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第40話 告白

 けど、軽い声で言われて、思わず頭を上げてしまった。兄ちゃんは照れ臭そうに頬を掻いてこちらを見ている。 「でも小学校のときからずっと一緒だったから、告るとか今更できなくて。そのままずるずる友達のまんま。ながーい片想い……ゲイ云々もさ」  照れ笑いをしていた兄ちゃんの手が、すっと伸びて俺の頭に置かれる。 「それと同じじゃね? やめようって思ってやめれるもんじゃないと思うんだわ。無理してやめようとすれば、苦しいだけなんじゃないかって思う」 「でも、史人さんには、彼女いるよな。実弥さんがそうでしょ」  まるで俺の気持ちを正当化してくれるみたいに兄ちゃんは言ってくれる。でもそれに甘えるわけにはいかないと思う。  こんなDMを送ってくるくらい、実弥さんは傷ついたんだ。俺のせいで。だとしたら兄ちゃんに慰められてていいわけないじゃないか。 「実弥さんからしたら……やっぱり」 「実弥は史人の従妹でファン。彼女じゃない」  けど、投げ込まれた言葉が衝撃的すぎて、俺は思いっきり口を開けてしまった。 「え、彼女、じゃないの? ってか、ファン? は? なに?」 「いやだから、子どものときから史人のこと、『私の推し』って言ってた女なの。もちろん男としても好きだったんだと思うよ? 告白、何回もしてたし。けど、史人は毎回断ってた。はっきり言ったとも聞いた。自分はゲイだから好きになんないって」  でも、史人さんは、彼女なんでしょ、と訊いた俺に、そうだね、と言った。なんでそんな嘘……。  額を押さえる俺の前で兄ちゃんも、意味わかんねえよな、と顔をしかめている。 「史人の家、兼人さんのことがあってから史人のこと、縛るようになったんだよ。お前は大丈夫だろうなって根掘り葉掘り訊かれて、読んでる本とかもチェックされるようになったんだって。そういうのに史人、ほとほと参ってた。だんだん、自分がおかしいのかなって言い始めてさあ、そんなことないって何度も言ったんだけど」 「うん」 「悩んでた史人に実弥が提案してきたらしい。お父さんにいろいろ言われないで済むように、彼女役してあげるって。一緒にいたらゲイじゃなくなって、生きやすくなるかもしれないよって。で、それを史人も受け入れた」  ……なんだ、それ。 「そんなの変だろ!」  そんなこと言われて、史人さんはどんな気持ちになったんだろう。自分がおかしいって言われたみたいで絶対、苦しかったはずなんだ。なのに、史人さんはその実弥さんの提案を受け入れた。  それくらい追い詰められていたってことだろうか。  ぐるぐるする俺を兄ちゃんがじっと見る。いけない、兄ちゃんの存在を忘れていた。慌てて顔を上げると、兄ちゃんが軽く咳払いをした。 「あいつが実弥の提案を受け入れたのって……多分、告白のせいだと思う」 「告白?」 「実弥が史人の彼女のふり始める少し前、中二のときに、あいつ告白したんだと。すごく好きなやつに。けど……付き合ってって言ったとたんに、自分の気持ち押し付けたら相手に迷惑かもって怖くなったらしい。相手、ゲイってわけじゃなかったっぽいから。だから結局、ごまかして告白なかったことにしちゃったんだって。実弥に彼女役頼んだって話聞いたのは、その後」  ちょっと……待ってくれ。  中二。付き合ってって言った。ごまかしてなかったことにって。  それ……。  俺は思わず、口を片手で覆う。  ――千冬は俺が千冬に付き合ってって言ったら、どうする? 「ごめん、あの、そのすごく好きになったやつってどんな、人?」  兄ちゃんが黙り込む。がりがりと頭を掻いた後、おもむろに顔が上げられた。 「年下で生意気だけど、おもろ可愛いやつだってさ」  ――あー、もう、可愛い。なんでそんなおもろ可愛いのかね。お前。

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