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第四章【18】オークの村(2)
それからユリはライモの母親の家にも案内された。
ライモは以前11 人家族だと言っていたが、10年経って、姉リルと妹タルが子をさらに産み、現在は15人で暮らしていると聞いた。名前も教えられたが、すぐには覚えられそうにない。オークというだけでユリからしたら見分けがつきにくいのに、全員ライモの血族。顔もかなり似てるのだ。
畑に行っていたライモの母親は大きい籠を背負って帰ってくると、家にいたライモを見て驚き、そしてユリにも目をやると大いに喜んでくれた。
「ユリさん! やっと会えた!」
「今までご挨拶も出来ずにすみません……」
ユリは息子の命を危険にさらし、この村から奪ってしまった張本人だ。どう謝罪を口にしたら良いか言葉がでなかった。そんなユリにライモの母親は淡々と話しかけてきた。
「あんた、鹿は食べられるかい?」
「え……あ、はい……」
「そう! 嫌いな野菜はあるのかい? ない? じゃあ用意してくるから。みんな、手伝って! 今日はゆっくりしていけるだろう? って、もうここで暮らすのかい?」
早口で言われ戸惑うユリにライモが笑いながら口を挟む。
「母ちゃん、落ち着けよ。ユリが困ってる。あとここで一緒には暮らさない。他の連中がユリにチョッカイ出しそうだからな」
「まあ、モノ珍しくて寄ってくるだろうし、あんたが貸してやるつもりがないなら、外に住んだ方が良いだろうねぇ」
『貸してやる』と言う言葉にユリはギョッとした。文化の違いだから仕方ないのだが。
「ま、西のエルフ領が東のエルネスティ王の統治になったから、これからはちょくちょく顔出すよ」
「えっ? 西のエルフ領が?!」
ライモの母親や兄妹たちが顔を見合わせた。なんだかここ最近騒がしいなと思っていたらしいが、詳しくは知らなかったようだ。
それからたくさんの料理を出してもらい、それをライモの家族たちと囲みながら、ユリとライモはこれまでに何があったかを話した。
「じゃあ、今日は東の王様のところから来たのかい?」
「ああ、そうだよ」
「ひぇ……凄い所に住んでるんだねぇ」
「ねね、そのエルネスティって王様はなんでそんなにあんたたちを気に入ってくれてんの? ユリちゃんはその王様とも寝てるの?」
「えっ?!」
「変なこと言うなタル。オークの価値観とは違うんだ。ユリは俺と番になったんだから他の奴と寝たりはできない」
「ああ、そっか。でもライモだけじゃ飽きるでしょ?」
「そ、そんな、飽きるだなんて……」
オークの開けっぴろげな会話にユリは戸惑うばかりだ。まあ、エルネスティの3人の妻とも結構際どい話はしていたからあまり変わらないのかも、とも思うが。
その時、家の木戸がガンガンと叩かれ、「こんばんは!」と声がした。ライモの母親が「はーい」と木戸を開けるとオークの少年が立っていた。
「おや、ティモ。どしたの?」
「あの、エルフの人に会わせてほしいんだ!」
明らかに自分のことを話していてユリは驚いてライモを見る。ライモは苦虫を噛み潰したような顔をして「ほら、来た……」と呟き立ち上がった。
「ユリに何のようだ?」
ライモがティモと呼ばれた少年の前に立つ。ライモの巨体に隠れ、ティモの姿は見えなくなった。
「あんたに用はねえよっ。俺はユリさんに会いに来たんだ」
少年の若い声が響く。オークの年齢というのはよく分からないが、明らかにまだ大人ではないと感じた。
ユリは立ち上がるとライモの背中から覗き込んでティモに声をかけた。
「私に何かご用ですか?」
「おいっ」
ライモはジロリと睨んでくるが、子供を邪険にするのも気が引ける。ユリがティモを見つめると、ティモは濃い色の肌でも分かるくらい顔を真っ赤に染め、必死に話し始めた。
