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#53: 暴君の懺悔と奇妙な絆: 傷だらけの生徒会長と、ルーシャの温かな眼差し

ジュリアンの巧妙な差し金によってアニーとジミーがデートをしていたことも、バレンタインにジミーがアニーから決定的な拒絶を受けていたことも、ルーシャは一切知らなかった。さらに、あの放課後、生徒会室の長机の上でアニーとジュリアが重なり合っている現場をジミーが目撃してしまったという、決定的な悲劇さえも知らなかった。 ルーシャはただ、あのお茶会でアニーが「ルーシャが好きだ」と絶望の中で叫んだ、あの痛切な告白だけを抱えたまま、事件の裏側に取り残されていた。 ◇ 放課後、ルーシャは生徒会室を訪れた。そこにはアニー、そしてジミーの姿はなく、留守を預かる下級生役員たちが声を潜めて囁き合っていた。 「とうとう漏らしちまったな、あいつ……」 「しかし、少しやり過ぎじゃないのか?」 「それだけのことをしたんだ。自業自得だろ?」 「あいつ、ジミー先輩のお気に入りだったのに……」 「可愛さ余って憎さ百倍ってやつか……」 ひんやりとした空気が漂う室内で、ルーシャは息を呑んだ。アニーを極限まで追い詰めた主犯がジミーであること、そしてその引き金が「アニーの拒絶」だったらしいことを、ルーシャは静かに推測した。 体育館裏の薄暗い影の中、ジミーは一人で壁に寄りかかっていた。 かつての陽気で堂々とした生徒会長の面影はなく、その横顔には深い疲労と苦悩が張り付いていた。 ルーシャは意を決して近づき、静かに声をかけた。 「この前のアニーの一件……あれはジミー、君がやったことなんだね?」 不意を突かれたジミーの肩がビクッと跳ねた。彼はアルファとしてのプライドと動揺を隠すように、すぐに顔を背けた。 「……何のことだ。僕は関係ない。ただのクラスのいじめだろ?」 それはあまりにも脆く、弱々しい虚勢だった。 ジミーの心はすでに限界を迎えていた。アニーを愛するがゆえに、裏切られた怒りに我を忘れ、全校生徒の前で失禁するまで追い詰めてしまった。その事実が激しい後悔と罪悪感となって、彼自身を内側から容赦なく切り刻んでいる。 そんな痛々しいジミーに対し、ルーシャは決して冷たい目を向けなかった。 クリスマス劇の終盤、パティがすり替えた泥団子からアニーを守るため、黒子になってまで必死に舞台を駆け回ってくれたあの姿。ジミーの本来の「真っ直ぐな優しさ」を、ルーシャは誰よりもよく知っている。(41話参照) 「ジミー、君は、本当は悪い人じゃないよ。僕は知ってる」 ルーシャの柔らかく、けれど芯のある声が静かに響いた。 「……よかったら、話してくれないか? 何があったんだ」 決して自分を拒絶しようとしない、その温かな響きに、ジミーの内で張り詰めていた糸がついに音を立てて切れた。 彼は顔を覆っていた手をゆっくりと下ろし、胸の奥を焦がし続けていた疑問を、すがるようにルーシャにぶつけた。 「……じゃあ教えてくれ。あのお茶会の時、アニーはどうして『君を好きだ』なんて叫んだんだ!? 君たちの間には、一体何があるんだよ……!」 血を吐くような切実な問いかけに、ルーシャは驚きながらも真っ直ぐに首を振った。 「分からないよ。僕たちは知り合ったばかりだし、そんな深い仲じゃない。あれは……ジュリアンが言った、ただのかまかけの嘘に、アニーが追い詰められて動転しただけだと思う……」 「かまかけ、だと……?」 「うん……でも、どうしてジュリアンがそんな嘘をついたのかは、僕にも分からない」 その言葉を聞いた瞬間、ジミーはハッと息を呑んだ。 「アニーの駆け引きだ」というジュリアンの甘い言葉に踊らされ、自分はずっと愚かなピエロにされていたのだと、ようやく気づき始めた。 混乱と絶望の中で、ジミーは胸の奥で最も黒く渦巻いていた疑惑を、震える声で口にした。 「……じゃあ、ジュリアは? あの二人の間には、一体何があるんだ……?」 アニーが自分を拒絶し、ジュリアに溺れていた。その理由がどうしても理解できず、ジミーは思わず探りを入れてしまった。 しかしすぐに自嘲気味に笑い、弱々しく付け加えた。 「……いや、君が知るわけないよな」 だがその一言で、ルーシャの中でバラバラだったピースが一気に繋がった。 ジミーがアニーをあそこまで残酷に追い詰めたのは、ただの失恋の腹いせなどではない。あのジュリアに関係があったからだ——。 ルーシャは、痛ましい顔で立ち尽くすジミーをじっと見つめ、静かに尋ねた。 「……何か、あったんですね」 その瞳には、悲しみと静かな確信が宿っていた。 「アニーを許せなかったの?」 静かで逃げ場のないルーシャの眼差しの前で、ジミーはついに耐えきれなくなったように首を深く垂れると、震える声で、自分の弱さと取り返しのつかない過ちを、吐き出すように告白した。 「……ああ。僕がやったんだ。僕が弱くて、惨めで……あんな酷いことをしてしまった」 その懺悔の言葉を、ルーシャは静かに、優しく受け止めた。 かつて魔城ペンドルトンでジュリアの狂気に直接触れ、その恐ろしさを身をもって知っているルーシャだからこそ、ジミーがジュリアによって狂わされ、壊されていった痛みが痛いほど理解できた。 「話してくれて、ありがとう。ジミー」 ルーシャの柔らかい声は、罪を責めるでもなく、ただ温かくジミーを包み込んだ。 全校生徒の前では冷酷な暴君として振る舞いながら、心の奥底では激しい後悔と孤独に苛まれていたジミーにとって、ルーシャのその一言は、唯一無二の救いとなった。 ルーシャにとっても、過去を隠して息苦しく過ごす学園生活の中で、初めて自分の意思で誰かに寄り添い、本音を共有できた相手がジミーだった。 アニーを巡るドロドロとした愛憎劇の裏側で——。 二人の間に、ぎこちなくもどこか温かい、奇妙な絆が静かに芽生え始めていた。 つづく — 生徒会の用事と偽り、ルーシャをロンドンの街へ連れ出したジミー。触れ合った手はいつしか甘く密着した『ラブ♡繋ぎ』へと変わっていく。 「……お前たち付き合ってるのか? そっちの彼が、ルーシャの彼氏ってわけか?」 次回 #54: 夕暮れのラブ繋ぎと忍び寄る影: ジミーの甘いエスコートと、ジュリアンの黒い嫉妬 「えっ!? ち、違いますよ! そんなんじゃないです」 お楽しみに!

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