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第42話 対決

「実弥には、文句あるなら史人に直接言えって俺から連絡しとくよ」 と、兄ちゃんは言ってくれたけど、俺はそれを丁重に断った。  確かに史人さんと実弥さんの問題なんだけど、事の発端に俺がいた可能性がある以上、兄ちゃんに甘えるのはやっぱりだめだって思う。  とはいえ、こんなこと勝手にやったら絶対に史人さんに怒られる。嫌われちゃうかもしれない。  そう思いながらも俺は指を動かす。開いたのは、DM画面。  ――史人はゲイやめたの。だからもう近づかないで。  送られてきたメッセージの後に、俺は言葉を投げ落とす。  ――ごめんなさい。無理です。  ほどなくして返信があった。  ――はあ? 史人は私と付き合ってんだけど。なのに、ふたりで出かけたりしてるよね。そういうのやめてって言ってんの。  ああ、そうだ。そうなんだ。そう思っていたから俺だってブレーキを踏まなきゃって思っていた。  けど、全部知っちゃった今は踏めない。踏みたくない。  ――彼女のふりだって聞きました。もしそうなら実弥さんがこんなふうに俺にDM送ってくるのはやりすぎだって思います。近づいてほしくないかどうかは史人さんに直接訊いてみたいって思うので。すみません。  それを送ったところで、返信は途絶えた。  言いすぎてしまったろうか。でもやっぱりもう、黙ってなんていられない。ただ……とぐるぐるしていた数日後の放課後だった。 「芹那ー、なんかお前呼んできてくれって、他校の女子に頼まれたんだけど」  月曜日の今日はバイトだ。でも掃除当番とかぶってしまって俺はちょっと慌てていた。教室の後ろへと固めていた机達を元の場所に忙しく戻しながら、声をかけてきたクラスメイト、田中を見る。 「他校の女子?」 「そー。あれ榊学園の制服じゃないかなあ。めっちゃ胸でっかい美人! どういう関係? もしかして彼女?」  容姿を聞いたとたんに顔から血の気が引いた。机にかけていた手にきゅっと力を込める。  なんで俺がこの学校だってわかったんだろう……と疑問が浮かんだけど、考えてみれば、俺のアカウントさえあっさり探り当てるような人だ。兄ちゃんも彼女と顔見知りみたいだったし、俺が通っている学校がどこかを見つけ出すことはそれほど難しくもなかっただろう。  だから問題は、なんで、じゃなくて、どうするか、だ。 「悪い。俺、行かなきゃ。田中、今度当番代わるからあと頼める?」 「お、おう、いいよ~」 「ありがと」  俺の険しい表情に事態の深刻さを読み取ったのだろうか。たじろぎながら田中が頷く。短く礼を言って、俺は通学バッグを引っ掴み、教室を出た。  途中、ハピロンに電話して、遅刻すると伝える。校門の前に走っていくと、予想通り、あの人がいた。校門脇の門柱にもたれ、下校中の生徒達を鋭い目で眺めている。この間ファミレスに来たときは、砂糖菓子みたいな笑顔を浮かべていたのに、今日の彼女にはそんな空気は一切ない。びっしりと目を覆う睫毛の奥の目は尖っていて、視線だけで刺されそうだ。  ちょっと怯んだ。でも、逃げるわけにはいかない。  ここで引いたら、なんにも変わらない。  俺が近づくと彼女はすぐに気が付いた。門柱から背中を離し、大股で近づいてくる。チーターが獲物を見つけたみたいな俊敏さだった。 「見つけた。芹那千冬」

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