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#4: 足長おじさんの救済: トムの強引な誘惑、アニーからの悲痛な手紙と王子様の怒り
アニーが去ってから、数週間が過ぎていた。
相部屋は今、トムとルーシャの二人きりになっていた。
「ねえ、ルーシャ。またアニーのこと考えてるの?」
トムの指先が、ルーシャの強張った頰を優しく撫でる。驚くほど丁寧で、まるで恋人を慰めるような触れ方だった。
「アニーがいなくなって、寂しいんだよね……。僕じゃ、ダメかな?」
ルーシャの心臓が激しく跳ね上がった。慌ててその手を振り払い、体を硬くする。
「……やめてよ、トム」
しかしトムは引かなかった。拒まれた手を逆にルーシャの手首を掴み、顔を近づけてくる。熱い吐息が耳にかかった。
「どうして? 隠さなくたっていいよ。……僕、君たちのこと知ってるよ」
ルーシャの頭が一瞬で真っ白になった。
「うそ……」
「君たち、男同士で、SEXしてたでしょ?」
トムの声は意地悪く、でもどこか興奮を含んでいた。ルーシャは顔が熱くなり、耳の先まで真っ赤になるのを感じた。必死に腕を引き抜き、いたたまれなくなって部屋から飛びだした。
「待ってよ、ルーシャ」
薄暗い廊下を必死に走るルーシャの背中に、シスターの声が追いかけてきた。
「ルーシャ、ちょっと待ちなさい」
振り返ると、シスターが怪訝な顔で立っていた。彼女の手には、一通の封筒があった。
ルーシャはそれを受け取った瞬間、指先がガタガタと震え出した。
——差出人は、アニーだった。
◇
冷たい風が吹き荒れる「バンビの丘」。ルーシャは草むらに膝をつき、激しく泣き崩れていた。
手には、アニーから届いた一通の手紙が、ぐしゃぐしゃに握りしめられている。そこに書かれていたのは、想像を絶する地獄の描写だった。涙で波打つ文字の一つ一つが、ルーシャの心を抉り、胸を引き裂く。
「おや。今日は随分と酷い顔だね」
ふいに頭上から、あの優しく甘い声が降ってきた。
ハッとして顔を上げると、金髪の青年が木漏れ日を背に立っていた。ルーシャはもう恥も外聞もなく、這うようにして青年の足元にすがりついた。激しく泣きじゃくりながら、その胸に顔を埋め、両手で上着を強く握りしめる。
「どうしたんだい? 何があった?」
青年が心配そうに尋ねても、ルーシャは言葉にならない嗚咽を繰り返すばかりで、何も答えられない。ただ必死にしがみつき、青年の胸を涙でびしょ濡れにしながら震えていた。
青年はルーシャが壊れるほど強く握りしめている手紙に目を留めた。
「……それに、何か書いてあるのかい?」
ルーシャが止める間もなく、青年は静かにその手紙を手に取った。
「ごめんね。読んじゃうよ」
手紙を広げ、書き殴られた内容に目を走らせるうちに、青年の表情がみるみる変わっていった。穏やかだった瞳が凍てつき、整った顔立ちが冷酷な怒りに歪む。手に持った便箋が、みしりと音を立てて歪んだ。
「……許せないな」
低く、冷たい声が漏れる。その声音には、絶対的な支配者としての威圧感が満ちていた。
「もう泣かなくていい」
青年はそう囁くと、優しくルーシャの髪を撫でた。その温かい手のひらが触れた瞬間、ルーシャの意識はぷつりと途切れ、深い闇に落ちていった。
◇
翌朝、ルーシャは孤児院のベッドで目を覚ました。
シスターによると、身なりの整った美しい青年が気を失ったルーシャを抱いてここまで送り届けてくれたという。
呆然と過ごすルーシャの元に、数日後、再び一通の手紙が届いた。それは、二通目のアニーからの手紙だった。
『ルーシャ、驚かせてごめんね。 僕は今、とても静かで立派な家に引き取られて暮らしているよ。 あの息もできないような地獄から、突然救い出されたんだ。 だからもう安心して。僕は本当に大丈夫だから。 僕を助けてくれた人は、名前も明かしてくれない。ただ「足長おじさん」と呼んでいいと言われたよ。』
便箋の隅には、新たな苗字として『メイフィールド』と静かに書き添えられていた。
手紙を読み終えたルーシャは、便箋を胸に強く抱きしめた。
あの金髪の青年が、アニーを救ってくれたのだという確信が胸に広がる。同時に、その圧倒的な力と優しさに、畏怖と切ない想いが込み上げてきた。
ルーシャは窓の外の遠い空を見つめながら、そっと呟いた。
「……ありがとう。王子様」
つづく
—
アニーからの手紙に安堵するルーシャの背後に、孤児院を出ていくトムが忍び寄る。
逃がさないように腕に力を込め、耳元で甘く囁いた。
「大農場に引き取られることになった。……君も一緒に来ないか?」
次回
#5: 孤児院からの旅立ち: トムからの背後からの抱擁と囁き、エンブレムを胸にペンドルトン館へ
「アニーの代わりに、僕がルーシャを抱いてあげる」
お楽しみに!
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