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#45: 初めてのヒートと銀のチョーカー: 溢れ出すオメガの熱と、買いに出かけた甘い証

古いレンガ造りのアパート最上階。ルーシャの冬休みが終わりを告げようとする夜、ペントハウスの大きな窓の向こうには、宝石を散りばめたようなロンドンの夜景が広がっていた。暖炉の中で薪が爆ぜる音だけが、静かな部屋に甘く響いている。 アルバートはソファに深々と体を沈め、グラスを傾けていた。黄金色に揺れる白ワインが、彼の指先で妖しく輝いている。 「おじさま……それ、美味しいんですか?」 ルーシャはアルバートのすぐ隣に腰を下ろし、興味深そうにグラスを覗き込んだ。 「少し飲んでみるか?」 「……うん」 アルバートが自分のグラスを差し出すと、ルーシャはそれを両手で受け取り、恐る恐る口をつけた。 甘い果実の香りがふわりと広がり、喉を滑り落ちていく。 「……少し甘いんだ」 ルーシャが小さく息を吐くと、アルバートは低く笑った。 「だろう? だが、甘いからといって油断するな。すぐに回るぞ」 同じグラスを回し飲みしているという事実に、ルーシャの胸が甘くざわついた。 アルバートの唇が触れた縁から飲んでいる——その事実に、頰がじんわりと熱を帯びる。 温かな部屋の空気とワインの余韻。そしてアルバートから漂う、深く甘い大人のフェロモンが、密室の空気をじわじわと溶かしていく。 (……すごく、心地いい) ルーシャは孤児院でもペンドルトン邸でも感じたことのない、絶対的な安堵と甘い疼きの中にいた。頰が火照り、心臓がうるさいほどに鳴り響く。 「……ルーシャ? 顔が赤いぞ」 アルバートが心配そうに身を乗り出し、大きな手でルーシャの額に触れた。 その瞬間—— 「あ……っ」 ルーシャの身体が、びくりと大きく跳ねた。 ワインの酔いなどとは比べものにならない、身体の芯から噴き上がるマグマのような熱が、一気に全身を駆け巡る。 「あっ……おじさま……っ、どうしよう……ぼく……んっ……////」 ルーシャの声が、甘く掠れて震えた。 アルバートの腕に触れるだけで、皮膚の下を熱い奔流が駆け巡り、これまで知らなかった底知れない飢えが、身体の奥底から一気に溢れ出す。 「……ルーシャ? 一体どうしたんだ」 アルバートの表情が驚きから深い困惑へと変わる。彼はルーシャの額に手を当て、次に荒い吐息を確かめた。その瞬間、アルバートの顔から血の気が引いた。 「……ルーシャ……まさか、君……ヒートが始まろうとしているのか……!?」 低く渋い声で呟かれた言葉とともに、ルーシャの視界が甘い熱に溶けていく。 「っ……あ、ぁ……っ! どうしよう……恥ずかしい……んっ……」 ルーシャは縋るようにアルバートのシャツを掴み、その広い胸に顔を埋めた。自分から発せられる甘く濃厚なオメガの香りが、部屋中に広がっていく。 アルバートが放つ圧倒的なアルファのフェロモンが、それに呼応するように濃密さを増し、ルーシャの本能を容赦なく揺さぶっていた。 アルバートはルーシャをソファにそっと横たえると、震える肩を強く抱き寄せた。その大きな手が背中を優しく、しかし抑えきれない熱を込めて撫でる。 「……ルーシャ、落ち着け。今、君の身体で何が起きているか分かるか?……君は今、ヒートを迎えようとしているんだ」 その低い声が、ルーシャの頭の中に重く、甘く響いた。 「ヒート……? そんな……どうして……っ、あ……」 「君がオメガとして、大人の階段を上り始めた証拠だ。だが……今の君には、この熱はあまりに強すぎる」 アルバートはルーシャの火照った頰を愛おしげに撫で、親指でそっと涙の雫を拭った。その瞳には、強い自制と、抑えきれない慈しみ、そして男としての渇望が混じり合っていた。 