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第63話 「くれない?」
整った顔で切なげに言われ、しばらく惚けてから、俺は慌てて首を振る。
「え、え、え? 俺、どこも行かないよ?」
「どうかな。東くんみたいに千冬の良さを見つけちゃう人はいっぱいいるから」
「ほいほいついてくわけないじゃん!」
「唐揚げ買ってあげるよって言われたら?」
「いーかーなーい!」
もう! 小学生じゃあるまいし! ぷりぷりしている俺の頬を史人さんの指がそうっと撫でた。頬骨を確かめるようなそんな手つきに俺は膨らんでいた頬をしぼませる。
やっぱり冷たいのに熱い指だ。どうしていいかわからず顔を伏せようとした俺の顎が、史人さんによって掬い上げられる。覗き込んできた史人さんの目は、潤んでいた。
「じゃあさ、くれない?」
「なに、を?」
「どこも行かないよって証」
すぐそばで囁かれて、どきっと胸が鳴ると同時に、隣に座っていた史人さんがすっと腰を滑らせ、距離を詰める。
「ぎゅって、して。俺のこと」
肩と肩がくっついている。温もりとともに伝わってきたのは、かすかな震えだった。その震えを感じたら、迷いもなにも全部吹っ飛んでいた。
勢いよく立ち上がり、史人さんの前に回り込む。座ったままの史人さんがこちらを見上げてくる。その史人さんの足の間に体を進めた俺は、両腕を伸ばして大好きな人の頭を胸に抱え込む。
突然のことに驚いたのか、史人さんが身を固くした。
ちょっと……やりすぎだった、かも?
やってしまってから不安になってきた。腕の力を緩めようとしたけど、そこで俺は動きを止めた。
俺の背中に長い腕が回っていた。強い力で抱き寄せられ、ひときわ大きく、心臓が鳴く。
「千冬……」
なにかを求めるんじゃない、思わず零れちゃったみたいに史人さんが俺を呼ぶ。声を返す代わりに俺は、抱えた史人さんの頭を胸に強く押しつけた。
家族とだってしない近さで体温を分け合って。お互いの呼吸音だけを聞いて。
そうして、交信するみたいに抱き合って、やがてどちらともなく、顔を上げた。屈みこむように見る俺を史人さんが見上げる。
触れた体で熱を交わしながら、それだけじゃ足りないと言わんばかりに、お互いの瞳を覗き合う。
俺の背中に回っていた史人さんの手によって背中が撫で上げられ、後ろ頭に指が添えられる。くいっと引き寄せられて、見上げてくる史人さんのほうへ俺の顔は落ちていく。徐々に近づいてくる史人さんの顔が綺麗で、恥ずかしくて、俺はそうっと瞼を下ろす。
が、そこであることに気が付いた。
「あ、あの、ちょ、ちょっと、待って」
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