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第24話 「可愛いとか言いやがるから」

 にこにこしながら史人さんが更衣室に入ってくる。完全に蒼白になっている俺を無視し、ロッカーを開ける。さらっとベストを脱ぎ、カッターシャツのボタンを外す。話しかけてくんな、と言いたげな気迫が背中から漂ってきておろおろしている俺を尻目に、着替えを終えた史人さんは、ぱたん、とドアを閉じるとこちらを振り向いた。 「帰ろっか。ふたりとも」  笑顔が怖すぎる。  俺を挟んで右側に東くん。左側に史人さん。その状態で夜道を歩きながらさっきから俺は左側を盗み見ている。が、左側の彼は俺には一切視線を向けず、俺を飛び越えて東くんにばかり話しかけている。 「そっかあ、東くん、空手やってたんだ。道理で体締まってると思った」 「四宮さんこそ鍛えてますよね。さっき芹那さんに聞きました。ひったくりから鞄取り返したって」 「あー、でも、千冬にも怪我させちゃったから、あんまり誇れる話じゃないよ」  さらさらっと言って、史人さんがこちらをやっと見る。けど目が笑っていない。  まずい、怒ってる。チャラいとかいろいろ言っちゃったもんな。どうしよう、と焦っている俺の右側で東くんが首を傾げる。 「ちふゆ?」 「俺の、名前」 「あ、そうなんですね」  東くんが頷く。相変わらず表情はない。この無表情も今日一日見ていて少しは慣れた気がしたけど、史人さん同様、思いもよらない言葉が飛んできそうでちょっと怖い。  怖いふたりに挟まれての帰路。なんだこれ。びびっている俺の横で東くんがぽつんと言った。 「千冬って名前、芹那さんに似合いますね。すごく可愛くて」  なんだって?  顔が引きつる。と同時に、俺の左側で史人さんが吹き出した。 「ちょ! なんで笑うの! 史人さん!」 「だって」  可愛いと言われたことより、この人に笑われたことのほうが苛つく。しかも全然笑い止む気配がない。一体いつまで笑えば気が済むんだろう。  いらいらする俺を尻目に、ひとしきり笑った史人さんが、はああ、と大きく息をついた。 「千冬の可愛さなんて全然わかってねえくせに、東くん、可愛いとか言いやがるから。なんか面白くて」 「……え」

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