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第57話 開始

 フロアは通常の店舗みたいな喧噪に満ちていた。審査のためとはいえ、この再現度はすごい。業界の中でもハピロンの業績は好調と店長から聞いていたけど、接客コンテストにこれだけ力を入れているのだ。その本気度からすればハピロンが人気店なのも不思議じゃないかも。  特別なことをする必要はない。いつも通りの接客を。そう説明を受け、俺達はフロアに出る。耳にはスタッフ同士で連絡を取れるようにインカムを装着。オーダー用のハンディも当然普段使っているものと同じタイプ。  大丈夫、ここはいつもの店。バイト先のハピロン菊塚店。  念じながら動いたおかげか、今のところ失敗はしてない。 「いらっしゃいませ。何名さまですか?」 「三人です」 「かしこまりました。こちらへどうぞ」 「えー、窓際がいーい。窓際じゃなきゃやだ~」  ……子ども役ってことなんだろうけど、大人が駄々こねる演技はさすがにやりすぎだと思う。 『先輩、三番卓、バッシング終わってる。お通しして大丈夫だよ』  ただ、不自然さに戦きながらも、俺が冷静に対応できているのは、インカム越しに聞こえてくるこの声のおかげかもしれない。 「了解。助かった」  お客様を先導して歩きながら小声で答える。無線の向こうでひっそりと史人さんが微笑んだ気がした。 『七番卓、ハピロンステーキあがったよ』  キッチンから連絡が入る。すぐさま取って返し、シルバーと合わせてじゅうじゅう鳴く鉄板をお客様の元へと運ぶ。 「お熱くなっておりますので気を付けてお召し上がりください」  説明して鉄板をお出しして次へ。けど、その直後だった。 「あっつ!!!」  突然悲鳴が聞こえてきて俺は飛び上がる。見ると、先程俺がハピロンステーキを出した席の男性が、ぎょろ目でこちらを睨んでいた。 「おい! 鉄板熱すぎるんだけど! 責任者出せこのやろー!」  ……え。  ちょっと待て。こんなクレーム対応まで審査されるのか? 「申し訳ありません! お怪我はありませんでしたか!」 「ありませんでしたか、じゃねえよ! 口、火傷したんだけど! 負傷させられたんだから、ここの支払いはなしでいいよな? な? ぼくちゃん、いいよな?」  なるほど、他のチームがどんな様子か事前に見られないようにしたのは、こうしたトラブルを意図的に起こすつもりだったからか。ようやく合点がいった。それにしても。  ぼくちゃんってなんだ! この人、ノリノリじゃん! 「そもそもこんなあっついのもはや凶器だから! 可哀想な俺の唇! こんなんじゃ明日のデート、キスもできないだろうが!」  すごい、ディテールがしっかりしている、と驚嘆してから俺は我に返る。感心してる場合じゃなかった。こんなときは……ええと、どうするんだっけ?  混乱している間にも男性はヒートアップしていく。そうされて、余計に真っ白になった。申し訳ありません、となんとか言ったとき、俺の傍らで空気が動いた。 「お客様、こちらを」

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