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第3話 「なんで、ずっと無視すんの?」
この人がどんな意味でそう言ったのか、今もって俺にはわからない。正直、聞いた瞬間は「キモ」と思った。
触りたいってなんだよ、意味がわからない。
けど数日後、家族でドラマを観ていたときだった。
『好きだったら触れたいの、当たり前だろ』
人気沸騰中の俳優、野坂灯夜 がめちゃくちゃ苦しそうな顔でそう言ったのを聞いたとたん、俺はジュースを噴きそうになった。
恋愛ドラマなんて全然興味がない上に家族で見るのはまあまあ恥ずかしい。だから普段はあまりドラマ観賞の場にいないようにしている。なのに、その日はうっかり観てしまって、しかもあんな台詞を聞いてしまった。
好きだったら触れたいの当たり前だろ。
ちょい待て。
好きだったら触れたい。触りたいの千冬だけ。
これってイコールだったりするんだろうか。ってことは、史人さんって俺のこと、好き?
「はああああ?!」
「ええい、千冬うるさい! 灯夜さまの声が聞こえない!」
野坂灯夜の信者である母に思いっきり睨まれたけど、それどころじゃなかった。
だって、あの人も可愛いと俺のことを言ってた。それはこの顔のせいなのか? ゆりりんに似てるから? だから好き?
それって、めっちゃ……。
むかつく。
ってか、冗談じゃない。馬鹿にするのもいい加減にしろ。
以来、俺は史人さんを徹底的に無視することにした。
兄ちゃんと仲良しらしいあの人は、自分の家かって言いたくなるくらいうちに来ていたけど、リビングでゲームしているあの人を目にしても、挨拶せずに自分の部屋へ逃げ込んだ。
下校途中でばったり出くわしても、顔を背けて気付かないふりをした。
ガチャポンの機械の前で夢中になってレバーを回しているのを見ても、声をかけずに通り過ぎた。
可愛いなんて言うやつ、大嫌いだから。
「千冬ー」
でも、そんな俺の決意なんてまったく無視して、あの人は手を振ってくる。
「芹那、あの人、芹那の兄ちゃんの友達じゃね? 二年のほら、四宮 先輩」
「知らね」
中学に入って俺はバスケ部に入った。うちのバスケ部は県内でも強豪と呼ばれているため、練習がかなりきつい。朝練も午後練も他の部よりがっつりある。ガチャポンばっかりできるどこかの誰かさんとは違うのだ。ぷん、と顔を背け、部活仲間の吉柳健太 とともに体育館を出て更衣室へと向かおうとしたとき、あ、と吉柳が隣で呟いた。
「逃げんなって」
背中に足音が迫り、くいっと二の腕が引っ掴まれる。ぎょっとして見上げると、俺よりも明るい色の瞳がこちらを見下ろしていた。
「なん、ですか。俺、忙しいんですけど」
「部活終わったとこでしょうが。忙しくないよね」
相変わらずのにこにこ顔で勝手なことを言いやがる。いらいらしながら二の腕を取り返そうと暴れている俺の横で、吉柳がおろおろしている。そんな吉柳に向かって史人さんは片目を瞑ってみせた。
「あー、だいじょぶだいじょぶ。こいつと俺、知り合いなので。先、行っていいよ」
「は? 勝手なこと言うなし!」
「え、え、あの、芹那、大丈夫?」
だいじょばない! 俺は必死で吉柳に助けを求めたが、俺の肩にやすやすと腕を回した史人さんは、吉柳に向かってひらひらと片手を振った。
アイドル級のきらっきらの笑顔つきで。
「うん。俺、こいつの兄みたいなもんなので。ってか、いつも千冬と仲良くしてくれてありがとうね」
「え、あ、はい」
この人は俺よりもまあまあ馬鹿だしおちゃらけている。でもだからこそと言うべきか、笑顔の純粋度は俺よりも数倍上だ。つまり……たいていの人はこの笑顔に魅了される。
「じゃ、じゃあ、芹那、また明日なー」
ほんのり頬を染めて吉柳が去っていく。こら待て! と言いかけたが、肩に回された史人さんの腕にきゅっと力が込められて、動きが止められてしまった。
「なんで、ずっと無視すんの?」
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