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第21話 「こういうの、これからもして、いい?」

 中学時代、なにかというと俺の肩に腕を回してきた史人さん。でも再会してからはそんなことはなかった。なのに、今、数年ぶりに肩を抱かれている。  なんだろう、これ。なんで俺、こんなに動揺しちゃってるんだろう。 「こういうのこれからもしていい?」 「は……え、あの、こういうって、どういう」 「メッセ、やり取りしたりとか、今日みたいにこうやって出かけたりとか。だめ?」  ……それ、どういう意味で言ってんの?  弟としてしたいの? バイト仲間として? それとも。  そこまで考えて俺は口許を覆う。だって……気付いてしまったから。  ……弟という関係も、バイト仲間という関係も、俺はどちらも望んでいないって。  いや、もっと言うなら、史人さんに言われたいって思っちゃってる。 「千冬?」  ……好きだからしたいって。 「あ、えと、あの」  史人さんは俺の肩を抱いたまま俺を見ている。まっすぐに俺だけを。その目を見たら怖くなった。  確かに中学時代、好き、とは言われた。でもこの人は言ったのだ。本気にするなガキって。  それが、すべてじゃないだろうか。  そもそも、この人はただ、こういうのこれからもしていい? と訊いてきただけ。そこに恋なんてあるはずがない。この人の俺への気持ちは弟としてのみ。それ以外あるわけない。にもかかわらず、その弟から「なんで俺とメッセしたいの? 弟だから? それとも?」なんて確かめられたらこの人はどう思うだろう。  そういうつもりじゃなかったのにウザっ、って却って距離置かれちゃわないか? 大体。 『実弥』  この人には、彼女がいる。  スマホの画面に繰り返し表示された名前が頭の中を過ぎる。  そうだ。しっかりしろ俺。彼女がいる人が、恋愛の意味でメッセしたり、出かけたりしたいなんて思うわけないじゃないか。  だからここは余計なことを訊いちゃいけない場面だ。訊かずに頷く。それ一択。そうじゃないと。  ……全部、なくしちゃう。  こんなふうに一緒にいて、笑える時間も全部。それは……嫌だ。  だって、俺、この人のこと……。 「いい、よ。時々なら」  ……好きだ。  胸の奥でわななくみたいに落ちてしまった声を必死に押し殺し、俺は横を向く。  相変わらず史人さんの腕は俺の肩を包んだままだ。その温もりがじわじわと体に沁みてきてどうしていいかわからなくなる。ああ、振り払いたい。でもこのままでいたい。  もう、どうしたらいいか、わからない。 「よかった」  ややあって俺に与えられたのは、より強い温かさだった。  包まれたままだった肩が、史人さんによって引き寄せられていた。 「ありがと、千冬。いっぱいメッセさせて」 「いっぱいは困る。俺、忙しいんだから」  ああもう。俺はなにしてるんだろう。  彼女持ちの人にこんなふうに言われて。しかも相手は俺を好きでもなんでもなくて。ただの遊び仲間としてしか思ってなくて。それがわかっているのに、離れたくないなんて。  なんだか涙が出そうだ。けど、泣いたら面倒臭いって思われちゃう。 「史人さん、俺、腹減った」  だから年下っぽい顔をあえて作り、見上げてみる。  可愛いとか、絶対思われたくないし、可愛いなんて言われたくもない。でも。 「ほんと、千冬って可愛いね」  この人には言われたい。言われてもいいって思ってしまう。 「可愛い言うなってば」  不満そうな顔を作り、そっぽを向く。その俺の頬を史人さんの指が突く。 「ごめんて。そしたら飯食おう。食べられるとこ、この中にもあるっぽいけど、どうする? 外、行く?」 「外行く」  美術館なんて静かなとこでこの人と並んでいたら、うまく顔作れなくていろいろばれちゃいそうだ。  そう思う間にもどきどきする心音に慌てながら、俺はそうっと史人さんの腕から抜け出す。 「い、行こ」 「うん」  こっちの気持ちも知らないで史人さんが笑う。  その笑顔はやっぱり眩しくて、俺はまたちょっと泣きそうになって、慌てて顔を背けた。

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