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第22話 「芹那さん、男だったんですね」
――おはよう。千冬、後で会おうね。
――今日食べた明太コロッケ、美味すぎだった。極旨カレー味も気になったから今度半分こして食べよ。
――千冬、おやすみ。
更衣室で学校指定のブレザーから、ハピロンのシックな制服に着替え終わった俺は、スマホの画面をさらっと指でなぞる。
そこには史人さんとのやり取りがずらっと並んでいた。
メッセ送ったりしたい、という言葉通り、史人さんは毎日のようにメッセしてくる。ほとんどがどうでもいい話題だ。挨拶と、今日あったことの感想。それと。
――今週、日曜、バイトの後、どっか行こ。
お出かけの誘い。
それに対し、俺はしぶしぶの顔をした文字を送る。
――宿題、いっぱい出てるけど、いいよ。
可愛くないなあと思う。でも自分の中でこうやって防波堤を築いておかないと、決定的なことを言っちゃいそうで怖い。
ほんと、どうかしてる。
「あー、四宮くーん、おはよー!」
声にはっとする。フロアに出てスプーンやフォークといったシルバーの補充をしていた手が滑りそうになる。危ういところで手に力を込めて顔を上げると、俺より遅れて出勤した史人さんが笑顔でバイトメンバーに挨拶しているのが見えた。
白いダウンライトの下で金茶の髪がきらきらして……綺麗だ。
「あー、ちふ、先輩、おはよ」
俺に気付いた史人さんが微笑む。俺は慌てて顔を背け、おはよう、と口の中で言う。
やりにくい。でも……なんか、胸の奥がくすぐったい。
好きな人がバイト先にいるってこういう感じなんだ。
まあ……向こうは彼女持ちだし、絶対的片想いなんだけど。
「あー、みんな、ちょっとキッチン集合ー」
店長の声に俺は慌てて気持ちを切り替える。背筋を伸ばしてキッチンへと向かうと、見慣れない男が店長の隣に立っていた。
背がめちゃくちゃ高い。史人さんも背が高いけど、その史人さんと並ぶかそれより高いかも。ただ史人さんと違って黒髪で、おでこもくっきり出た短髪だ。濃い眉と眼力ある目。きりっとしていてそのつもりがなくてもちょっと怖い印象を見る人に与えちゃいそうな。武道家とか格闘家とか、そんな印象のやつ。
「新しくバイトに入る東雄一 くん。いろいろ教えてあげてね。特にあー、芹那くん」
「は?」
思わず変な声が出てしまった。居並ぶみんなの目がこちらを向く。
「彼、高校一年なんだって。君もそうだよね」
「はあ」
「学年一緒だし、しっかり教えてあげてね」
丸顔でちょっぴり小太り。笑顔しか見たことのない店長。俺達のことをいつも心配してくれる優しい人だけど、さすがに店長をやってるだけあって、時々強引だ。しかも同い年は全員仲良くできると思っている節がある。
こいつと俺だと全然タイプ違う気がするけど。まあ、仕方ない。
はーい、解散、と店長が手を叩き、ホールスタッフの俺達はキッチンを出る。
「あー、と、よろしく。わかんないことあったらなんでも聞いて」
「はい」
こくんと東くんが頷く。俺よりも高い位置からじっと見下ろしながら。
ちょっとこっちが委縮するくらい圧のある視線だった。
「えー、と、ごめん。俺の顔、なんか、ついてる?」
「いえ。ただ」
ふるっと頭が振られる。切れがあって、本当に武道家みたいな動きだ。男らしくて、見ていて清々しい。表情は少ないけど、こういうタイプはきびきび働きそうだ。
なんて好印象だったのに、次の瞬間、俺は一気にこいつが嫌いになった。
「芹那さん、男だったんですね」
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