「お、俺っ、4歳の時にあんたに助けられたんだ!」
「えっ?」
「エルフに捕まって、殺されるかもって思ってた時、あんたが、ユ、ユリさんが助けてくれて……」
「あ! あの時の子かい?!」
ユリは思わず身を乗り出した。
アルマス率いる西のエルフ軍がオークの村に侵攻し、卑怯にも人質にしたのがこのティモなのだ。
「わあ~! 大きくなったね〜!」
あの時、ユリが抱っこ出来るくらい小さかったティモは、既にユリよりも頭二つ分背が高い。ライモに比べるとまだまだ細い体つきではあるが、オークの成長の早さにユリは驚き、そして目を細めた。
「あの時、助けてくれたこと本当に感謝してんだ。それで……それで……、俺、ずっとユリさんのことが頭から離れなくて……! 俺、初めて抱くのは、絶対あんたがいいって思ってたんだ!」
「へっ?!」
ユリから思わず裏返った声が出た。そんなユリに構わずティモはまくし立てる。
「あと2年したら16歳になるから! そしたら!」
「黙れっ!」
話続けるティモの頭をライモがガシッと掴んだ。
「イテテテッ!!」
「ほらっ、言ってる側からこれだっ!」
ライモが怒鳴る。すると後でタルが「アハハハ!」と大笑いした。
「やっぱり、ティモってライモの種だよね」
「ああ、私もそう思ってたわ。顔つきが年々似てきてるのよ」
タルの言葉に姉のリルが同意する。ユリは驚きティモをマジマジと見つめた。ユリから見たらオークは皆似た顔をしているが、確かにティモの目鼻立ちはライモに似ている気がする。
「ユ、ユリ……あのな……」
ティモをマジマジと見つめるユリに、ライモがオロオロとした声をかける。ユリはライモに目線を向けた。
「ライモ、ティモを離してあげて」
ライモはユリの言葉に仕方なさそうにティモを離した。ティモはライモによってぐちゃぐちゃにされた髪を手櫛で直し、ユリに向き合う。
まっすぐな銀色の瞳がこちらを見ていた。ライモも少年の頃はこんな感じだったのだろうか。人質として助けた時、まだ4歳だったティモはとても温かくて重くて、とても可愛いと思ったことを思い出した。
(ああ、ライモの子だったのか……)
嫉妬よりもユリの心には愛おしさが溢れ出し、ユリはティモに思わず言った。
「ティモ、抱き締めてもいいかい?」
「えっ、も、もちろんだ!!」
「はぁっ?! ユリ、ちょっと待て!」
ライモが怒って抗議してくる。ユリはライモに困ったような微笑みを向けた。
「少しくらいいいだろ? ライモの子なんだから」
「そ、そんなの確かめようもないだろっ!」
「いや、この目は確かにライモの目だ」
ユリは確信を持ってティモも抱き寄せた。
自分よりは既に大きな身体だが、ライモよりはまだ随分細い。そしてライモよりも少し体温が高い気がした。
「大きくなったねぇ……」
ユリは感慨深く呟いた。ティモもユリの背中に腕を回してくれた。ユリはあまり長く抱き続けるのは控え、すぐに抱擁を解いた。
「ティモ。私はライモの番だから、他の誰かに抱かれると拒絶反応が起こるんだ。だから君の希望には応えられないよ。何よりね、君がライモの子なら、私にとっても君は実の子同然だ。私は今君がとても愛おしくなったけど、恋愛感情になることは無いよ。ごめんね」
ティモは潤んだ瞳で見つめてきたが、しょんぼりとしつつも礼を言って帰っていった。
「ユリちゃん、大人ぁ〜! それに比べて自分の子供に嫉妬してるライモは子供〜!」
むくれるライモを茶化すタルにライモは「うるせぇよ!」と悪態をつき、ライモの家族達は皆でそれを笑っていた。
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