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第27話 実弥
まず、あれほどあったメッセもほぼ来なくなった。バイトで顔は合わすし、会話もするけど、
「先輩、キャッシャー俺入るんで、いいですよ」「ダスター、新しいの出してきます」「オーダー、俺行きます」……こんなのばっかり。
前みたいに意味なく寄ってもこないし、笑いかけてもくれない。
多分、怒っているんだと思う。ロッカールームで俺が言っちゃったことを。
わかるけど、でも、俺は……。
「千冬、レシート紙切れした。換え方教えて」
もやもやする俺を東が呼ぶ。笑顔を張り付け直して俺は東に向き直る。
いけない。今は仕事に集中しなきゃ。バイトったって、お金もらってるんだし。
気合を入れ直し、俺はキャッシャーへと向かう。レジカウンターの下から巻き尺みたいな感熱紙を取り出し、レジを操作する。
「まずさ、ここ、これ押すと、蓋開くからここから芯取り出して……」
「あの」
メモ帳片手に覗き込んでくる東とともにレジに屈みこんでいると、カウンターの向こうで声がした。お客様が入ってきたのに、夢中で作業してしまっていたらしい。
慌てて顔を上げる。高校生らしい女子がふたり、こちらを見て立っていた。
「も、申し訳ありません! ご案内します」
「あー、いえいえ。っていうかあの」
ふたりのうちのひとりが口を開く。栗色のふわふわロングヘア―。ぷるっとした唇。上を向いた睫毛。華やかな美人って感じの人だ。
その彼女の制服を見てふと気付く。
ライトグレーのブレザーに臙脂色のネクタイ。
史人さんと同じ学校の人だ。と、悟った俺の目の前で、艶めいた唇が動いた。
「四宮史人、今日、います?」
……呼び捨て?
「四宮さんの知り合いですか」
声を発したのは俺の隣にいた東だった。ちらっとホールに目を向け、躊躇なく声を上げる。
「四宮さん、お客様です!」
水差しを手にした史人さんが怪訝そうにこちらを見る。その目がふわふわロングの彼女を見てふっと見開かれた。長い足を高速で動かしてこちらへと歩み寄ってくる。
「東くんさ、呼ぶときは叫ばないでインカム使って……ってか、なに来てんの」
前半は東くんに、後半はお客様である彼女に言う史人さんの眉間にはしわが寄っていた。
「なにそれ~。いいじゃん。史人が働いてるとこ、見たかったんだもん」
ぷっと頬が膨らむ。メイクや髪型は大人っぽいのに、表情は子どもっぽい。アンバランスだけど目が離せなくなる人だ。
「実弥、お前なあ……」
名前を聞いたと同時にくらっとした。とっさにカウンターの端を掴んで体を支える。その間も彼女は史人さんに話しかけ続けている。
「ってか史人、唇、乾燥してる。待って。リップ塗ってあげるし」
「いいって。そういうの」
「良くない。あたしの王子様ですから。史人は」
「み~や~。バイトの邪魔しちゃだめだって」
彼女の連れらしい女子が声を上げる。こちらは実弥さんより背が高くて、長い黒髪をきりっと高い位置でポニーテールにしている。メイクもほぼしてなさそうだけど、目鼻立ちがくっきりした美人だ。
「ごめんね。この子、どうしても行くって言うから」
「いいよ」
黒髪のほうにひらひらと手を振り、史人さんは彼らを先導してフロアへと戻っていく。
その間、一度もこちらを見てくれなかった。
当たり前といえば、当たり前なんだし、傷つくのもおかしいのに。
「千冬?」
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