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第26話 距離
「こら、東! 三番テーブル、バッシング終わってなーい!」
「バッシング、ってなんだっけ」
「皿下げて、テーブル現状復帰すること! この間教えただろ」
「そうだ。そうだった。ごめん、千冬」
東がバイトに入って二週間経った。空手をやっていた東は礼儀作法についてはきっちりしていたものの、接客は初めてだ。だから教育係として丁寧に教えていたのだけど、「厳しく言ってくれ。俺、そうじゃないと覚えないから」と言われて遠慮を捨てた。
今はぽんぽん言えるこの関係がちょっと楽しくすらなってしまった。
「全中って、空手の全国大会だろ? それ行ったの?」
「まあ。けどベスト16にも入れなかったから」
「いやいやいや! 行けることがすごいじゃん。俺、バスケやってたけど、ほぼ補欠でさあ」
「ポジションどこだった?」
「シューティングガード」
「スリーポイントシュートうまくないとできないとこだよな。千冬、すごいな」
バイトの休憩時間も楽しい。東はぶっきらぼうながら、まっすぐで、裏表がない。信用が服を着て歩いているみたいだ。俺も嘘がつけないタイプだから、うまは合う。だからか、それほど一緒にいないにも関わらず、まあまあ深い話もするようになった。
「寿命診断アプリって知ってる? 名前と生年月日を入れるとあなたの寿命は残り何年ですって出るやつ。今、うちの学校で流行ってて。けど、それが原因で学校来なくなったやついて」
「え、どゆこと?」
「あれって死亡予定日と死因まで出るんだ。その死亡予定日が偶然、まったく同じで出たやつらがいて。しかも死因が『心中』って出ちゃって。それ見たやつらが面白がってからかうようになったんだ。お前ら、ラブラブじゃーんとか言って」
「うわー……そういうの俺嫌い」
想像して俺は鼻の頭にしわを寄せる。東も同じような顔をしていた。
「俺も。だから学校来なくなった女子の見舞いに行った。一応、俺、クラス委員だし。そしたら今度は俺とその女子のこと、いろいろ噂するやつが出てきて。まあそんなの俺としてはどうでもいいんだけどさ、あっちには嫌な思いさせたかもなあって落ち込んでた」
多分、こいつはクラス委員じゃなかったとしても、学校に来なくなったやつがいたら、男女関係なく見舞いに行くと思う。それくらい真面目で、人との垣根が低い。
「余計なこと、しないほうがよかったのかもなあ」
「そんなことないだろ」
だから、そんな東がしょんぼりと言うのを聞いて俺は思わず言ってしまった。
「確かに噂されるのは嫌だったかもだけど、気にかけてくれるやつがいるって心強いものじゃないか? 俺だったらうれしいよ」
「そう、か?」
「そうだろ。休んでると、置いて行かれるような気になるじゃん。勉強とかクラスの空気とか。けど自分がいなかったときのことを教えて、並走してくれるやつがいるってありがたいんじゃないかなあ」
「そう、だといいな」
俺は面倒見がいいほうでもないし、相談相手としては不十分だったかもしれないけど、それでも東がほっとした顔をしてくれて、こちらも救われたような気がした。
ただ……俺は気になっていた。俺がそうやって東と仲良くなればなるほど、史人さんとの距離が開いていっていることが。
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