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第65話 「昨日の続き、するよ?」
「千冬」
俺を呼ぶ声に俺はもちろん気付いている。覚醒もしている。でも俺はたいていしばらく動かない。動かずに寝たふりをする。
だってそうしていれば大好きな人の声を充電できる。
「こら。起きないと遅刻するぞ。今日朝から打ち合わせとか言ってなかったっけ?」
「あああ……」
なのに、俺がこの世で一番好きな声は、容赦なく嫌な単語を囁いてくる。
しぶしぶ目を開けると、すでに出勤準備を済ませた史人さんがこちらを見下ろしていた。
大学を卒業して、お酒も飲めるようになって、すっかり大人……と言いたいところだけど、俺は相変わらず可愛いと周りから言われっぱなしだ。就職した建築会社でも、部長に「千冬ちゃん」と呼ばれる始末。
けれど、史人さんは違う。
「寝ぐせ。ひどい」
俺の髪を大きな手が撫でて直してくれる。歳を重ねて、ますます磨きのかかった神々しいくらいのイケメンぶりに俺は朝からうっとりする。
「ヤバい」
「ん? なに?」
朝の忙しい時間にも関わらず、史人さんは優しく言葉を返してくれる。その甘い声に溺れながら、俺はぽやぽやと言葉を紡ぐ。
「猛烈に今、お花畑なこと、考えちゃった……」
「どんなこと?」
まだ枕に頭を押し付けたままの俺の髪を、ベッドに腰を下ろした史人さんが撫でる。昨日の夜、このベッドの上でさんざん触ったくせに、まだ触り足りないと言いたげな手つきで。
さらさらと髪の間を滑っていく長い指の感触が気持ちいい。昨夜はこの指で、髪どころか体のいたるところを探られたんだっけ、と思い出したと同時に、その最中のこの人の顔や触れた肌の熱さ、自分の上ずった声まで一切合切思い出してしまい、俺は慌てて枕に顔面を押し付けた。
この状態で思ったことを言うのはさすがに、無理だ。
「なんでも、ない。もう、起きるから」
ぼそぼそと言ったとたん、ふわっと嗅ぎ慣れた香りが迫ってきた。
白い花の……史人さんの匂いだ。
「答えないと、このまんま、昨日の続き、するよ?」
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