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第66話 「煽るよね」

 横向きに寝転がっていた俺のすぐ隣に体を倒し、向かい合うように横になった史人さんが、腕を伸ばして俺の体を抱き寄せてくる。顔と顔の距離がぐぐっと近づいて、心臓が口から飛び出しちゃいそうになって俺は慌てた。  この人と付き合い始めて七年以上になるし、たくさん触れ合ってもきたはずなのに、こうして間近く顔を合わせるとまだどきどきしてしまうなんて、俺はやはりまだまだ子どもなのだろうか。 「ちょ、ちょっと待った! そんな時間、史人さんにもないだろ!」 「時間あったら、していいの?」  意地悪い声で訊いてくる。こういうところ、全然変わらない、どころかますます尖ってきた気がする。  史人さんと一緒に暮らし始めたのは、俺が大学を卒業して今の会社に入社してすぐだ。待っていたかのように、と言うか、実際、待っていたようで、史人さんは俺に「一緒に住んで」と迫ってきた。 「一緒に住もう」じゃなくて「住んで」と言ってきた辺り、見た目クールなくせに、結構性急な史人さんらしいが、その強引とも思える誘いに俺は迷うことなく頷いた。  高校生から大学生、そして社会人へと立場が変わる中で、俺は嫌と言うほど思い知っていたから。一個とはいえ、年齢差を。  たった一年だ。生まれた年がほんの一年、違っただけ。でもその一年のせいで、史人さんはどんどん先に行ってしまう。史人さんが大学受験でひいひい言っているとき、俺はまだそこまで追い詰められてはいなかったから、史人さんの苦しみなんて全然わかってあげられなかった。史人さんが大学に入ったら入ったで今度は俺が大学受験で時間が取れなくなった。やっとこさ、同じ大学生になったと思ったら、史人さんが進んだ学部が、美学部情報デザイン科で、課題も多い学科だったから、とてもじゃないけど俺と遊んでいる余裕もなくて……と、要するに、延々とすれ違いばかりだったのだ。  史人さんはまめな人だから、メッセは毎日くれていたけど、時間がなくてしんどそうな様子は文字からも見て取れて、心配でつい「送ってこなくていーから!」とか可愛くないことを言ってしまって、「もしかして、送ると迷惑?」としょんぼりな台詞を送らせてしまったこともあった。  そんなすれ違いのせいで史人さんに悲しい顔をさせるなんてもう嫌だったし、なにより俺だって限界だったから。  ただ……一緒に住んだら住んだで問題がなかったわけじゃない。 「ね、千冬。言いなって」  大人になったこの人は、高校生のとき以上の色気を放つようになってしまって、正直、こんなふうに迫られると、どうしていいかわからなくなってしまう、から。 「言わないと、するよ?」  ……なにを? なんて訊いたら、会社に遅刻しようとも続けられちゃいそうだ。 「べ、別に大したことじゃないってば! 世界中の時計が壊れちゃえばずうっとこのままでいられていいのにってそれだけ!」  やけくそになって怒鳴ると、すっと史人さんが息を吸い込んだ。まじまじとこちらを見つめてくる目は相変わらず透明度が高くて、見ているだけで眩暈を起こしそうになる。くらくらする俺の顔のすぐそばで史人さんは、千冬ってさ、とゆっくりと俺の名前を発音する。 「煽るよね、ちょいちょい」

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