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#22: ジュリアとツェーの同衾: ジュリアンの出立と、心優しき麗しの貴公子サリーとの出会い

ルーシャが屋根裏部屋で抗いがたい情欲に身もだえ、淫らなに独り溺れていた頃——。隠し窓の向こうで繰り広げられたルーシャとアニーの情事を見届けたジュリアは、魂が抜けたかのようにその場に立ち尽くしていた。 それは、薬に理性を溶かされた二人のオメガが晒す、卑しく淫らな本性——。 (どうして……こんなに、体が熱いの) 自分は、あんな獣達とは違う。ペンドルトンの誇りある一族の末裔だ。何度もそう言い聞かせるのに、ジュリアの身体は自分意思とは関係なく熱を帯びてく。 理性の防波堤が崩れ去り、隠したいはずの自分自身の「本性」が、疼きとともに顕わになっていく。 自分の部屋に戻ったジュリアは、震える手でベッドに潜り込んだ。なかなか寝付けず、何度も寝返りを打つうちに、無意識のうちに自分の股間へと手が伸びてしまう。 抗う心に反し、己の性器に触れた瞬間——。それが熱く、硬く激しく脈打っているのを感じた。 「っ……やだ……こんなの、私じゃない……」 眠りなど、訪れるはずもなかった。 静まり返った屋敷の夜、ジュリアはたまらずベッドから跳ね起きた。迷うことなく、ツェー(Tseh)の寝室へ向かった。 「……ツェー。起きて、ツェー……」 何度か呼びかけると、慌てた足音のあと扉が開いた。眠そうに目をこするツェーは、主人のただならぬ様子に息を飲む。 「ジュリア様……? こんな夜中に、どうなされたのですか。……そのお顔」 「いいから、来て」 言葉を遮り、強引にツェーの手を取って自分の部屋へ連れ戻す。困惑するツェーをベッドに押し倒すようにして、ジュリアは腰を下ろした。 「ジュリア様、何を……」 「今夜はここにいて。私の側から、絶対に離れないで」 震える声でそう命じられ、ツェーは戸惑いながらも、ジュリアの熱に当てられたように抵抗せずに隣に横たわった。 ツェーの体温と、ほのかに香る石鹸の匂い。 ジュリアはツェーの胸に顔を埋め、まるで溺れるように強くしがみつく。震える指が、ツェーの寝間着をぎゅっと掴んだ。 ・ ・ ・ ——チュン、チュンチュン……。 時計の針が進み、窓の外が白み始めた頃。 ジュリアはふと目を覚ました。隣にはツェーが静かに寄り添っている。 「……ツェー、ずっとそばにいてくれたの?」 「はい」 ツェーが優しく髪を撫でてくれる。その感触に、ジュリアの表情がどこか甘く蕩けた。 「ジュリア様……とても、いい匂いがします」 薬の記憶が薄れ、素直に甘えるような笑みがこぼれる。 「そう……私のドレッサーにある薔薇の香水、あんたも好きに使っていいよ。私と同じ匂いになれるから」 ◇ その朝、ジュリアがリビングに降りると、ちょうど旅装を整えたジュリアンが重いトランクを執事に預けているところだった。 「お兄様、こんなに早くどちらへ?」 ジュリアの声に、ジュリアンは黒檀のステッキで軽く帽子を上げ、振り返った。 「話してなかったか。秋からの留学、私はこの夏、一足先にロンドンへ向かう。マディの(しつけ)はお前に任せるからな」 「ええ、わかったわ」 ジュリアが気怠げに扇子を揺らすと、ジュリアンはふと思い出したように付け加えた。 「それと、サリーがこの夏休みの間ここに滞在する。もうすぐ到着するはずだ。よろしく伝えておいてくれ。……ではな」 ジュリアンはそれだけ言い残し、颯爽と玄関を出て黒塗りの馬車に乗り込んだ。馬車の扉が閉まり、馬蹄の音が遠ざかっていく。 「え……サリー様が、いらっしゃるの?」 兄の不在と、小さい頃から憧れていたサリー来訪の知らせにジュリアは声を弾ませた。そしてそれは、ルーシャにとっても予期せぬ救いとなった。 ◇ 奴隷からの解放——。ジュリアンが屋敷を去り、今日はあの屈辱のメイド服の強制はない。朝の爽やかな風が吹き抜ける中庭。