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第四章【14】姫さま

「姫さま、ご気分が優れませんか?」  呼ばれてハッと顔を上げた。  ぽっちゃりとした丸顔の侍女が心配そうにこちらを見ていた。 「大丈夫よ……」  大衆に向けるものと同じ笑顔を作る。しかし彼女は眉尻を下げ、手を握ってきた。その透き通る大きな緑の瞳は『本当のことを言って』と悲しげに責めてくる。 「あなたは……何でもお見通しなのね」  フフッと笑うが彼女はやっぱり心配した顔を崩さない。こんなにも親身になってくれるのは彼女だけだ。 「やっぱり、少しね……少しだけだけど……怖いの」  誰にも明かしたことのない胸の内を吐き出す。 「エルフ王の娘として、他国に嫁ぐなんて当たり前のことだし、それが私の使命だとは思っているのよ。でも……あの国の方々は身体が大きくて力も強いと聞くわ。殿下がどんな方なのか……やっぱり不安で」  あと数刻もすれば彼の国から一行がやってくる。そこで初めて夫となる者と会うのだ。まったく知らない愛してもない者と結婚し、異国で暮らす。どんな野蛮な男でも、母国の為に耐えなければならない。それが王女として生まれた者の使命なのだ。 「姫さまっ!」  突然、彼女が大きな声で呼びかけてきた。叫んだと言ってもいいくらいだ。 「もしも殿下が姫さまに酷いことをなさったら、私が殴ってやります!」  彼女は生成りのシャツの袖を捲り白く細い腕を見せると、フンッと鼻息を荒くした。 「あなたが、殿下を、殴るの……?」 「はいっ!」 「αの殿下を、Ωのあなたが殴るって言うの?」 「はいっ! 私は姫さまを苦しめる者はどんな者でも許しません!」  思わずフハッと噴き出した。  笑いとともに目頭が熱くなって、涙が溢れそうになった。  もしも男に生まれていたら。  もしもαに生まれていたら。  そのどちらかであったら、彼女を番に出来たのに。  何度そう思っただろうか。いや、でもきっと出来なかっただろう。男かαであっても、エルフ王の子という立場で侍女を娶るなんて、父はきっと許してはくれない。そしてそれに逆らうこともできず、状況ばかりを恨んでいる弱い自分。  それなのに彼女はなんと強いことか。  身分など気にせず、自身が信じる正義を貫こうとしている。 「姫さま。私はどんな所へでもついていきます。ずっとずっと姫さまにお仕えします」  決意を語るその大きな瞳には一点の曇りもない。  金の髪に緑の瞳。  ああ、彼女はなんて美しいのだろう。  気がつけば頬に雫が伝っていた。堪えていたのに堪えきれなかった。 「ありがとう……。あなたさえいれば、私はどんな試練も耐えられるわっ……」  泣きながら彼女の手を握ると、彼女も力強く握り返してくれた。その手はとても華奢で小さい。だがとても温かかった。

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