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#24: 嘆願書を盾にした脅迫: サリーへの残酷な罵倒とハンカチ叩き落とし、涙の決別
サリーの滞在期間が残りわずかとなったある日。
ジュリアの私室に呼び出されたルーシャは、部屋に入った瞬間、息を飲んだ。
傍らに控えるメイドのツェー(Tseh)が差し出した銀のトレイから、ジュリアが一通の封筒を優雅につまみ上げる。
「マディ、これが何か分かるかしら?」
「それは……」
「サリー様から預かった、お父様宛の『融資の嘆願書』よ。マクブライド家の命綱ね」
ジュリアは冷たい笑みを浮かべ、机の上で揺らめくキャンドルの火のそばで、封筒をひらひらと危うげに揺らした。
「もしこれが『うっかり』この火に落ちてしまったら……マクブライド家は確実に破産するわ。サリー様も、弟のジミーも路頭に迷うことになるのよ」
「やめてください……! サリー様がどれだけ苦しんでるか、あなたには分からないんですか……!」
ルーシャの声が震えた。
ジュリアはゆっくりと封筒を火から遠ざけ、蛇のような瞳でルーシャを見下ろした。
「なら、私の言う通りにしなさい」
その声は甘く、残酷だった。
「あなたみたいな下賤なオメガが、サリー様の側にいること自体が間違いなのよ。あの人も、あなたのことなんか早く忘れた方が幸せだわ。だから……サリー様に、完全に嫌われるようなことをしなさい」
「嫌われるような……こと……?」
ルーシャの顔が青ざめた。
「ええ。どうすればいいかくらい、自分で考えなさい。スカートをめくるなり、唾を吐きかけるなりね」
ジュリアはくすくすと愉しげに笑いながら、ルーシャの震える姿を上から下まで舐めるように見つめた。
「さあ、どうするの? この手紙を燃やすのと、あなたがサリー様に嫌われるのと……どちらがいいのかしら?」
ルーシャは唇を強く噛みしめ、拳を握りしめた。指の先が白くなるほど力を込めながら、絶望に全身を震わせた。
サリーの優しい笑顔が脳裏に浮かび、胸が痛いほど締め付けられる。
(サリー様……ごめんなさい……)
抗う術など、最初からどこにもなかった。
それから数日間、ルーシャはサリーの姿を見るだけで胸が張り裂けそうになりながらも、必死に避け続けた。
中庭の薔薇園でサリーの気配を感じただけで慌てて物陰に隠れ、話しかけられても目を合わせず、ただもじもじと距離を取るばかりだった。
そんな不自然な態度に、サリーが気づかないはずがなかった。
「……ねえ、ジェルーシャ?」
ある日の午後、背を向けて作業をしていたルーシャの後ろで、サリーが静かに声をかけた。
「最近、ワタシを避けているみたいだけど……何か、怒らせるようなことをしてしまった?」
その声は傷ついたように掠れていて、いつもの優しい響きの中に寂しさがにじんでいた。
ルーシャの胸が、ぎゅっと激しく痛んだ。
(違うんです、サリー様……! 本当は、あなたともっと一緒にいたい……ずっと、あなたの声が聞いていたい……)
喉の奥まで言葉が込み上げてきた。でも、それを口にしてしまった瞬間、ジュリアがあの嘆願書を燃やすかもしれない。
ルーシャは唇を血が滲むほど強く噛みしめ、震える声を必死に押し殺した。
「……なんでも、ありません」
掠れた声でそう答えると、ルーシャはサリーの顔を見られないまま、逃げるように背を向けてしまった。
後ろでサリーが息を飲む気配がした。
その静かな息遣いさえ、今のルーシャにとっては胸を抉られるような痛みだった。
サリーの優しい眼差しが、背中に突き刺さる。
ルーシャは拳を強く握りしめ、歯を食いしばりながら、必死に涙を堪えた。
(ごめんなさい……サリー様……本当に、ごめんなさい……)
心の中で何度も謝りながら、ルーシャは震える足でその場を離れた。
◇
そして、サリーが屋敷を去る日の朝。
朝霧が立ち込める玄関前に、黒塗りの馬車が静かに待っていた。
旅装を整えたサリーを見送るため、ポーチの端に控えていたルーシャの背後に、ジュリアが音もなく近づいてきた。
「……いつまでもぐずぐずして、何やってるの?」
