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第13話 「それは千冬には関係ない話だよね」
覗いたわけじゃなくてたまたま見えちゃっただけ。ただその「実弥」からの電話はふたりで歩いているとよくかかってきた。
けど、史人さんはその電話に一度も出たことがない。
誰なのだろう、実弥。
別にいいのだ。俺達はただ、店長に言われたからふたりで帰っているだけ。そこに意味なんてまったくない。だからこの人に誰から電話がかかってこようがどうでもいいんだけど、やっぱり気になる。
だってそうじゃないか? もしも彼女とかそういうのだったら、バイトばっかりしてないでちょっとは会いに行くべきだと思うし、電話だって出るべきだ。
「どした? 千冬」
こっちの気も知らないで史人さんが覗き込んでくる。一個ちょうだい、と無遠慮な手が俺の手から爪楊枝を奪い、唐揚げに突き刺す。
この人、俺と唐揚げ食べてる場合なんだろうか? しかも同じ爪楊枝、使っちゃってるし。
そういうのすごく……困る。
「電話、出なくていいの」
ぼそりと言うが、史人さんの動きは変わらない。唐揚げをむぐむぐと噛みしめている。
「彼女、でしょ」
ちょっとだけ非難するような声で言うその俺の横で、史人さんは手持ちのペットボトルのキャップを開ける。こくんと一口飲んだ痕、ふっと息が吐かれた。
「そだね」
……彼女なんだ。
自分で訊いたくせに、過ぎった感情はひどくどろっとしていて、ちょっと慌てる。こんな気持ちに今更なるの、おかしいのに。
「電話してあげないと」
「うん」
さっきヤギの頭突きについて語っていたときはするすると動いていた口が、やけに重そうだ。
「史人さんみたいな人と付き合ってくれる人、奇特だと思うから大事にしないとだめじゃん」
「……そだね」
「ってか、俺、帰り道ひとりだって全然平気だし、俺に時間使ってる暇あったら、彼女と会いなよ。大体、史人さんの学校、進学校だろ。受験勉強いいの」
なんだか口やかましい親みたいなことを言ってる気がする。史人さんもそう思ったのか、笑顔は完全に消えている。
ああ、こんなこと、別に言いたくないのに。なんで俺はこうもいろいろ余計なこと言っちゃうんだろう。そう思うのに止まらない。
「大体、史人さんの家、でっかいし、うちより金持ちじゃん。バイトなんてする必要、ないんじゃ……」
「それは千冬には関係ない話だよね」
投げ込まれた声はこれまで聞いたことがないくらい、乾いたものだった。
背中に汗が垂れるのと同時に、手の中で唐揚げのパックがじんわりと汗ばむ。
「あの……」
ごめんなさい。
即座にそう謝ろうとした。だって今の感じ、絶対、言っちゃいけないことだったんだ。どの部分が地雷だったのかはわからないけど、俺は言いすぎてしまったんだろう。
ああ、ほんと、我ながらかっとなると歯止めが利かないこの性格。だめすぎる。
「冷めるから食べな」
が、俺が謝罪する前に、史人さんの声からは棘が抜けた。そろそろと見上げると、唇の端をほんのりと上げて史人さんが笑っていた。
「あったかいうちが美味いからさ」
「うん……」
ごめんが言えないままの俺に、ほい、と史人さんが爪楊枝を戻してくる。促されるままに唐揚げに突き刺し、口に運ぶ。
口の中に放り込むとき、爪楊枝の先が舌にさらっと触れた。
それがなんだか妙に恥ずかしくて、同時に胸が熱くて、俺は俯いたまま黙々と唐揚げを食べ続けた。
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