ルーシャは古びた薔薇園で、萎れた花がらを一つひとつ丁寧に摘み取っていた。 「——おや。|ボク《・・》がこの美しい薔薇たちの世話をしているのかい?」 頭上から突然降ってきた、鈴のように澄んだ美しい声に、ルーシャはビクリと肩を震わせて振り返った。 そこにいたのは、息を飲むほど麗しい人物だった。——サリー・マクブライド。 ペンドルトン夫人こと、ヒルデの実の姉の娘——。まるでおとぎ話から出てきたような若き貴公子。通った鼻筋、長い睫毛に縁取られた涼やかな瞳。そしてしなやかな所作の奥に潜む、圧倒的な気品と中性的な色香。 一瞬で心を奪われるような、美しさだった。 「あ……は、はい。そうです……」 ルーシャは剪定鋏を握ったまま、完全に目を奪われてしまった。ドギマギしながら小さな声で答える。 サリーはルーシャの手元を優しく見つめ、ふっと目を細めた。 「古いものを手放すことで、新しい蕾が育つ……君は薔薇に命を吹き込む、魔法の手を持っているんだね」 「えっ……」 サリーが自然に屈み込み、ルーシャのすぐ隣で蕾を指先でそっと撫でた。至近距離から漂う上品なコロンの香りと、アルファ特有の温かく包み込むようなフェロモンが、ルーシャの胸を甘く締め付ける。 (こんな風に……優しくされたの、初めて……) ルーシャの頰が熱くなった。いつも「汚らわしいオメガ」「下賤な獣」と罵られてきたのに、この人は自分を一人の男子として、真正面から見てくれている。 「ボク(・・)はこの館の庭師かい?」 サリーが熱を孕んだ瞳で、ルーシャの顔を覗き込んでくる。 「い、いえ……僕は、ジュリアン様のお話し相手として、この屋敷に……」 「ジュリアンの?」 「は、はい……」 「でも彼、今は留学中だろう?」 サリーは小さく首を傾げ、それから悪戯っぽく笑った。 「だったらさ。その間、ボク(・・)ワタシ(・・・)の話し相手になってよ」 「……えっ」 心臓が跳ねた。 そんなふうに必要とされることなんて、今まで一度もなかった。嬉しさに頰を染めて頷くと、サリーは花がほころぶように微笑んだ。 「ありがとう。……ところで、君の名前を聞いていなかったね。ワタシはサリー。サリー・マクブライドだ」 ルーシャは少し言い淀み、しかし意を決したように顔を上げて、まっすぐに答えた。 「ジェルーシャ・アボット」 「ジェルーシャ。素敵な名前ね」 サリーが優しくその名を口にした。 自分の名前——。この屋敷に来てから、誰も呼んではくれなかった本当の名前。温かな声でそれを与えられ、胸が熱く震えた、まさにその瞬間だった。 「——マディー。何をしているの」 頭上から、冷たく凍てつく声が降ってきた。 「マディー。こっちへ来なさい。今すぐ」 胸の奥に灯った淡い思いが、一瞬で踏み潰されていく。 「あ、あの……ご、ごめんなさい! 呼ばれたので……行かなくちゃ……!」 ルーシャは慌ててその場を走り去った。背中にサリーの声が追いかけてくるが、振り向くことすらできなかった。 中庭に取り残されたサリーは、少年の消えた先を静かに見つめたまま、ふと眉をひそめた。 「マディー……?」 先ほど彼が名乗った名前とは、似ても似つかないその響き。 ぽつりと呟いた言葉は、熱を帯びた瞳の奥で、静かな疑問の余韻としてくすぶり続けていた。 つづく 家系図 https://fujossy.jp/fanarts/8209 — あの薬によってどれほど淫らに狂わされるのか——そのすべてを知りたいという、強い欲望がジュリアにはあった。 「ねえ、あの夜……本当は身体が熱くなったんでしょう? どんな風に熱くなったの? 詳しく教えなさい」 次回 #23: サリーの切実な事情: ジュリアによる媚薬の盗み出しと、ルーシャへの恐ろしい脅迫の始まり 「これが……あの夜、アニーたちに飲ませた薬……」 お楽しみに!

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