彼は一度深く息を吐き、ルーシャをソファに残して立ち上がった。 「いいかい、すぐに戻る。このまま大人しく待っていなさい。……絶対に、動くなよ」 数十分後、夜のロンドンの冷たい風を纏って戻ってきたアルバートの手には、小さな小瓶があった。それをルーシャの唇に優しく当て、ゆっくりと飲ませる。 薬が喉を通るにつれ、激しく渦巻いていた熱が、嘘のように引いていく。 ルーシャはアルバートの胸に寄りかかったまま、安心感と名残の甘い疼きの中で、深い眠りへと落ちていった。 ◇ 翌朝、冬の柔らかい陽光がペントハウスの大きな窓から差し込んでいた。 ルーシャは気まずそうに目を覚まし、昨夜の自分の痴態を思い出すなり、耳の先まで真っ赤に染まった。 必死にアルバートに縋りつき、甘い声を上げていた自分が、どうしても頭から離れない。 「……おじさま、昨日は……なんか、僕……どうかしちゃって」 ルーシャが恥ずかしそうに小声でそう漏らすと、アルバートは手元のコーヒーカップを静かに置き、ふわりと柔らかく笑った。 「気にすることない。君のような年頃のオメガには、当たり前に訪れることなんだ。恥ずかしがることはない」 アルバートは少し照れくさそうに視線を落とす。——いつも余裕のある彼がわずかに目を逸らしているのが、今のルーシャにはどうしようもなく新鮮で、愛おしく感じられた。 「薬は管理が厄介だ。君の身体を本当に守るなら、『チョーカー』を身につけるのが良いかもしれない」 ◇ 「お客様は、初めてのチョーカーですか? こちらの新作をぜひお勧めしますよ。熱を効率よく逃がし、フェロモンの漏れも完璧に抑えられます」 店主は二人の姿を見るなり、意味深な笑みを浮かべた。 ケースの奥から取り出された銀色のトレイの上には、まるで結婚指輪を選ぶように、様々な意匠のチョーカーが並んでいる。 「どれがいい? ……ルーシャ、君の白い首には、この細身の銀細工がよく似合うと思うんだが」 アルバートが指差したのは、月の光を閉じ込めたような、優美で繊細なデザインだった。 「……これ、ですか」 アルバートはルーシャの後ろに立ち、細い首に銀色のチョーカーをそっと嵌めた。 ひやりとした金属が素肌に触れ、カチリ、という小さな音が響いた瞬間、ルーシャは小さく息を飲んだ。 「……どうだ? 窮屈じゃないか?」 アルバートがルーシャの首筋に指を這わせ、優しく確認するように撫でる。 その熱い指先が肌を滑るたび、ルーシャの背筋に甘い震えが走った。 「いやはや、お似合いのカップルですね」 店主の一言に、アルバートの顔が一瞬で真っ赤に染まった。普段絶対に見せない狼狽えた表情に、ルーシャは思わず頰を緩めてしまう。 「……っ、そんなんじゃないよ!」 アルバートは低く呟き、そそくさと代金を払うとルーシャの手を引いて店を後にした。 外に出ても、アルバートはルーシャの手を離さなかった。 「これをつけていれば、学園に戻っても急なヒートに襲われることも、他の男に目をつけられることもない。安心しなさい」 アルバートの声は、ロンドンの冷たい冬の空気の中で、ひときわ温かく響いた。 ルーシャは首に嵌まったチョーカーにそっと触れながら、胸の奥が甘く疼くのを感じていた。この鎖は、ただ熱を抑えるためのものじゃない。アルバートに守られているという、甘く確かな証のように思えた。 つづく — 弱みを盾に脅迫されたパティーに突きつけられたのは、お茶会の席でルーシャの首元から『銀のチョーカー』を奪えという非道な命令だった。 「もし断るなら……無断外出の幇助を、理事長に報告させてもらうぞ」 次回 #46: 狙われた銀のチョーカー: ジュリアンの嫉妬と、お茶会に仕掛けられた非道な罠 「失敗は許さないよ。 パティ」 お楽しみに!

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