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#51: 暴走の代償と二重のチョーカー: 骨抜きにされたジュリアと、狂気に堕ちる生徒会長
放課後の特権階級だけが利用を許されたプライベートサロン。重厚な扉の向こうでは、破壊の音が冷たい空気を切り裂いていた。
ガシャァァンッ!!
「……くそっ、くそぉぉぉっ!!」
高級なクリスタルグラスが壁に叩きつけられ粉々に砕け散り、ビリヤードの球が乱暴に床へ払い落とされて鈍い音を立てて転がっていく。
失恋の決定的な拒絶、そして何よりも、アニーとジュリアが重なり合う姿を直接目撃したという衝撃は、生徒会長であるジミー・マクブライドの理性を完全に焼き切っていた。
「おいおい。随分と手荒な真似をするじゃないか、ジミー」
革張りのソファに深く腰を沈め、優雅に脚を組んでいたのはジュリアンだった。まるで高級な劇場の特等席で、喜劇を観劇しているかのような余裕の態度だ。
いつもなら頼れる従兄弟に愚痴をこぼしていたジミーだったが、今の彼にはもうそんな理性は残っていなかった。
血走った目でジュリアンを睨みつけると、獣のような勢いで距離を詰め、ジュリアンの胸ぐらを両手で力任せに掴み上げ、壁へと叩きつけた。
「……ッ!」
「お前、知っていたんだろ!?」
ジミーの怒号がサロンにビリビリと響き渡る。
「アニーが……ジュリアとできていることを! 知っていながら俺を焚きつけたのか!? 俺をピエロにして楽しんでいたのかよ、ジュリアン!!」
胸ぐらを乱暴に掴まれ、愛用の黒檀のステッキを床に落とされながらも、ジュリアンは底知れない琥珀色の瞳で平然とジミーを見つめ返した。
「おやおや、手荒いな。……だが、私は何も知らないよ」
一切の動揺を見せず、冷淡に言葉をはぐらかすその態度は、ジミーの怒りをさらに煽った。
「ふざけるなッ!!」
ジミーはジュリアンを乱暴に突き放すと、忌々しげに舌打ちをし、嵐のようにサロンを飛び出していった。
バタン! と重い扉が閉まる音が響いた後、サロンには再び静寂が戻った。乱れた襟元をゆっくりと直しながら、ジュリアンは冷ややかに目を細めた。
(……アニーとジュリアが、できている?)
ジミーのただならぬ錯乱ぶりと、その言葉の端々に、ジュリアンは強い疑念を抱いた。
ジュリアは本家の更生プログラムを受け、男として大人しく学園生活を送っているはずだ。それがオメガの身でありながら他の生徒とそういう関係にあるなど、にわかには信じ難い。
真相を確かめるため、ジュリアンは足早にジュリアが暮らす特別寮の部屋へと向かった。
◇
ジュリアの部屋の扉を開けると、室内は妙に静まり返っていた。
奥の洗面所から、微かな水音が聞こえてくる。ジュリアンが足音を殺して近づくと、そこにはツェー(Tseh)がいた。桶に溜めた水の中で、ジュリアの汚れた下着をごしごしと丁寧に手洗いしているところだった。
「……ツェー。ジュリアはどこだ。あいつ、また何かやらかしたんじゃないのか? 学園で妙な噂が立っているぞ」
ジュリアンの低く鋭い問い詰めに、ツェーは手を止め、濡れた手をタオルで拭きながら小さく息を吐いた。
「やっぱり……」
ツェーは声を潜め、意味深な笑みを浮かべた。
「実はジュリア様、チョーカーを外してしまって……ヒートが来て暴走しかけていたんです。ですが、私の方で『たっぷり』処置 しておきましたから、ご心配なく」
そう言いながら、ツェーはジュリアンに向かって艶っぽく片目を閉じてみせた。
その言葉とウィンクの意味に、ジュリアンは眉をひそめた。
「私はただの世話係としてここにいるわけではありません。本家から、ジュリア様が再び暴走しないための『お目付け役』として密命を受けています。今は薬も飲ませて落ち着かせましたので、あちらの部屋で休ませていますよ」
ツェーに促され、ジュリアンは奥の私室の扉を開けた。
ベッドの上に力なく横たわっていたジュリアは、ジュリアンが入ってきた気配にゆっくりと身を起こした。
目を引いたのはその首元だった。暴走のペナルティとして、ツェーによって黒革のチョーカーが「二重」にロックされ、ガチガチに嵌められていた。逃れられない枷のように、重なり合った革が首筋に食い込んでいる。
「……お前、何をしでかしたんだ?」
ジュリアンが冷たく見下ろしながら問うと、ジュリアはあっけらかんとした顔で肩をすくめた。
「よく覚えてないんだが……もう大丈夫だよ。ツェーの世話になったから、ヒートは治った」
その軽い態度に、ジュリアンは厳しい声でたしなめた。
「お前、今度またチョーカーを外して好き勝手な真似をしたら、本家の更生プログラムに逆戻りだぞ」
しかしジュリアは怯える様子もなく、首元の二重のチョーカーを細い指でなぞりながら、どこか艶っぽい笑みを浮かべて兄を見上げた。
「……分かってるよ、兄貴。もう外さない。二度とね。これからは真面目にやるさ……」
かつての高慢で毒々しい「お姫様」の面影は、もうそこにはなかった。本家の更生プログラムと、ツェーという絶対的な管理者の存在によって、ジュリアの脅威は完全に骨抜きにされていた。
ジュリアンが冷ややかにその様子を見届けていた頃——。
サロンを飛び出したジミーの怒りは、行き場を失ったままドロドロと煮詰まり続け、やがて学園全体を巻き込む、最悪の暴挙へと変わろうとしていた。
つづく
—
ジミーのアニーに対する怒りは、陰湿な「トイレ封鎖」虐めへと変貌する。
チョロチョロ……と、惨めな水音が廊下に響く。
次回
#52: 生徒会長の暴君化と残酷な包囲網: 絶望のアニーを絡め取る、ジュリアンの甘い毒
「……安心しろ、アニー。これからは俺が、お前を守ってやるからな」
お楽しみに!
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