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#49: 狂気の転校生と目覚める服従: ドレスを脱いだジュリアの襲来と、逃れられないアニーの運命
「……なあ、聞いたか? 生徒会長のジミー先輩のことだよ」
放課後の生徒会室、人目につかない一角で、何人かの役員たちが声を潜めて囁き合っていた。
「ああ、最近のあの元気のなさだろ?」
「……噂じゃ、バレンタインに盛大に失恋したらしいんだ」
「……しかも体育館の裏で、玉砕必至だったとか……」
「……激しい修羅場だったらしいぜ……」
噂話に花を咲かせていた彼らが、不意に口を閉ざす。重厚な扉が開き、目の前に現れたジミーの姿に、その場が凍りついたからだ。
かつての覇気はどこへやら、ジミーはひどく青ざめた顔で力なく扉を閉めると、その場に崩れ落ちるように椅子の背に身を預けた。見るからに魂が抜けたようなその姿に、後輩である副会長のニールが困惑気味に駆け寄る。
「ジミー先輩……一体どうしたんですか? そんなに落ち込んで。先輩らしくないですよ!」
「……ああ、悪い、ニール。心配かけて……ちょっと、な」
ジミーは絞り出すようにそう答えると、深いため息をついて視線を彷徨わせた。
あの痛々しいバレンタインの嵐が過ぎ去ってから、しばらくの時が経っていた。ジミーは未だにアニーの拒絶を引きずり、胸の奥に澱のような苛立ちと欲求を抱えたままだった。一方、ルーシャもまた、アルバートに渡せなかったチョコレートをポケットの奥に隠したまま、甘い未練をくすぶらせていた。
そんなバレンタインの重い空気がようやく薄れ始めた頃——。
聖ファーガスン学院に、学園中をざわつかせる新しい噂が広がり始めた。
転校生がやってくるらしい。——それも、二人同時に。
生徒たちの好奇の視線が集まる中、学園の長い回廊に、その二人の転校生が姿を現した。
先頭を歩くのは、琥珀色の瞳と完璧な美貌を持つ青年。その後ろには、影のように寄り添う、女性のように華奢で小柄な青年が付き従っている。
その二人の姿を廊下の先で見とがめたジュリアンの足が、ピタリと止まった。
冷徹なはずの彼の瞳が、驚愕に大きく見開かれる。無理もない。先頭を歩くその青年は、顔立ちから背格好に至るまで、ジュリアンとまるで鏡写しのように瓜二つだったのだから。
ただ一つ違うのは、かつて彼女が身を鎧っていた豪奢なドレスや、素顔を塗り潰すような厚い化粧が、跡形もなく消え去っていることだった。
「……まさか。本当にお前なのか、ジュリア……?」
ジュリアンが信じられないといった様子で声を絞り出すと、ジュリアンそっくりの青年——ジュリアは、口の端をニヤリと吊り上げてみせた。
「そうだよ、兄貴。驚いたか?」
かつてのヒステリックで甲高い『お姫様』の声はそこにはなく、低く作られた男の声音だった。
「本家の更生プログラムで、俺はすっかり心を入れ替えたんだ。女の仮面なんてもう捨てたよ。これからは本来の男の姿で、俺もここで学ぶことにした。……改めてよろしくな、これからは兄弟として仲良くやろうぜ」
ジュリアはそう言って、ジュリアンの肩を馴れ馴れしく、少し乱暴にポンと叩いた。そのあからさまに「男らしい」振る舞いの裏に、どんな狂気や思惑が隠されているのか、ジュリアンは目を細めて探ろうとする。
「……ところで。お前の後ろで震えている男は誰だ?」
ジュリアンの冷ややかな視線が、ジュリアの後ろで小さくなっている華奢な青年に向いた。見覚えのある顔立ちだが、今は立派な男子生徒の制服を着せられている。
「ああ、こいつか? 俺の身の回りの世話係として連れてきたんだよ。年は随分上なんだけど、サバを読んで生徒ってことにして潜入させてるのさ。なあ、ツェー? お前もしっかりしろよ」
「えっ……あ、は、はい。僕、は……その……」
かつてメイド服を着せられ、屋敷で虐げられていた『ツェー(Tseh)』は、男子生徒の制服に身を包みながらも、おどおどと視線を彷徨わせた。
その弱々しい態度に、ジュリアはすかさず舌打ちをして、ツェーの脇腹を小突いた。
「おい! ここは男子校なんだから、『僕』じゃねえよ。『俺』って言えって教えただろうが!」
「ひっ……ご、ごめんなさい! お、俺は……!」
慌てて言い直して身を縮めるツェーを見て、ジュリアは「まったく、世話が焼けるぜ」と大げさに肩をすくめてみせた。
◇
ジュリアは、傍らに侍る付き人のツェーを引き連れ、誰にでも気さくに声をかけ、瞬く間に学園の人気者となっていった。
(生まれ変わった……そうさ、これが新しい俺だ)
ジュリア自身も、この「男子としての新たな人生」を誰よりも楽しんでいた。
そんなジュリアの姿を、アニーは校舎の渡り廊下から遠く見つめていた。
人当たりの良い笑顔と洗練された所作。
周囲の生徒たちは誰もが彼を「性格の良い転校生」だと信じている。
だが、アニーの胸だけに、冷たい警報が激しく鳴り響いた。
(……あれは……ジュリア様……)
たとえ姿が変わっても、あの纏う空気と、ふとした瞬間に覗く冷徹な瞳の奥底——間違いなく、自分を地獄に引きずり込んだあの人だった。
その時、中庭で笑っていたジュリアがふと顔を上げた。
視線が、渡り廊下のアニーと重なる。
ジュリアは周囲に気づかれない程度に、口元を妖しく歪めた。それはかつてサロンで見た、残酷で甘い支配者の微笑みだった。
ジュリアは人波をかき分け、ゆっくりとアニーのいる渡り廊下へと歩み寄ってくる。
アニーの心臓が激しく鳴り、逃げ出したいのに足がすくんで動かない。
恐怖ではない。かつての服従の記憶が、オメガの本能を再び鎖のように締めつけ、甘く痺れさせる。
ジュリアはすぐ目の前まで近づくと、誰にも聞こえないほどの距離で唇をアニーの耳元に寄せた。
「……気づいたか、アニー。俺だよ」
「……ジュリア様……っ」
アニーの唇が震えながらその名を呼ぶ。
その瞬間、アニーの瞳から抵抗の光が消え、深い悦びと絶望が混じり合った、歪んだ献身の色が浮かび上がった。
つづく
—
爽やかな男子生徒として生徒会に潜り込んだジュリア。
しかし、かつて「お姫様」だった頃の記憶が、アニーのオメガの本能を狂わせていた!
「……僕を……支配してください。あの夜みたいに」
次回
#50: 外されたチョーカーと放課後の密室: 狂い出すアニーの本能と、ジミーが目撃した残酷な情事
「あっ……んっ……ジュリア様……/////」
お楽しみに!
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