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第15話 やっぱり怒ってんのかな
大人みたいに言って兄ちゃんはカレーを口に運ぶ。その兄ちゃんを眺めながら、俺はガチギレした史人さんというのを想像する。
普段の史人さんはふわっと軽い口調で話す。くそが! なんて、間違っても言いはしない。しない、けど。
――待てやこら!
俺がひったくりに遭ったとき、あのときだけは別だった。
あれは本気で怒っていたから? それくらい必死で俺のために頑張ってくれてたってこと……?
そこで俺は口許を片手で覆う。
だって俺は言ってしまったから。
――大体、史人さんの家、でっかいし、うちより金持ちじゃん。バイトなんてする必要、ないんじゃ……。
「兄ちゃん、ごめん、俺、部屋、戻る……」
「飯は?」
「あとで……」
「こら! 千冬! 片付かないからさっさと食べちゃいなさい!」
ドラマ観賞が終わったのか、母さんがリビングのソファーの上からぐりん、と首を捻じ曲げ、睨んでくる。あ、えと、うん、でも着替えたいから……とかなんとか言って俺はそそくさと階段を上る。
申し訳ないが、ごはんなんて食べられる気分じゃなかった。
どうしよう。どうしよう。俺、なんてこと言ったんだろう。
――それって千冬に関係ない話だよね。
明後日もバイトだけど、顔を合わせたとき、あんな声をまた出されたら……。
「うう……」
こういうときはどうするんだっけ。やっぱりちゃんと謝るべきだよな。
ぐるぐるしながら俺はスマホを引っ張り出す。バイトのシフトのこともあるから、バイトメンバー同士、メッセは送り合えるようになっている。ただ、史人さんと個人的にやり取りしたことはない。
いきなり連絡するのはやっぱり迷惑だろうか。でも……。
「ええい! ウザい、俺!」
失礼なことを言ったのならきちんと謝る! そうあるべきなのに、なにを俺はぐちゃぐちゃしているんだろう。いつもの俺らしくない。
というか……史人さんが絡むとなんで俺はこうもいつもの俺らしくなくなっちゃうんだろう。
肩を落としつつ、史人さんとのトーク画面を開く。なんの言葉も綴られていないそこをしばらく眺めてから、恐る恐る入力画面に言葉を打ち込む。
――史人さん、こんばんわ。千冬です。さっきはひどいことを言ってごめんなさい。
そこまで書いて悩む。ごめんなさい、とこっちは言えばいいけど、史人さん的には嫌な気持ちを思い出すだけじゃないだろうか。とはいえ、謝らないのもなんか違う。
迷った挙句、もう一文を追加した。
――唐揚げ、美味しかった。一緒に食べられてよかったです。
小学生の作文かよ、と語彙力のない自分にうんざりする。でもこれ以上どう書いていいかもわからない。迷いながらそうっと送信ボタンを押す。たったそれだけだけど、一仕事終えたみたいにどっと疲れた。
そもそも俺はあまりメッセをしない。いや、しないわけじゃないけど、返事が来ないからってやきもきするってことがあんまりない。喧嘩したときだって、小突き合いして解決が常で、メッセで相手の気持ちを探ったりなんてまずしない。
「千冬って顔のわりに男前なんだよな」
とは、兄ちゃんの言だけど、まあそうだと思う。可愛い顔だから性格も大人しいって思われるのが一番むかつくから、そう見られないように気を付けてきたのもある。
けど、今回はその男前気質を発揮することができなかった。
彼女から電話がかかってきても無視する史人さん。どうでもいい話は際限なくするくせに、自分のこととなると口が重くなる史人さん。
それが俺はなんだか無性に嫌で。その、嫌、を言葉にできなくて、いらいらのまま嫌味ったらしいことばかり言ってしまった。
あんなの全然、俺らしくない。粘着質で……陰湿で。けど、ああしか言えなかったんだ。今もそう。史人さんからの返事を待つしかできない。他の友達にだったら、「ごめん! 俺が言いすぎた! 許して!」って躊躇なく言えるのに。
なんであの人にはこんなまだるっこしいことしかできないんだろう。
わけがわからない。しかもいまだに既読にならないし。
あまりにも気にしすぎて手とスマホがくっついちゃいそうだ。その俺を咎めるみたいに、「千冬ー! ごはん食べちゃいなさいって!」と母さんのどら声が聞こえてくる。はーい……と気だるく返事をしながら着替え、俺はスマホを手にしたまま一階へ向かった。
カレーを食べている間もスマホを手元に置いていたけど、既読になることはなかった。
「やっぱ、怒ってんのかな……」
唐揚げ食べなって笑ってはくれたけど、本当は俺となんてもう話したくなくなっちゃったかも……。
夕飯を食べ終わり、浴槽に身を沈めながらもすん、とした寒さが這い上がってくる。ざわざわしてじっとしていられなくなる。いつもはそこそこ長風呂だけど、ゆっくりなんてしていられなくて、髪も体もいつもの二倍速で洗って出る。
どうせまだ既読にもなってない……。
「え」
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