耳元に吹きかけられる冷たい囁きに、ルーシャの身体が硬直した。
「あの手紙がどうなってもいいの? 今日が最後のチャンスよ。さっさとやりなさい」
非情な言葉に、ルーシャの背筋が凍りつく。
ジュリアはすぐに表情を変え、優雅な笑みを浮かべてサリーに声をかけた。
「サリー様、それでは、道中お気をつけて」
「ありがとう、ジュリア。ジュリアンにもよろしく伝えてね。……お邪魔したわ」
サリーは柔らかく微笑んだ後、まっすぐにルーシャの方へ歩み寄ってきた。
ルーシャの心臓が、激しく痛いほど鳴り響く。
「お別れだね、ジェルーシャ・アボット……」
サリーの鈴のような澄んだ声が、胸に染み入る。
「短い間だったけれど、ワタシの話を聞いてくれて本当にありがとう。この気持ち、受け取って」
そう言ってサリーは懐から、上質な絹のハンカチを取り出した。そこには綺麗に『S.M.』とイニシャルが刺繍されていた。
差し出された純白のハンカチ。
ルーシャは喉が詰まって声も出せない。受け取りたい。ありがとうと笑って、この人をちゃんと見送りたい。
でも、視界の端でジュリアがゆっくりと扇を閉じるのが見えた。あの残酷な無言の命令。
ルーシャはぎゅっと目を閉じ、震える手を振り上げた。
——パシッ!
乾いた音が朝の霧の中に響き渡る。
サリーの手からハンカチが弾かれ、冷たい石畳の泥水の上に無惨に落ちた。
「……え?」
サリーが驚きに目を見開き、信じられないといった顔でルーシャを見つめた。
ルーシャは唇を血が出るほど噛みしめ、心臓を自分の手で引き裂くような思いで、声を絞り出した。
「……こんなもの、いりません! ずっと我慢してたんです……あなたの話し相手をするの、本当は迷惑だったんですよ!」
「え……?」
「あなたみたいな年増(ババア)のショタコンなんて、本当は気持ち悪くて仕方なかったんです! もう二度と、僕の顔を見せないでください!」
ルーシャの叫びが、静まり返った朝の空気に残酷に響き渡った。
その瞬間、サリーの顔からさっと血の気が引いていくのがはっきりとわかった。いつも優しく余裕に満ちていた麗しい表情が、信じられないほどの傷つきと悲しみに歪む。
唇を震わせ、何かを言おうとしたサリーだったが、結局何も言葉にできなかった。ただ深く傷ついた瞳でルーシャを一瞬だけ見てから、ゆっくりと視線を落とし、きびすを返した。
「……出発して」
サリーの掠れた小さな声とともに、馬車の扉が閉まる。
車輪の音が冷たい朝霧の中に遠ざかっていくのを、ルーシャはただ立ち尽くして見送ることしかできなかった。
馬車の姿が完全に消えた瞬間、ルーシャの膝が崩れた。
その場にへたり込み、泥にまみれた純白のハンカチを震える手で拾い上げる。そしてそれを胸にぎゅっと抱きしめ、声を殺して激しく泣きじゃくった。
(本当に気持ち悪いのは……僕の方だ……)
唯一自分を優しく、ひとりの人間として扱ってくれた人を、自分の手でこんなにも深く傷つけてしまった。その事実に胸が張り裂けそうだった。
「あははははっ! あはははははっ!」
その痛ましい姿をすぐ横で見下ろしながら、ジュリアが甲高く狂ったように笑い声を上げた。
「素晴らしいわ、マディ! 本当に素晴らしいお芝居だったわよ! ふふっ……やっぱりお人形は、ワタシの言うことだけを聞いていればいいのよ!」
ジュリアの愉悦に満ちた高笑いと、ルーシャの嗚咽が、冷たい朝霧の中にいつまでも絡みついていた。
つづく
—
ペンドルトン邸での恐怖と、ジュリアのドレスの下に隠されていた『雄の獰猛さ』の記憶に囚われるアニー。
罪悪感と淫らな欲望に飲まれ自慰に耽る中、ついにオメガとしての「初ヒート」が暴走を始めてしまう……!
「あぁ……ジュリア様……どうしよう、僕……っ」
次回
#25: アニーの初ヒート: ジュリアの男根を想いながらの激しい自慰と、養父による革チョーカー装着
「君の身体は悪くなったわけじゃない。これはオメガとしての本能が目覚めたということだ」
お楽しみに!
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