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#46: 狙われた銀のチョーカー: ジュリアンの嫉妬と、お茶会に仕掛けられた非道な罠

冬休みを終えた聖ファーガスン学院に、生徒たちの喧騒が戻ってきた。 教壇からチョークが黒板を叩くカツカツという音が響き、周囲の生徒たちが真面目に授業を受ける中、ルーシャは一人上の空だった。 少し肌寒い首元にそっと手を添え、ひっそりと思いを馳せる。そこにはアルバートが選んでくれた銀色のチョーカーが、静かに輝いている。それはルーシャにとって、自分が守られているという、甘く確かな証だった。 やがてチャイムが鳴り、トイレに向かうため渡り廊下を歩くルーシャを、遠巻きにする視線が追う。しかし以前のような、ねっとりとした卑猥な好奇の視線は影を潜めていた。首元に光るチョーカーが、彼がすでに誰かの所有物であることを無言で告げているからだ。 だがその静けさは、突然引き裂かれた。 トイレへと続く角を曲がった先、道を塞ぐように立っていたのはジュリアン・ペンドルトンだった。まるで待ち構えていたかのように、ルーシャが先へ進むことを許さない。 ジュリアンの冷めた琥珀色の瞳。——その視線が、ルーシャの首元で輝く銀の光を射抜いた瞬間、空気が一瞬で張りつめ、ルーシャは追い詰められたように立ち尽くした。 「……チョーカー、か」 ジュリアンの声は低く、危険な響きを帯びていた。彼はゆっくりと近づき、ルーシャの逃げ場を塞ぐように立ち止まった。 その瞳の奥で、嫉妬と残酷な欲望が禍々しく渦巻いているのがはっきりとわかった。 「冬休みの間に、ずいぶんと大人の階段を上ったようだな、マディ。一体、誰にその首輪を嵌められたんだ?」 ジュリアンの重く粘つくフェロモンが、ルーシャを圧倒するように絡みつく。 ルーシャは息を詰まらせ、後ずさろうとしたが、背中が壁にぶつかった。 「……何のことか、分かりません」 「とぼけるな」 ジュリアンは冷酷に微笑むと、指先でルーシャのチョーカーに軽く触れた。その瞬間、ルーシャの身体が小さく跳ねる。 「まあいい……すぐにわかるさ」 ジュリアンはそう言い残し、優雅に踵を返した。 その背中を見送りながら、ルーシャは背筋に冷たい戦慄が走るのを感じた。 ◇ 同日の午後。学園の特権階級だけが許された、重厚なプライベートサロン。 カツン……と、ビリヤードの球が乾いた音を立てて弾けた。 「……はぁ。どうして上手くいかないんだろうな」 生徒会長のジミー・マクブライドはキューをテーブルに預け、乱暴に頭を掻き毟った。快活な彼には似合わない、深いため息が何度も漏れる。 革張りのソファに深く腰を沈めていたジュリアンは、グラスの氷を優雅に揺らしながら、愉しげに目を細めた。 「まだアニーのことで悩んでいるのかい? クリスマス前に一度デートに誘い出すところまでは、俺が手伝ってやったじゃないか」 「ああ、その節は本当に感謝してる。だけど……」 ジミーは視線を落とし、唇を強く噛んだ。もどかしさと欲求不満が、その横顔に濃く滲んでいる。 「一度きりなんだ。あの日は少し笑ってくれた気もしたのに……それ以降、まったく進展がない。むしろ、最近はますます俺を避けている気がする。……男同士って、やっぱり無理なのかな」 純粋で熱い恋心を持て余し、傷ついているジミーの姿を、ジュリアンはグラス越しにじっくりと味わうように観察していた。 (あの下賤なオメガにここまで恋焦がれ、悶々とするなんて……本当に面白い) ジュリアンは内心で嘲笑いながら、さも親身な従兄弟のように柔らかく微笑んだ。 「……しょうがないな。そんなに落ち込まれると、従兄弟として見過ごせないよ」 彼はグラスをテーブルに置き、優雅に脚を組んだ。 「もう一肌、脱いでやろう」 「本当か、ジュリアン!?」 ジミーの顔が一瞬で明るく輝いた。 「ああ。近々このサロンを貸し切って、親睦を深めるためのお茶会を企画してやる。招待客はこちらで厳選するから、お前はアニーをエスコートしてくればいい。落ち着いた空間なら、あいつも少しは心を開くかもしれない」 「ジュリアン……! 本当に恩に着るよ! お前がいてくれてよかった!」 無邪気に目を輝かせ、喜びを露わにするジミー。 その姿を、ジュリアンは慈しむような笑顔で——その奥底では、獲物をゆっくりと網に追い込む冷酷な蜘蛛のような視線で、静かに見つめていた。 (さあ、舞台は整った。あとは……あの小生意気な首輪を外すための『駒』を手配するだけだ) ◇ その日の放課後、人気のない体育館裏。 ルーシャのルームメイト・パティーは、蒼白な顔で小さく震えていた。 その前に立つジュリアンは、ステッキを指先で優雅に回しながら、楽しげに微笑んでいる。 「パティー、お前に頼みがある」 「……何、ですか」 「近々、特権階級のサロンで特別なお茶会を開くことになった。そこにお前も、給仕の手伝いとして参加しろ」 「え……僕が、ですか?」 一般生であるパティーがそんな場所に呼ばれる理由などない。嫌な予感に身をすくめるパティーに、ジュリアンは冷たく甘い声を落とした。 「そのお茶会の席で、あの転校生——ルーシャの首元から、『銀色の首輪』を盗ってこい。やり方は問わない。紅茶をこぼすふりでも何でもして、確実に外せ」 ジュリアンの言葉に、パティーの顔から一気に血の気が引いた。 「そ、そんな……」 「もし断るなら……無断外出の幇助を、理事長に報告させてもらうぞ」 ジュリアンの声は低く甘く、しかし底冷えがした。 パティーの顔から一気に血の気が引く。逃げ場のない威圧と、弱みを握られた恐怖に、喉が乾く。 「わ、分かったよ……。やれば……黙っててくれるんだよね?」 パティーはうつむき、絞り出すような震える声で答えた。 ジュリアンは満足そうに目を細め、蛇のような妖しい笑みを浮かべた。 「いい子だ、パティー。賢明な判断だ」 彼はゆっくりと近づき、震えるパティーの顎をステッキの先でくいっと持ち上げた。冷たい金属の感触と、ジュリアンから漂う濃厚で支配的なアルファのフェロモンが、パティーを包み込む。 「失敗は許さないよ。 パティ」 ジュリアンの琥珀色の瞳が、愉悦と残酷な欲望にぎらぎらと輝いていた。獲物を追い詰め、いたぶることに悦びを感じる、飢えた獣のような視線。 パティーはただ、必死に頷くことしかできなかった。 学院の再開とともに、運命の歯車が、最悪の、そして最も危険な方向へと加速し始めていた。 つづく — 薔薇の香りと紅茶の芳香に包まれるサロンのお茶会。 二人の関係をねちねちと追及されるルーシャとアニー。 「……本当に怪しいな。実は君たち……付き合ってるんじゃないの?」 次回 #47: 決死の爆弾発言と狂気の高笑い: ルーシャを守るためのアニーの告白 「え……? アニー、何を言ってるんだ?」 お楽しみに!

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