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第12話 俺達専用の挨拶

 平日は月、水、金。土日は時々。それが俺のシフトだ。で、最近の史人さんのシフトも、月、水、金、土日も俺とかぶるようにシフトを当ててくる。 「ストーキングじゃん、完全に」  シフト表を見ながらげっそりして言うと、テーブルを挟んで向かい合わせに座った史人さんが、賄いのサンドイッチをかじりつつにやっと笑った。 「仕方ないだろ。店長からのお達しだし。俺のせいじゃないよ」 「にしたって。全部当ててくるのはキモい」  史人さんが俺と完全にシフトを合わせだしたのは、例のひったくり事件のせいだった。あの後、店に戻った俺達を迎えた店長(四十五歳、三歳児と奥さんの三人暮らしらしい)は俺達の怪我を見て青くなり、病院へ行こうと騒いだ。俺も史人さんもかすり傷だと説得すると、今度は警察に通報しようと交番へ連れていかれた。 「高校生の通学鞄まで奪おうとか、世も末だよ」 と、店長はずいぶん立腹していたが、今回のことを受け、相当悩んだらしい。 「学生の子は夜シフト入れないとかも考えたんだけどね……。それぞれ事情があって働きにきてるわけだし……」  面接のときから思っていたけど、店長は俺達のことをすごく考えてくれる。この店で働けてよかったなあ、と思う。  ただ、過保護ではある。  だってそうだろう。シフトが同じで、家の方向が同じ者同士、できれば固まって帰宅することなんて謎のルールを作るのはやりすぎだ。 「俺の家、千冬の家の近くだし。またなんかあったら啓介に申し訳立たないし。だからできるだけシフト一緒に入るようにしてんの」  微笑みとともに兄ちゃんの名前を出される。うちにはあんまり来なくなったけど、兄ちゃんとは相変わらず仲がいいらしい。そういうのも全然見せてこない、この人にも兄ちゃんにもなんかむかつく。 「送ってくれなくても俺も男なので大丈夫ですー。なので、ストーキングやめてくださいー」 「やめませんー。先輩との帰り道、楽しいんでやめたくないですー」  足も速いし、強いのもわかったけど、この人のこの子どもっぽさを見ると、馬鹿なのは変わってないなと呆れる。 「ってかさ、俺、最近知ったんだけど、ヤギの挨拶って頭突きなんだって。知ってた?」  バイトを終え、夜道をふたり、ぶらぶらと歩く。その最中に史人さんの口から出てくるのは、やっぱり役にも立たなそうな情報ばっかりだ。 「なにそれ。なに目的?」 「知らない」  自分で言い出したくせに話題の締め方が雑い。けど史人さんのこの知ってても役に立たなそうな情報の数々を聞く帰り道が、最近俺はなんだか楽しみになってしまっていた。 「頭痛くないのかなあ」 「ヤギには快感なのかもね。ってか、俺達も作ろっか、俺達専用の挨拶」 「なにそれ」  史人さんの火影みたいな色の髪が、車のヘッドライトで白く光って見える。月夜に揺れるすすきの穂みたいで目が引き寄せられる。じいっと眺めていると、つと史人さんが足を止めた。 「おはようのときはこうする、とか?」  長い指がすっと伸びてきて、耳たぶに触れた。冷えた耳たぶに温かい指先がいきなり触れて、びっくりしすぎて体が跳ねてしまう。 「や、やめてよ、ってか、おかしいじゃん。耳たぶ触り合いっこしてんのとか。まだ頭突きのほうが自然」 「そかな。俺は耳たぶのほうがいい。千冬のここ、気持ちいいし」 「俺はやだ!」  ぷん、と顔を背けると、ごめんて、と笑って史人さんは通り沿いにあるコンビニを指差す。 「あそこで唐揚げ買ってあげるから、機嫌直して」 「……瀬戸内レモン味がいい」  膨れてみたり、駄々をこねてみたり。この人といると俺はいつもついつい可愛くない顔をしてしまうのだけど、そんな俺に史人さんは甘い。  弟に対する甘さなのかな、とちらっと思う。それが心地いい気もする。  ――本気にすんなよ、ガキ。  あんなふうに言われるくらいなら、最初からガキの顔をしておいたほうがいい。  コンビニで唐揚げを買ってもらって、ほくほくしながら食べる。まだ家までは少しあるけど、唐揚げと、隣にいるこの人の馬鹿話があれば、全然距離は感じない。  ただ、気に入らないことがあるとすれば。  ぶうん、ぶうん、ぶうん。  隣を歩く史人さんのポケットの中で唸る存在に気付き、俺はそれと気付かれないように眉を顰める。  史人さんがスマホを引っ張り出す。ちらっと流し見るその画面に書かれた名前は多分、「実弥」。

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