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#40: 生徒会室での予期せぬ再会: クリスマス劇の抜擢と、パティーを狙うジュリアンの罠
キーン、コーン、カーン、コーン――。
午後の最後の授業を告げるチャイムが鳴り響き、聖ファーガスン学院の教室内が椅子を引く音と生徒たちの話し声で一気に賑やかになった。
「はぁ、やっと授業、終わったね……」
窓の外では紅葉が散り終わり、冷たい木枯らしが校舎を揺らしている。ルーシャは机の上に散らばった教科書やノートを、ゆっくりと鞄へと詰め込んでいた。隣の席のパティーも、明日提出の課題を片付けながら愚痴をこぼす。
「……そういえばルーシャ、『クリリン』は今頃うまくやってるかな?」
「うん、大丈夫だよ、きっと。……すごく親切な人が責任を持って面倒を見てくれるって言ってくれたから」
ルーシャは荷物をまとめ終えると、頰をわずかに赤らめて、少し遠くを見つめるような表情を浮かべた。
「……実はその人、運命の人なんだ」
「え……? 運命の人?」
パティーの声が一オクターブ上がる。ルーシャは照れくさそうに視線を落とした。
「うん。昔、僕を助けてくれた人……」
「ちょっと待って! どんな人? もしかしてルーシャの初恋の人とか!?」
パティーが身を乗り出して詰め寄るのを、苦笑しながらかわす。二人はそんな会話を続けながら、教室を出て、活気に満ちた廊下へと足を踏み出した。
しかし、教室の扉を抜けてすぐ——。
「——君が、噂の転校生、ルーシャだね?」
ふいに響いた声に、周囲の空気が凍りつく。人だかりを割るようにして、生徒会長のジミーが待ち構えていたかのように立っていた。その爽やかな笑顔と、射抜くような鋭い視線に、ルーシャは思わずその場に立ちすくむことになった。
顔を上げると、そこには生徒会長のジミーが立っていた。堂々とした体躯と明るい笑顔に、周囲の生徒たちが自然と道を空ける。
「僕はジミー。生徒会長をやっている。ルーシャ、君はまだ部活にもサークルにも入っていないみたいだね。よかったら、生徒会の手伝いをしてくれないか?」
「え……僕が、ですか?」
「ああ。君みたいな生徒がいたら、生徒会も華やぐと思ってさ」
屈託のない笑顔で手を差し出され、ルーシャは戸惑いながらも頷いてしまった。パティーも「僕も一緒に」と小声でついてきて、放課後、三人で生徒会室へと向かうことになった。
「失礼します……」
重厚な扉を開けると、あちこちで山積みの資料を抱えた役員たちが、せわしなく交差する光景が飛び込んできた。
「やあ、よく来てくれたね。副会長のニールだ。人手が足りなくてね、よろしく頼むよ」
出迎えたニールに頭を下げ、ルーシャがふと視線を巡らせた瞬間——その息が止まった。
部屋の奥で作業をしていた人物が、ゆっくりと振り返る。
「……っ」
「あ……」
そこにいたのは、アニーだった。
二人の視線が一瞬で絡み合い、互いの心臓が激しく鳴った。なぜここにいるのか——様々な感情が一気に押し寄せる中、ルーシャは必死に表情を整えた。ここで関係がバレるわけにはいかない。
「……初めまして。今日から手伝うことになった、ルーシャです」
「あ、うん……よ、よろしく。僕はアニーだよ」
それはあまりにもぎこちなく、不自然な挨拶だった。二人の間に流れるよそよそしい空気は、誰の目にも明らかだった。
その微妙な変化を、ジミーの鋭い視線が逃すはずはなかった。
「……君たち」
ジミーが目を細め、二人を交互に見つめた。
「もしかして、どこかで会ったことあるのか? なんか、妙な雰囲気だけど」
「い、いや! そんなことないよ! 初対面だよね!?」
「……え、ええ」
必死に否定する二人を見て、、ジミーは「ふうん?」と意味深に目を細めたが、それ以上は追及しなかった。
「まあいいや。実は今、生徒会で一番頭を悩ませている問題があってね。今年のクリスマス催し物だ」
ジミーは黒板に『ロミオとジュリエット』と大きく書き殴った。
「劇をやるんだけど、ここは男子校だからな。どうしてもヒロイン役が足りなくて困っていたんだ……」
そこでジミーの視線が、ルーシャとアニーを同時に射抜いた。
「ルーシャ、アニー。君たち二人に、主役をやってもらえないか?」
「「えっ!?」」
「こんな適役、他にいないんだ。頼む! この通りだ!」
初対面を装ってしまった手前、「一緒に舞台に立つなんて無理」とは言えない。二人は顔を引きつらせたまま、無言で頷くしかなかった。
こうして、クリスマスに向けた不穏な愛憎劇の幕が、静かに上がった。
◇
生徒会室からの帰り道。
「あ、ルーシャ、僕、生徒会室に忘れ物しちゃったみたい。先に行ってて」
パティーはルーシャと別れ、一人で薄暗い旧校舎側の廊下を歩いていた。
——カツン。
背後から響いた硬い足音に、パティーはビクッと肩を震わせた。振り返るより早く、低く冷たい声が耳元に落ちてきた。
「クリスマスの劇……どうやら、なかなか面白い配役が決まったようだね」
血の気が引く。そこに立っていたのは、漆黒の外套を羽織ったジュリアンだった。
冷めた琥珀色の瞳が、獲物をねぶるようにパティーを捉えている。
「じ、ジュリアン……」
「怯えなくてもいい。ただ、君には少し『協力』してもらいたいことがあってね」
ジュリアンはゆっくりと一歩近づき、パティーの退路を壁で完全に塞いだ。甘い香りのする息が、耳にかかる。
「この間、君はあの転校生が塀を乗り越えるのを、手助けしてたよね?……共犯者くん」
「ひっ……!」
パティーの顔が真っ青になった。
ジュリアンは優雅に微笑みながら、さらに顔を近づけ、囁いた。
「校則違反の幇助は、退学ものだよ? ……賢い君なら、どうすべきかわかるよね?」
逃げ場のない闇の中で、悪魔の甘い囁きがパティーをねっとりと絡め取った。
クリスマスまで、あと少し。
誰も知らないところで、絶望の糸が静かに、確実に引かれようとしていた。
つづく
—
全校生徒の熱気と期待に包まれ、ついに幕を開けたクリスマス劇『ロミオとジュリエット』。
このままではジュリエット役のアニーが『泥団子』を食べてしてしまう……!
「私もすぐに後を追います……この毒饅頭で!」
次回
#41: すり替えられた泥団子:ジュリアンの脅迫に屈したパティーが仕掛けた恐るべき罠
「ダメだ、アニー! それを食べては……!」
お楽しみに!
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