらいだ。きっとライモだって見てる。
「ユリ、大丈夫だよ。少しの間だけだ」
無意識に眉を寄せてライモを見ていたユリにエルネスティが声をかけてきた。ユリはくだらない嫉妬心を見透かされては恥ずかしいと思い、慌てて笑顔を作った。
「はい、大丈夫です。エルネスティ様」
「ん、じゃあ私たちも行こうか」
エルネスティは気づかないフリをしてくれているのか、優しく微笑みユリを城へとエスコートした。
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