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#47: 決死の爆弾発言と狂気の高笑い: ルーシャを守るためのアニーの告白
特権階級だけが利用を許されたプライベートサロン。そこは、濃厚な薔薇の香りと紅茶の芳香に包まれていた。
ジュリアンとジミーが企んだお茶会に同席するのは、彼らのほか、アニー、ルーシャ、そしてパティ。
サロンの隅では、パティの手が激しく震えている。銀のトレイを持つ指先は、血の気が引いて真っ白だ。
ソファに深く腰掛けたジュリアンは、グラスを優雅に回しながら、鋭い視線をパティへと突き刺す。その琥珀色の瞳が無言で下すのは、「さあ、動け」という冷酷な命令——。
その異常な空気に一番早く気づいたのは、アニーだった。
(……パティの様子がおかしい)
自身もジュリアンに弱みを握られ、支配されているアニーには、パティの泳ぐ視線と追い詰められた表情の意味が痛いほどわかった。
(ジュリアンに脅されている……)
痺れを切らしたジュリアンが、わざとらしく大きな溜息をついた。
「パティ、紅茶の差し替えはどうしたんだい? そろそろ時間だろう」
その甘く低い声に、パティの肩がびくりと跳ねた。顔を真っ青にしたパティは震える足取りでルーシャに近づき、不自然に手を伸ばす。その指先は、ルーシャの首に光る銀色のチョーカーを狙っていた。
「……ルーシャ、ごめん……!」
パティがチョーカーに手をかけた瞬間、アニーが素早くその細い腕を掴み、強く引き止めた。
「パティ、ダメだ! そんなことしちゃダメだ!」
アニーはパティの腕を振り払い、ルーシャを庇うようにして前に出た。その瞳には、強い怒りと決意が宿っている。
「パティ……どうしてそんなことをする!?」
普段の大人しいアニーからは想像もつかない、鋭い声がサロンに響き渡った。
空気が一瞬で凍りつく。
そこへ、ジュリアンが悠然と立ち上がり、ゆっくりと歩み寄ってきた。彼はわざとらしく目を丸くし、首を傾げた。
「……何のことだい? アニー」
冷たい琥珀色の瞳を細め、ジュリアンは愉しげに唇の端を吊り上げた。
「パティはただ給仕をしていただけじゃないか。君はどうしてそんなにムキになっているんだい?もしかして……パティが何か悪いことをしようとしたと、そう言いたいのかい?」
「それは……あなたがパティに命じたんだろ! あなたの企みじゃないか!」
アニーの糾弾に、ジュリアンは心底愉快そうに低く笑った。その笑い声は甘く、しかし底冷えがした。
「私の企み? 随分と荒唐無稽な話だな。……なあ、ジミー。君もそう思うだろう?」
ジミーもまた、不審そうな顔で立ち上がり、アニーをじっと見つめた。
「……アニー。お前、どうしてそんなにムキになってるんだ?」
ジュリアンは滑るようにルーシャとアニーの間にすっと入り込み、二人の顔を交互に、ねっとりと舐めるような視線で眺めた。
「どうしたんだい、二人とも。随分と必死だね……。マディ(ルーシャ)は君にとって、そんなに大事な友達なのかい? それとも……君たちがここまで必死に否定する理由は、他に何かあるのかな?」
ジュリアンの声は甘く低く、まるで蜜に毒を溶かしたような響きを帯びていた。
アニーは心臓が爆ぜそうなほど激しく鼓動するのを感じながら、必死に声を絞り出した。
「違います! 僕たちはそんなんじゃない! ほんの少し前に知り合ったばかりで……別に、特別な関係なんかじゃない!」
ルーシャも恐怖を押し殺し、力強く首を振った。
「そうです! 僕たちは何もありません! なぜそんなに疑うんですか!」
二人のあまりに必死な形相に、ジュリアンはわざとらしく「あれれ?」と首を傾げ、氷のように冷たい笑みを深めた。
「……本当に怪しいな。そんなに必死に否定するなんて、よほど裏があるんじゃないのかい? 実は君たち……付き合ってるんじゃないの?」
ジュリアンの琥珀色の瞳が、獲物を仕留める直前の獣のような輝きを放つ。その視線はルーシャの首元のチョーカーを一瞬捉え、嫉妬と残酷な欲望を隠しきれなかった。
嘘で塗り固められた関係に、ほんの小さな亀裂が走り始めていた。
サロンに重く甘ったるい沈黙が落ちる。
その空気を切り裂いたのは、戸惑いを隠せないジミーの声だった。
「……何言ってんだよ、ジュリアン! そんなわけないだろ!」
ジミーは苛立ちと困惑を混ぜた声で笑い飛ばした。しかしその笑いはどこか無理をしているようにも聞こえた。
「ルーシャとアニーだぞ? 劇でたまたま共演しただけの二人が付き合ってるなんて、ありえないだろ。冗談も大概にしろよ」
ジミーは苛立った様子で肩をすくめ、アニーの細い腕を強引に掴んで引き寄せた。
「……アニー、行くぞ。こんな気分の悪いお茶会、もうお開きだ」
だが、アニーはうつむいたまま、一歩も動こうとはしなかった。ジミーが力を込めても、まるで行く手を拒むように、その場に固執して動かない。
「……付き合ってたとしたら、何だって言うんだ」
アニーの唇から、地面を這うような小さな呟きが零れた。
「え……? アニー、何を言ってるんだ?」
ジミーが眉をひそめた瞬間、アニーの感情が堰を切った。
「付き合ってたとしたら何だって言うんだよ! 僕たちがどうしようと、勝手だろ!?」
アニーは顔を上げ、涙でぐしゃぐしゃになった瞳を剥き出しにして叫んだ。
「そうだよ! 僕は、ルーシャに惹かれてるんだ! ルーシャのことが、好きなんだよ……!!」
その声は震え、悲痛で、それでいて必死だった。
激しい告白を残し、アニーは取り乱したようにサロンを飛び出していった。
ルーシャは、その背中に、親友が追い詰められた末に放った痛切な「覚悟」を感じ取り、胸を締め付けられた。
残されたサロンに、重い沈黙が落ちる。
「……ひはっ! はははははははっ!!」
静寂を切り裂くように、ジュリアンの狂ったような高笑いが響き渡る。
残されたジミーだけが、掴んでいた手の感触を失ったまま、今起きた現実が理解できずにポカーンと呆然とその場に立ち尽くしていた。
つづく
—
ジュリアンの甘い言葉に乗せられ、バレンタインデーにアニーへ決死の告白に挑んだジミー。
「どうしてなんだよ、アニー! 理由を教えてくれ! 俺は……俺は本気なんだ!」
次回
#48: 砕け散った純情とバレンタインの悲劇: ジュリアンの甘い罠と、拒絶されたジミーの告白
「……ごめんなさい、ジミー」
お楽しみに!
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