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#23: サリーの切実な事情: ジュリアによる媚薬の盗み出しと、ルーシャへの恐ろしい脅迫の始まり

朝の爽やかな風が吹き抜ける薔薇園で、サリーは蕾をそっと指で撫でながらぽつりとこぼした。 「この館の空気は少し冷たいけれど……なんだか心が落ち着くね」 その横顔はいつもより儚げで、ルーシャは剪定鋏を止めて自然とサリーを見つめた。 「実はね……ワタシ(・・・)母を亡くしたばかりで……叔母様が心配して、この夏休みの間ここに呼んでくれたの」 「そうだったんですね……」 ルーシャが痛ましげに眉を寄せると、サリーは寂しげに微笑みながらさらに言葉を続けた。 「でも……実はね、このペンドルトン館に滞在しているのにはもう一つ理由があるんの」 「理由、ですか?」 「マクブライド家は今、多額の負債を抱えていてね。ワタシ(・・・)の父が事業に失敗したの。……それでペンドルトン家に、どうしても融資をお願いしなければならない事情があって。もし断られれば、ワタシ(・・・)の家は破産し、弟のジミーも路頭に迷うことになってしまう」 サリーの震える声に、ルーシャは痛む胸を押さえた。 「大丈夫です、サリー様……。旦那様はお優しい方ですから、きっとあなたの想いが伝わりますよ」 ルーシャが精一杯の笑顔で励ますと、サリーの表情がふっと柔らかくなった。 「優しいんだね、ジェルーシャ」 サリーがそう言って、ルーシャの頭を優しく撫でようと手を伸ばしたその時——。 「——マディー。随分と楽しそうじゃない」 背後から、冷たく粘着質な声が降ってきた。 バルコニーの陰から、ジュリアが冷ややかな笑みを浮かべてこちらを見下ろしていた。 「サリー様、ごきげんよう。……マディ、あなたはお茶の準備があるでしょう? 今すぐ私の部屋に来なさい」 有無を言わせぬ命令に、ルーシャはサリーに慌てて頭を下げ、その場を逃げるように立ち去った。 ◇ ジュリアの私室は重いカーテンが閉め切られ、昼間だというのに薄暗かった。 部屋に入るなり、ジュリアは長椅子に優雅に腰を下ろし、部屋の中央に立たされたルーシャを値踏みするように見つめた。 「サリー様とは随分と仲が良いのね。ところでルーシャ。……この前アニー様が泊まっていった夜のことだけど、あの夜、二人きりで何をしていたのかしら?」 突然出てきたアニーの名前に、ルーシャの肩がビクリと震えた。 「……お、お互い疲れていたので、すぐに寝てしまって……」 「嘘おっしゃい」 ジュリアは口元を妖しく歪め、くすくすと喉の奥で笑った。 「あんなに甘くて淫らな声が、屋敷中に響いていたわよ。ねえ、あの夜……あなたたち、何をしていたの?」 ルーシャの顔からみるみる血の気が引いた。あの夜、屋根裏で一人悶えていた自分の醜い姿を聞かれていたと思い込み、羞恥と恐怖で身体が震え出す。 「な、何も……何もしていません……!」 「ふふっ、本当に?」 ジュリアはゆっくり立ち上がり、ルーシャの顎を指で持ち上げて上向かせた。妖しい瞳がすぐ近くにある。 「それだけじゃないわ、あなたはどうしてお兄様に『貞操帯』なんてものを嵌められたの? ツェー(Tseh)と一緒に淫らな行為にふけってたのでしょ?」 「ち、違います……っ!」 「サリー様に教えてあげようかしら? 清純な顔をしてるこの子が、実は夜な夜な他のメイドと淫らなことをしている、ふしだらなオメガだってこと……サリー様はどんな顔をするかしらね?」 「そ、そんなこと……! 許してください……」 ルーシャは床に膝をつき、みるみるうちに顔を青ざめさせながら必死に懇願した。サリーに見せる顔だけは、絶対に汚されたくなかった。 ジュリアは満足げに目を細め、震えるルーシャの唇を親指でなぞった。 「……正直に話せば、サリー様には黙っていてあげる。ねえ、あの夜……本当は身体が熱くなったんでしょう? どんな風に熱くなったの? 詳しく教えなさい」 ジュリアの瞳はもはやただの意地悪ではなく、黒く妖しく、どこか渇いた色を帯びていた。あの薬によってどれほど淫らに狂わされるのか——そのすべてを知りたいという、強い欲望がそこにあった。 「さあ、言いなさい!」 「よく覚えてないんです……本当です。あの日の夜のことは、もう忘れたいんです。許してください……」 ルーシャは深く傷ついた悲痛な面持ちで、そう言い残して部屋から逃げ出すように出て行った。 ジュリアはしばらくドアを見つめたまま動かなかった。やがてゆっくりと唇の端を上げると、目を細めて小さく笑った。 「……嘘だわ」 その瞳には、いたずらな光とは違う、妖しく熱を帯びた色が宿っていた。 ジュリアはすぐに部屋を出ると、足早に廊下を進み、ジュリアンが留学で不在となっている兄の私室へと忍び込んだ。 無機質で整然としたアルファの部屋。ジュリアは迷うことなく兄の机に近づき、引き出しを一つずつ開けていった。 「……あった」 奥の引き出しから見つけ出したのは、小さなガラスの薬瓶だった。 ジュリアはそれを手に取り、窓から差し込む光にかざした。透明な液体がきらりと輝く。 (これが……あの夜、アニーたちに飲ませた薬) 本来はアルファのフェロモンを抑えるための抑制剤。しかしオメガが摂取すれば、理性を焼き払い、獣のように発情させる強力な催淫剤に変わるという禁断の薬。 ジュリアは薬瓶を両手で包み込むように握りしめ、熱い吐息を漏らした。 あの時のルーシャの乱れた様子、甘く蕩けた声、涙に濡れた瞳——。 ジュリアの胸の奥で、黒い好奇心がどくんどくと脈打っていた。 ジュリアは薬瓶をぎゅっと握りしめ、そっとドレスに忍ばせた。 つづく — ジュリアにサリーの嘆願書を人質に取られ、彼女に嫌われるよう無慈悲な脅迫を受けるルーシャ。 「さあ、どうするの? この手紙を燃やすのと、あなたがサリー様に嫌われるのと……どちらがいいのかしら?」 次回 #24: 嘆願書を盾にした脅迫: サリーへの残酷な罵倒とハンカチ叩き落とし、涙の決別 「……ずっと我慢してたんです……あなたの話し相手をするの、本当は迷惑だったんですよ!」 お楽しみに!

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