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#41: すり替えられた泥団子:ジュリアンの脅迫に屈したパティーが仕掛けた恐るべき罠
窓の外で凍てつくような冬の風が吹きすさぶ、クリスマス休暇前夜——その数日前のこと。
冷え切った薄暗い渡り廊下で、ジュリアンは底意地の悪い笑みを浮かべ、パティーを壁際に追い詰めていた。
「夜間外出の件……教師に知られたら一発で退学だろうね、パティー」
「ひっ……! そ、それは……」
震え上がるパティーの耳元で、ジュリアンは蛇のように囁いた。
「黙っていてほしければ、クリスマス・パーティーの劇で、ジュリエットが食べる『毒饅頭』を、『泥団子』にすり替えるんだ」
「えっ……!?」
パティーは一瞬にして血の気を引き、首を激しく横に振った。
「む、無理だよ! そんな、ガラスの仮面みたいなこと、僕にはできないよ……!」
パティーの必死の抵抗を、ジュリアンは鼻で笑って一蹴した。
「へえ? じゃあ退学を選ぶんだね。今から荷造りの準備を手伝ってあげようか?」
「うぅ……っ」
絶望に顔を歪めるパティーを見下ろし、ジュリアンは満足げにその場を立ち去った。
——そして、迎えたクリスマス休暇前夜のパーティー当日。
学園の絢爛豪華な大講堂は、熱気と期待に満ちたざわめきで溢れていた。明日からの帰省を前に浮き立つ生徒たちが、年に一度の目玉である演劇『ロミオとジュリエット』の開演を今か今かと待ちわびている。
最前列の席には、ジュリアンの姿があった。
(全校生徒の前で、ジュリエットが泥を啜り、無様に咽び泣く姿……、なんと楽しげなクリスマスプレゼントだ。今夜は、面白いショーが見れそうだ)
ジュリアンは愉悦に身を震わせ、優雅に脚を組み替えた。
一方、熱気と緊張に満ちた舞台裏——。
「……ごめんなさい。本当に、ごめんなさい……ッ」
薄暗い大道具の陰で、パティーはガタガタと激しく震えながら、小道具の木箱を開けていた。
箱の中には、舞台道具の二つの毒饅頭が並んでいる。パティーは涙で視界を滲ませながら、そのうちの一つを取り出し、——泥団子へとすり替えた。
(こんなのダメだよ……北島マヤなら泥団子だって食べれるだろうけど、アニーには無理だよ……、劇は台無しになってしまう。でも、ジュリアンに逆らったら、僕は……!)
罪悪感と恐怖に押し潰されそうになりながら、パティーは逃げるようにその場を立ち去った。
しかし、その不審な挙動を、暗闇に溶け込む真っ黒な男——今夜は舞台監督兼「黒子」を務め、自ら全身黒タイツに身を包んだ生徒会長のジミーの鋭い視線が、静かに捉えていた。
やがて、重厚なベルの音が大講堂に響き渡り、幕がゆっくりと上がった。
物語は一気に終盤。舞台は暗い地下墓所へと移った。
「おお、悪毒な口づけよ! あなたの唇にはまだ温もりが残っているのに……!」
仮死から目覚めたジュリエット役のアニーが、息絶えようとするロミオ役のルーシャを強く抱きしめ、震える声で叫んだ。
「私もすぐに後を追います……この毒饅頭で!」
アニーが祭壇に置かれた団子へ手を伸ばす。
その瞬間、ルーシャの目がわずかに見開かれた。
(……あれは!?)
照明の下で光るそれは、どう見ても本物の泥団子だった。
(ダメだ、アニー! それを食べては……!)
——その時だった。
ズサーc⌒っ゜Д゜)っ
闇に同化した黒い影が、舞台に躍り出る。
(ジミー……!)
それは全身黒タイツのジミーだった。彼は驚くべき早業で泥団子を本物の小道具へとすり替えると、すれ違いざまに、ルーシャにだけ分かる鋭い視線を送ると、嵐のように消えていく——
間一髪だった……。あわや大惨事になるところだったが、事なきを得ると、劇は予定通り、クライマックスへと進んでいった。
大講堂は割れんばかりの拍手と感動の渦に包まれ、劇は、大成功のうちに幕を下ろした。
特等席のジュリアンだけが、ギリッと奥歯を噛み締めていた。
(……チッ。何も起こらないじゃないか! パティーのあの馬鹿……しくじりやがったな!)
一方、幕が下りた後の舞台裏。
安堵の息を吐くアニーを見つめながら、ルーシャはふと舞台袖の暗がりに視線を向けた。
そこには、ジミーがアニーに歩み寄り、何かを熱心に話しかけている姿があった。しかしアニーは彼と目を合わせようとせず、ただ怯えたようにうつむき、力なく首を振るばかりだ。
(……なんだろう。あの二人、なんだか変な空気だ……アニー、大丈夫なのかな)
そんな戸惑いをよそに、大歓声の余韻が残る講堂の外では、冷たい冬の風が木々の枝を激しく揺らしていた。
明日になれば、生徒たちは皆トランクケースを手に、それぞれの家族が待つ家へと帰っていく。熱狂に包まれたこの学園も、まもなく誰もいなくなる静かな冬休みを迎えようとしていた。
つづく
—
冬休み、学園を抜け出してアルバートと再会したルーシャ。
「ちょうど俺も仕事が終わったところだ。どうだ? これから二人で、ロンドンの夜の街に繰り出さないか」
次回
#42: 夜のロンドンと酔い潰れた恩人: 帰れないペントハウスで大人のアルファと二人きり
「起きてください! 僕、どうやって学園に帰ればいいんですか!?」
お楽しみに!
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