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#54: 夕暮れのラブ繋ぎと忍び寄る影: ジミーの甘いエスコートと、ジュリアンの黒い嫉妬
あの日、体育館裏で互いの弱さと痛みを共有して以来、ルーシャとジミーの間には、以前のようなよそよそしい空気はすっかり消えていた。
ある日の放課後、ジミーは少し照れくさそうにルーシャの元へやってきた。
「ルーシャ、今度の週末なんだけど……予定あるか?」
「えっ? いえ、特にはないですけど……」
「それなら、生徒会の仕事で姉妹校との交流会があるんだ。悪いんだけど、手伝いとして一緒に来てくれないか?」
「は、はい……」
ルーシャが承諾すると、ジミーの顔がパッと明るく輝いた。
◇
そして迎えた週末。
二人は学園の正門前で待ち合わせ、連れ立ってロンドンの街へと向かった。
しかし、先方との待ち合わせ場所である時計塔の下に到着しても、相手の姿は一向に現れない。
しばらく待った後、ジミーは気まずそうに頭を掻いた。
「おかしいな……先方が来ない。俺、もしかして予定を間違えたかも……」
「えっ、そうなんですか?」
ルーシャが驚いて目を丸くすると、ジミーは「ごめん!」と両手を合わせた後、少しだけ声を弾ませて言った。
「でもさ、全寮制の学園からそう簡単に外出許可なんて出ないだろ? せっかくロンドンの街に出られたんだから、このまま少し散歩していかないか?」
その誘いに、ルーシャの胸が小さく跳ねた。
「……はい。ぜひ」
冬の寒さが少し和らいだロンドンの街並みは、活気に溢れていた。
二人は肩を並べて石畳の通りを歩き、ショーウィンドウを眺めたり、他愛もない会話を交わしたりした。
ジミーはふと足を止め、照れくさそうにルーシャを横目で見ながら言った。
「腹減っただろ。何か食おうぜ」
ジミーが足を止めたのは、香ばしい匂いを漂わせるホットドッグの屋台の前だった。彼は手慣れた様子で二つ買い、一つをルーシャに手渡した。
「ほら、熱いうちに食えよ。これはこうやって食べるんだぜ」
ジミーはそう言うと、豪快に手づかみでホットドッグに思い切りかぶりついた。実はこれがアニーとのデートに続いて人生で二回目の屋台飯だったが、そんな事情を知らないルーシャは目を丸くして感心した。(38話参照)
「すごい……! ナイフとフォークを使わずに、そんな風に手で食べていいんですか?」
「いいんだよ。これはそういう食べ物なんだ。街角でこうやって食べるのが一番美味いんだぜ」
ジミーは得意げに笑ってみせた。
ルーシャも恐る恐る包み紙を手に持ち、小さく口を開けてパクリとかじりつく。
「……んっ、美味しい!」
「だろ?」
口の端に少しソースをつけて無邪気に笑うルーシャの顔を見た瞬間、ジミーの胸の奥が甘く疼いた。
(……なんて綺麗に笑うんだろう)
いじめの輪に決して加わらず、誰に対しても真っ直ぐで、どんな理不尽な状況でも自分の気高さを失わない。
そんなルーシャの優しさと芯の強さに、ジミーはいつの間にか深く惹かれ始めている自分に気づいていた。
「あ、そうだ。ジミー、……僕の行きたいところにも付き合ってもらえませんか?」
◇
ルーシャの提案で二人が足を運んだのは、リージェンツ・パークの片隅にある『ペンドルトン動物園』だった。
「おや……可愛いカボチャくんが、今日は随分と立派なエスコートを連れてきたじゃないか」
動物たちの世話をしていたアルバートが、振り返りざまにサングラスの奥で目を細めた。
「アルバートおじさま! 今日はちゃんと学園の許可を取って出てきたんですよ。こちら、生徒会長の……」
ルーシャが紹介しようとしたその時、ジミーが一歩前に出て、真っ直ぐに手を差し出した。
「初めまして。ジミー・マクブライドです」
その名を聞いた瞬間、アルバートの動きがピタリと止まった。
サングラスの奥の鋭い視線が、ジミーの顔をじっくりと値踏みするように見つめる。
「……マクブライド、ね」
アルバートはサングラスを少しずらすと、口の端を上げてどこか面白そうに目を細めた。
「それにしても、ずいぶんと仲が良さそうだな。なんだ、お前たち付き合ってるのか? そっちの彼が、ルーシャの彼氏ってわけか?」
「えっ!? ち、違いますよ! そんなんじゃないです!」
大人の余裕たっぷりの冷やかしに、ルーシャは耳の先まで真っ赤にして慌てて否定した。
しかし、隣に立つジミーは否定するどころか、少し照れくさそうに頭を掻きながら、照れたような、でもまんざらでもない笑みを浮かべていた。
「まあ……俺としては、そうなれたら嬉しいんですけどね」
「ジ、ジミーっ!?」
ルーシャが真っ赤になって抗議の声を上げると、アルバートは豪快に腹を抱えて笑い出した。
「はははっ! いい男じゃないか、ルーシャ。またいつでも遊びに来いよ」
◇
夕暮れのロンドン。
オレンジ色の柔らかな光に包まれた街を、二人は学園への帰路についていた。
冷たい冬の風が吹く中、歩く二人の手が不意にコツンと触れ合った。
ルーシャがビクリとして手を引っ込めようとした瞬間、ジミーの大きな温かい手が、ルーシャの細い手をそっと包み込んだ。
「あ……」
「……少し、寒いから」
ジミーは前を向いたまま、照れくさそうに低い声で呟いた。
最初はただ軽く握っているだけだった。しかし、ジミーの指がゆっくりと動き、ルーシャの指の間へと滑り込み、隙間なく深く絡めていく。
やがて二人の手は、甘く密着した『ラブ♡繋ぎ』へと変わっていた。
ルーシャの心臓が、早鐘のように激しく鳴り始めた。
ジミーの手から伝わるアルファの力強く安定した熱と、自分を大切に包み込むような優しさに、ルーシャの頰は夕陽よりも濃く赤く染まっていた。
繋いだ手のひらから伝わる甘い緊張と鼓動——。それは紛れもなく、互いの想いが静かに通じ合い始めた証だった。
しかし、その甘い魔法は長くは続かなかった。
聖ファーガスン学院の重厚な鉄門が見えてきた途端、現実の冷たい空気が二人を包み込んだ。
周囲の生徒たちの目を意識し、二人は名残惜しそうにパッと手を離し、少し距離を開けた。
「……じゃあ、また明日な、ルーシャ」
「はい……おやすみなさい、ジミー」
ぎこちなく、けれど柔らかい笑みを交わして別れの挨拶をし、二人はそれぞれの寮へと足早に向かった。
だが、彼らは気づいていなかった。
校舎の陰、冷たい石壁の暗がりから、その一部始終をじっと見つめている者がいたことを。
漆黒の外套を纏った——ジュリアン・ペンドルトン。
彼の冷徹な琥珀色の瞳は、先ほどまで固く手を繋いでいた二人の姿を、ねっとりと、蛇のような嫉妬の色を帯びて睨みつけていた。
つづく
—
甘く危険な言葉でアニーを追い詰めていくジュリアン。「あ……だめ、っ……」
「お前……もう発情しているくせに、随分と可愛い嘘をつくじゃないか」
次回
#55: 外されたチョーカーと甘い嗜虐: ジュリアンの残酷な支配と、懇願するアニー
「……僕を虐めてください。ジュリアン様……僕だけを……虐めて……っ」
お楽しみに!
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