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第51話 「らしくない」
史人さんがバイトに来なくなった。
といってもずる休みではなくて、しばらく勉強に集中したくて、という理由だったらしい。
「四宮くん、榊学園だもんねえ。シフト入りすぎとは思ってたんだよね」
相変わらず店長は人がいい。学生さんを雇うってのはそういうこと、と割り切っているのか、慌てる素振りもなかった。
ただ、俺はというと、もちろん店長みたいに落ち着いてはいられなかった。
史人さんがバイトを休む理由。それはやっぱり、俺のせいだって思うから。
「千冬、大丈夫?」
あんまりミスをするとまた怒られる。気を張って仕事をしていたせいか、すっかり疲れてしまった。
バイト終わり、更衣室に備え付けられた長椅子の上でぐったり寝転がっていると、東に心配された。
「あー、ごめんごめん。ちょっと疲れちゃって」
「千冬もテスト勉強大変なのか? でももう期末終わってるよな」
「そだな、先週終わったから……」
「もしかしてあれ? 来週だろ。接客コンテスト。練習してる? 四宮さんと」
気安い口調で問いかけてくる。その様子にはなんの気負いも緊張もない。
こいつはもう平気なのだろうか。俺に好きと言ったそのことを、自分の中で消化できたのだろうか。俺よりも大人びているから、そうなのかもしれない。俺もそれくらい切り替えるべきなのだろうけど。
「俺、やっぱりガキだああ……」
「え、なに、どした?」
ベストを脱ぎ、学校の制服に着替えながら東が振り返る。ちなみにこいつの学校は黒の詰襟だ。俺のところみたいに紺ブレ、赤と白のチェックネクタイみたいな色の多いタイプではない、モノトーンでまとめられたそれは、東に似合っていて大人っぽい。羨ましい限りだ。
「いや……大人になりたいって思っただけ。俺、いつも突っ走ってろくなことしないから。もっとこう、寄り添ってうまいこと言えたら、嫌な思いも怖い思いもさせないで済むのにって」
東が着替える音だけが返ってくる。ああ、俺も着替えなきゃ、とのろのろと体を起こしたとき、なんか、とぽつんと東が言った。
「そういうのできるの、千冬じゃない気がする」
「え、どゆこと?」
「だから、裏表なく、思ったまんまに言うのが俺の知ってる千冬だから。気遣いして言いたいこと我慢してるのはらしくないというか」
「……俺のこと、馬鹿って言ってる?」
「なんでそうなるんだよ」
呆れた顔がこちらに向けられる。襟元のホックを留めながら、ぱたん、とロッカーのドアを閉じ、東が言った。
「前に俺、千冬にクラスの相談したよな。ほら、寿命アプリの」
「学校来なくなっちゃった子がいるって話?」
「そうそれ。あの子さ、学校来るようになったんだよ」
鞄片手に東が近づいてくる。座る俺の隣にすとんと東が腰かけ、長椅子がぎいっと鳴いた。
「その子に言われた。東くんのおかげで、学校怖くなかったって。俺的には俺とのこと噂されて却って来れなくなるんじゃないかって不安だったから、そのことも訊いてみた。そしたら」
「うん」
「噂は確かに気まずかったけど、それでも心配してくれた東くんの気持ちがうれしかったから平気、って言ってもらえた」
照れ臭そうに東が笑う。陰鬱な気分を忘れ、俺も微笑んでしまった。
「よかったな。気にしてたもんな、東」
「うん。でもこれ、千冬のおかげだから」
「俺?」
首を傾げる俺に東は大きく頷く。
「千冬言ってくれただろ。俺がやっていることは余計なことじゃないって。それがあったから、俺、見舞いも続けられた。あの子にも学校に来てもらえた」
「そんなことないだろ。東の誠意が伝わったってだけの話だよ」
俺は思ったまま言っただけだ。行動したのは東で俺が感謝されるのはおかしい。その俺に向かって東はゆっくりと首を振った。
「計算とか打算とか世の中にはいっぱいあるし、クラスの中でも思ったことと違うことを口にする空気ってあるだろ。本当はそんなこと思ってないけど、みんなに合わせておかなきゃみたいな。でも千冬にはそれがない。だから信じられるし、俺も前に進もうと思える。迷っている人間にとって、そういうやつって貴重なんだよ。多分、こういうこと思ってるの俺だけじゃないって思う。だから」
ぽん、と東の手が俺の背中を叩く。太い眉の下で、一重の目が柔らかく細められた。
「なに悩んでんだか知らないけど、大人になんてなろうとするなよ。そのまんまでいればいい。俺はそう思うよ」
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