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第34話 これ以上、特別だなんて思わない。

 さすがに休憩室で話す話じゃないと通用口の外に出たところで、頭を下げる。東は気まずそうに視線を足元に落としていたけど、ややあってふるっと首を振った。 「いや、悪いの俺だし。なんか出しゃばりすぎた。四宮さんの言う通りだとは思う。俺がどうこう言うことじゃないし……嫌な思いさせた。ごめん」 「謝んなよ。嫌な思いなんて俺は全然してないよ」  こいつに謝られたらどうしていいかわからなくなる。そもそもだめなのは俺と……あの人だ。 「心配してくれてありがと。でも、大丈夫だから。俺と史人さん、普通に友達だから」 「友達?」 「そう、友達。だからお前が心配するようなこと、ほんとないから」 「……千冬はそれでいいの?」  問われて一瞬、表情が止まってしまった。でもすぐに復旧して、俺は笑顔を作る。 「当たり前だろ。ノープロブレムだって」 「じゃあなんで彼女見てあんなショック受けてた? 友達の彼女見てあの顔はしないだろ」  痛いところを突かれて俺は俯く。数秒、お互い無言になった。東からはなにかを言おうとして迷うみたいな気配が漂ってくる。  ややあって落ちてきたのは、溜め息だった。 「ごめん。俺、またお節介してる。そんなの言われたって困るよな。でも心配だから。その、好きってのもあるけど、バイト仲間だし。ただ……」  うーん、と唸って東は短髪をがりがりと掻く。 「千冬があの人好きなの、さすがの俺にもわかったから、その、なんとかしてやりたいって思って。しんどそうな顔、見たくないし」  ……なんで俺は、こいつじゃなくて、あんなわけわからない人が好きなんだろう。  こいつはこんなにいいやつなのに。 「いーの。友達で十分って思ってるからさ」  こんなまっすぐなやつに隠し通すのも誠意がない気がした。だから史人さんへの気持ちを出して言うと、東は少しだけ痛そうな顔をしてからそろそろと口を開いた。 「……俺にできること、ない?」 「ないよ。ってか、俺がこの件でお前になにかしてもらうのってすごくひどいことだって思う」  きっぱりと言うと、東がまた黙った。数秒、そのままでいてから、はあああっと深い息が吐かれる。深いだけではなく、バイト中には聞いたことがないレベルの重すぎる溜め息で、俺はちょっと怯む。 「え、あの、なに?」 「そういうとこなんだなあ、って思ったら、今頃ずんっときた」 「そういうとこ?」 「好きって思ったとこ。顔可愛いのに、芯がしっかりしてるそのギャップが好きなんだなって」 「……可愛いはやめろって」  どいつもこいつも可愛い可愛い言いやがって。  ただ、ちょっとうれしかった。顔じゃないところを見てもらえたことが。  ――俺、顔のことでお前のこと好きって言ったわけじゃないよ。  遠い日に史人さんが俺にくれた言葉を思い出す。  史人さんもそうだった。あの人も顔以外を見てくれた。  東と史人さん。なにが違うんだろう。同じように顔じゃないところを見てくれたのに。なんで俺はこんなに史人さんばかり見ちゃうんだろう。  そこがまったくわからない。その意味で俺は全然、芯がしっかりしてなんてない。  それが情けなくもあったけど、ひとつ決めていることがある。  史人さんのことを特別だってこれ以上思わないってこと。  だって友達なんだから。俺と史人さんは。それ以上でもそれ以下でもないんだから。  大丈夫。  心に誓って俺は東に微笑みかけた。ごめんな、と詫びた俺に、東は苦笑いにちょっと痛みを足した顔で、いいよ、と言って俺の背中を叩いてくれた。

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