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#32: 暴かれた魔城の非道: 『足長おじさん』宛の手紙と、ツェーを救うための「お人形」契約
ハドソン川の北方に佇む、メイフィールド邸。
主のいない静まり返ったアニーの自室で、養父であるメイフィールドは重い溜息をつきながら机の前に立っていた。
ペンドルトン邸での一件以来、アニーはまるで何かに怯える小動物のように自室に引きこもっている。令嬢ジュリアに怪我を負わせてしまったという自責の念だけでは、あの異常なまでの震えは説明がつかなかった。
(あの家で、あの子は一体何を見てきたというんだ……)
父親としての強い直感と不安に突き動かされ、メイフィールドは決して褒められた行為ではないと知りつつも、震える手でアニーの机の引き出しを開けた。
そこには一通の封筒がひっそりと隠されていた。
表書きには、ただ一言、『足長おじさんへ』とだけ記されている。住所も本名も書かれていないその宛名を見て、メイフィールドは小さく息を呑んだ。アニーは知らないだろうが、彼にとってその名が誰を指すのかは明白だったからだ。
封筒に伸ばしたメイフィールドの指先が、僅かに宙で止まる。いくら心配とはいえ、息子の秘められた手紙を勝手に開けることへの罪悪感。しかし、ここ数日のアニーの異様な怯えようと、青ざめた顔が脳裏をよぎった。
ためらいは、一瞬だった。
彼は意を決して封を切り、中から便箋を引き出した。そこに書き殴られた文字に目を落とした瞬間——メイフィールドの全身から、さっと血の気が引いていった。
「……何たる非道だ」
メイフィールドは手紙を握り潰さんばかりに強く握りしめ、ワナワナと唇を震わせた。アニーが怯えきっていた本当の理由。そして今まさに、この瞬間にも魔城の地下で嬲られているであろう少年の絶望。
怒りと焦燥で視界が真っ赤に染まる。彼は手紙を懐にねじ込むと、弾かれたように屋敷を飛び出した。
◇
「グリッグス先生! 至急、耳に入れておかなければならない事態です!」
バンッ!!
乱暴にドアが開き、ペンドルトン家の顧問弁護士であるグリッグスの事務所に、息を切らしたメイフィールドが駆け込んできた。
「メ、メイフィールド様? 一体どうされました、血相を変えて……」
かつてアニーを引き取る際、『足長おじさん』の代理人として動いたグリッグスは、突然の訪問者に目を丸くした。メイフィールドは返事の代わりに、懐から取り出した手紙をグリッグスのデスクに叩きつけた。
「これを読んでいただきたい。……あなたの依頼人であり、ペンドルトンの本家でもあるジャーヴィス様にも、直ちにお伝えすべき内容だ!」
「手紙……ですか?」
怪訝な顔で便箋を手に取ったグリッグスだったが、文字を追うにつれて、その顔面はみるみる蒼白になっていった。
「こ、これは……分家で、こんな真似が……!?」
「今すぐ止めなければ、取り返しのつかないことになりますぞ!」
グリッグスはガタッ!と椅子を蹴立てて立ち上がった。事態は一介の弁護士が処理できる範疇をとうに超えている。一族の恥部であり、絶対的な倫理の崩壊。
「……すぐに、ジャーヴィス様へご報告いたします。私が直接、分家へ向かいます」
震える手ですぐさま手配に走るグリッグスを見届けながら、メイフィールドは窓の外の遠い空——ペンドルトンの魔城がある方角を、祈るような思いで睨みつけていた。
◇
その頃、彼らが救い出そうとしている魔城の最深部——地下のダンジョン(監禁室)に響いていたのは、冷たい水滴の落ちる音と、アンドレの獣のような荒い息遣いだけだった。
「ジュリア様、こいつが逃げ出した罰は、このアンドレがたっぷりと『躾けて』差し上げますぜ……どうぞ、じっくりご覧ください」
アンドレは腰の鞭を抜き、下卑た笑みを浮かべてルーシャの細い背中を狙った。革が空気を裂く音が響いたその瞬間——。
「おやめなさい!!」
ジュリアの甲高い声が響き渡り、次の瞬間、バシッ!と扇子がアンドレの頬を勢いよく打ち据えた。
「あんた本当にバカなの? 私の大事なおもちゃを傷物にしたらどうするのよ!」
「で、ですが……こいつが逃げたせいで……」
ジュリアは冷ややかにアンドレを睨みつけると、部屋の隅で震えるツェー(Tseh)を扇子で指した。
「……そうね。ツェー、お前がそそのかしたのよね。アンドレ、こいつを躾けなさい」
「ひっ! お許しください、ジュリア様!」
「黙りなさい。これまで散々甘やかしてやったのに、私を裏切ったのよ!」
ジュリアは冷酷な瞳でツェーを射抜くと、ゆっくりとルーシャに視線を移した。
「アンドレ、やりなさい。……ルーシャ、よく見ておきなさい。これはあなたが逃げ出したせいで、この子が受けている『罰』よ。一瞬たりとも目を逸らしたら許さないから」
「へへっ、承知しましたよお嬢様。さあ、覚悟しろよ!」
アンドレがツェーの服を乱暴に引き裂き、鞭を振り上げたその瞬間、ルーシャは這うようにして前に出た。
「やめて、ジュリア! お願い……ツェーは悪くない。全部僕のせいだよ。だから、僕を罰して……! 僕を好きにしていいから、ツェーだけは許して!」
ジュリアは動きを止め、まるで獲物を狙う蛇のような、冷めた琥珀色の瞳でルーシャを見下ろした。その唇の端が、妖しく弧を描く。
「そう……? ならお前にチャンスをあげるわ。ルーシャ、これからは私の『お人形』として生きなさい」
暗く冷たい地下の底で、狂気に満ちた「お人形遊び」が幕を開けようとしていた——。
つづく
—
ジュリアから強烈な催淫薬を飲まされ、秘所に「鈴」を付けられたルーシャ。
「もし、朝日が昇るまで、鈴を鳴らさなかったら、全てを水に流し、許してあげるわ」
次回
#33: 狂気の「お人形遊び」: 秘所に付けられた鈴と、強引な発情に抗えない讃美歌の抵抗
「ただ……じっとしていればいいのよ。お前がどれだけ我慢強いか、たっぷり見せてもらおうかしら」
お楽しみに!
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