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第37話 「なんか千冬となら、大丈夫って思えてくる」

「あ、えと」 「よくは行かない。父親に連れられて行ったことがあるくらい」  一瞬、複雑そうな顔をされたから、俺の予感はあながち的外れではなかったらしい。けど、表情はすぐに笑顔へと変わり、史人さんは穏やかに答えてくれた。 「一流のサービスを子どものうちから知っておけ、みたいな家だから。まあでも、バイトするようになって、叩き込まれたこともまんざら無駄じゃなかったかもな、とは思えたけど」  この人が家のことを話すなんて初めてだ。隣を歩く史人さんを見上げると、視線に気付いたのかこちらに顔が向けられた。 「ってかさ、再会して驚いただろ。髪色、ずいぶん変えたし。千冬もわかんなかったもんね、俺だって」 「うん」 「これもまあ、反抗の一種。バイトしてんのもそう。うるさいからさ、俺の親。特に父親には他人からどう見られるのか意識しろとか子どものころから言われてて。中学くらいまでは従ってたけど、なんか高校入ってこのままずうっと親の言いなりになんのかと思ったら全部が嫌になって」 「そう、だったんだ」  今日はどうしてこんなに話してくれるんだろう。気になったけど、俺は黙って相槌だけを打った。  今は耳を傾けたかった。 「啓介には笑われたけど。高校デビューにしても派手すぎだろって。千冬もそう思っただろ?」 「ああ、まあ。でも」  確かに最初は二度見しちゃうほどだった。けど……派手な髪色になっても、服装が変わっても、史人さんの表情は変わらなかった。優しくて、楽しそうで、ちょっと軽くて。それでいて、時々寂しそうで。  昔とおんなじ、史人さんだった。 「つい見ちゃう感じは前と変わって、ないよ」  中学時代、校庭をふと見下ろしたとき。ランニングをしていた史人さんの髪色は他の皆と同じ黒髪で、着ている服だって見慣れた体操服だったのに、俺の目は一瞬で史人さんを見つけた。  それは今もそう。フロアに立っているとき。髪色のおかげもあるけど、史人さんの姿はほかの誰よりもくっきりと俺の網膜に刻まれる。  それってやっぱり俺がこの人を特別だと思っているからだろうか。 「つい目で追いたくなるとこ、千冬もずっと変わんないよ」  低く呟かれた声が俺の頭の中に浮かんだ声を遮る。ふっと目を上げると、史人さんもこちらを見た。 「なんか千冬となら、大丈夫って思えてくる」 「大丈夫ってなにが?」 「うん」  うん、と言ったきり史人さんは言葉を発しない。佇む俺達のそばを人が通り過ぎていく。ざわざわと耳をなぞるのは人の声。でもそのざわめきが俺は邪魔で仕方なかった。だってこの人は今、なにかを言おうとしている。 「史人さん」  あっち行こ、と腕を取ろうとしたとき、逆に二の腕を掴まれた。 「千冬、俺」

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