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第23話 「芹那さんってもしかして四宮って人と付き合ってるんですか」
「……は?」
こいつ、なんだって?
俺が顔をしかめたのを見ているはずなのに、東の顔は無表情のままだ。
「顔、すごく可愛いから女子かと。でも声聞いたら違ったから。ちょっとびびって」
「……女子がいいなら他の人に教育係頼むけど。どうする」
こういうことを言ってくるやつがたまにいる。けど、肩を怒らせて睨み上げるとたいていは平謝りしてくる。それは言われて嫌なことだとこいつにも教えるつもりだったが、東はやっぱり表情を崩さないまま首を傾げてきた。
「いや、俺、女子苦手なんで男でよかったです。よろしくお願いします」
ごめんとかすまんとか謝る気はないのか、こいつ!
「せーんぱい。どした?」
コーヒーサーバーを持ってフロアをラウンドしていた史人さんが声をかけてくる。テーブル番号をレクチャーし、お冷のお替りを注ぐよう東くんをフロアに送り出した直後だった。
「どうもしないです」
「顔、怖いけど? なんかあった?」
顔が可愛いからって女と勘違いされてた、なんて言いたくない。
唇を曲げながらカップをドリンクバーコーナーに補充する。さりげなくそれに手を貸してくれながら史人さんが顔を寄せてきた。
「帰り、唐揚げ買ってあげるから。機嫌直しな」
ああもう。怒っていたのに。そんなふうに宥められたらもういいかな、と思ってしまう。
「銚子しょうゆ味がいい」
ぼそっと言うと、オッケー、と史人さんが耳元で囁いた。そのままするっと俺の横を抜けてまたフロアに出ていく。
オッケーと言われたとき、さらっと耳の端をなぞった吐息に顔が赤くなってしまう。熱くなる頬を宥めながら高速で俺はカップを棚に並べる。そうしながら思ってしまった。
早くバイト終わらないかな、なんて。けど。
「なんか一緒に帰るようにって店長に言われたんですけど」
バイトが終わり、さあ帰ろうとロッカーのドアを閉めたところで東くんに言われて、俺は口をぽかんと開けてしまった。
「え、なんで」
「なんかここの国道、治安悪いからとか。そういう通学団みたいなの、ここあるんですか」
「あー、まあ。ひったくりに遭ってさ、俺が」
「マジっすか」
表情がなかった顔に驚きがわずかに走る。
「大丈夫だったんですか。ひったくりなんて」
「あ、うん。ふみ、いや、四宮さんが一緒にいてくれたから」
史人さんはまだフロアから戻ってきていない。そろそろかな、とちらっとフロアを窺うと、四宮、と呟いてから、ああ、と東くんが目を細めた。
「あのイケメンの人ですよね。あの人、そんな強いんですか?」
「あ、えと、うん。すごかった。自転車追いかけてって、鞄、取り返してくれた」
話しているうちにあのときの気持ちが胸にせり上がってきた。
相手がどんなやつかもわからないのに、無茶して。しかも史人さんは、
――やられたのが千冬だったから、なんかこう、かーっとなって。
なんて、言った。
あの声を俺は多分、ずっと忘れられないと思う。
「芹那さん」
物思いにふけっていた俺の前にぬっと顔が突き出され、我に返った。いけない。こいつがいたんだった。
「あー、ごめん、あの、なんの話だっけ。そうだ、一緒に帰るって話だったよな。うん。店長が言うなら……」
本当はちょっと嫌だった。こいつがいたら唐揚げ買ってもらえない。って別に唐揚げが目当てってわけじゃないけど。
「芹那さんってもしかして四宮って人と付き合ってるんですか」
いきなり言われて……完全に不意を突かれた。
「はっ……?! なん、でそうなんの?!」
「いや、顔真っ赤だし。俺が一緒に帰るの嫌そうだったんで。もしそうなら俺、遠慮しようかと」
「いやいやいやいや! そんなわけないじゃん! たまったま帰る方角が一緒で、同中で、兄ちゃんの友達ってだけの人! それ以外なんもないから!」
そうだ。なんにもない。なんにも、ない。
「そうなんですか?」
「当たり前だろ! あんなチャラそうな人! 付き合うとかそんなのあるわけないだろ! 願い下げだってば!」
言いかけたその俺の背後で、ドアがかすかに軋む。振り向いて凍りついた。
「おつかれ、東くん、と先輩」
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