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第17話 「秘めた愛」

 約束の朝十時。大時計の前に史人さんはすでにいた。腰掛ける目的で備え付けられている棒状のベンチ(ピコリーノっていうらしい。これも史人さんから聞いた)に腰を引っ掛けるようにしてもたれ、スマホをいじっている。その姿を俺はちょっと離れた位置から観察する。  再会する前の史人さんの私服は、ぱりっとしたカッターシャツにチノパン、色はパステルかベージュ、ライトグレーといったシンプルなものだったはずだ。けど、高校生になった史人さんのファッションはその真逆。  金茶の髪に黒パーカー、黒のバルーンパンツ。  派手で……尖っていて、ちょっとだけ凶暴で……近寄りがたい。 「あ、おはよ、千冬。なにそんな離れたとこにいんの」  俺に気付いた史人さんが顔を上げる。スマホを触っていたときは無表情だったのに、突然、温度のある顔になる。そろそろと近づく俺の目に映ったのは、史人さんが着たTシャツの柄。 「それなに? 花?」 「え? あ、これ? うん。花。エリンジウム」  白い地のTシャツの胸にでかでかと描かれていたのは、青白い小花の集合体だった。それを棘に似た形の葉が守るみたいに取り囲んでいる。あんまり見たことがない花だ。その謎の花をぽん、と史人さんは軽く掌で叩いた。 「なんで、その花?」 「好きなの。特に花言葉がいい。知ってる? エリンジウムの花言葉」 「……知らない」  また役に立たない豆知識がくるな。やれやれと呆れながらも俺の口許は綻んでいる。知ったところで使えないし、馬鹿みたいだなって思う話も多いけど、この人が教えてくれる情報は暖かくて嫌いじゃない。  もたれていたピコリーノから身を起こしながら、史人さんはスマホカバーをぱたんと閉じる。そうして、ポケットにぐいとスマホを押し込んで、こちらを流し見た。 「秘めた愛」  行こっか、と歩き出す。その背中について歩きながら思う。  なんでその花言葉、好きなんだろうって。  訊いてみたい。でも訊いていいのかな。というか……訊くのが少し怖い。  その花言葉が彼女に繋がっちゃう気がして。  って、俺には全然、関係ないはずなのに、なんでそんなこと思っちゃったんだろう。 「なにやってんの、行くよ、千冬」 「あ、うん、今」  慌てて追いかける俺に、史人さんがふっと笑う。その笑顔に胸がことり、と鳴いた。鼓動を押し隠し、俺は笑顔を作る。 「どこ行くの? 秘密ってなんで?」 「質問多いなあ。着いたときのお楽しみってほうがわくわくしない?」  言いつつ、史人さんが向かったのはバス停だった。ほどなくしてロータリーに赤と白にペイントされた市バスが滑り込んでくる。  行き先表示は、「岬美術館前」。 「え、もしかして……」 「お、わかった?」  ぷしゅーっと音を立ててバスの乗り口が開く。タラップを上がりながら史人さんが肩越しに振り返った。 「千冬が教えてくれた場所」

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