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#58新たな標的と予期せぬ救世主:空っぽの相部屋と極限のいじめ、首輪を引かれたジュリア

深夜の激しい乱闘の翌日。 いつものように学園の朝が始まり、冷たいチョークの音が教室に響いていたが、ルーシャは一日中上の空だった。 『サリー姉さんが、どんなに傷ついて、苦しんだことか……』 (僕が……僕がサリー様を傷つけたんだ……) あの夏の日、ペンドルトンの屋敷で交わしたサリーとの甘く切ない時間。——ジュリアに逆らえなかった自分の弱さが、結果的に純粋なサリーを深く傷つけてしまった。その事実は、どんなに目を背けても消えることはない。ジミーが自分を憎むのも当然だ。(24話参照) 罪悪感が胸の奥を重く締めつけ、息をするたびに苦しくなる。ルーシャは一日中、その痛みに苛まれ続けていた。 「ルーシャ……? どうしたの、顔色が悪いよ?」 隣の席のパティーが心配そうに覗き込んでくるが、ルーシャは力のない笑みを浮かべて誤魔化した。 「なんでもないよ……ちょっと寝不足なだけさ」 放課後、重い足取りで自室に戻ったルーシャは、ドアを開けた瞬間、息を呑んだ。 「……あ」 昨日まで確かにそこにあったはずの、ジミーのトランク、机の上に散らばっていた本——彼の私物が一つ残らず消えていた。 ジミーは自分を完全に拒絶し、かつての特別寮へと戻ってしまったのだ。 夕暮れの薄暗い部屋の中で、ルーシャは力なくベッドの端にへたり込んだ。 もう誰もいない、冷たく静まり返った空間が、彼を容赦なく包み込んでいた。 孤独と罪悪感が、じわじわと胸の奥に染み渡っていく。 ◇ そして翌日。ルーシャの学園生活は、静かに、しかし決定的に狂い始めた。 1時間目の授業が終わり、トイレに向かおうと席を立った瞬間だった。 「おっと。どこ行くんだよ」 「ちょっと通れないぜ、今は」 クラスメートたちが数人がかりで、ルーシャの行く手を塞ぐように立ちはだかった。クスクスと漏れる陰湿な嘲笑が、背中に突き刺さる。 ルーシャの背筋に冷たい汗が伝った。 (……これは、アニーの時と全く同じだ) 自分が新たな「いじめの標的(ターゲット)」に選ばれたことを、ルーシャは即座に悟った。 2時間目が終わり、再び廊下へ出ようとしたルーシャの前に、今度は生徒会副会長のニールが冷酷な眼差しで立ち塞がった。 ルーシャは拳を強く握りしめ、まっすぐにニールを見据えた。 「……僕を行かせないつもりですか。僕が次の標的(ターゲット)なんですね?」 その気丈な問いかけに、ニールは鼻で小さく嘲笑った。 「……物分かりがいいな。お前は。そこまで察しているなら、理由もわかっているだろ?」 その言葉で、すべての点と点が繋がった。 この冷酷で統率の取れた包囲網の背後にいるのは、間違いなく生徒会長のジミーだ。 彼はもう、自分を絶対に許す気はない。 3時間目、4時間目と時間が経つにつれ、ルーシャの肉体は限界を迎え始めていた。 「お願い……通してください……」 冷や汗が額を伝い、激しい尿意に耐えきれず股間を押さえながら訴えるが、強固な包囲網は微動だにしない。むしろ青ざめて身をよじるルーシャの姿を見て、周囲の生徒たちは下劣な笑いをさらに深めていった。 (だめだ……もう、本当に限界……っ) 絶望と羞恥で視界が滲み、ついに膝から崩れ落ちそうになる。 ——と、その時だった。 「——おい。男のくせに、みんなで寄ってたかってくだらねえイジメしてんじゃねえよ」 快活でよく通る声が、廊下に響き渡った。 群がる生徒たちの背後から、ポケットに両手を突っ込んだジュリアが、世話係のツェー(Tseh)を引き連れてふらりと姿を現した。 ジュリアは面倒くさそうに頭を掻きながら、ニールたちを鋭く睨みつけた。 「さっさと道を開けろよ。見苦しいぜ」 有無を言わせぬ迫力に押され、ニールや取り巻きたちは舌打ちしながら道を空けた。ジュリアはそのままルーシャのもとへ歩み寄り、細い腰を支える。 「……行くぞ、ルーシャ」 しかし、ルーシャの身体は恐怖でガチガチに強張っていた。あのペンドルトン館の地下ダンジョンで受けた狂気と屈辱の記憶が、鮮やかに脳裏をよぎる。 「離して……! どうせ、何か裏があるんでしょう!? 僕を罠にはめる気だ……!」 ルーシャが激しく抵抗し、怯えた瞳で睨みつけると、ジュリアの背後に控えていたツェーが、ニヤニヤと意地悪な笑みを浮かべて前に出た。 ツェーは、ジュリアの首元にガチガチに嵌められた二重の黒革チョーカーを、背後からクイッと容赦なく引っ張った。 「ぐえっ……!?」 「安心して、ルーシャ。見ての通り、今のジュリアは完全に骨抜きにされてるから。罠を仕掛けるような気力も権力も、もう残っていませんよ」 「お、おいツェー! 引っ張んなよ、苦しいだろ……!」 首を絞められてむせるジュリアを見て、ルーシャはぽかんと口を開けた。 かつて絶対的な恐怖の象徴だったあのジュリアが、世話係であるはずのツェーに手綱を握られ、無様に咳き込んでいる姿は、信じがたいほど現実味がなかった。 ジュリアは首元をさすりながら、少し照れくさそうに視線を泳がせ、頭をガシガシと掻いた。 「……その、なんだ。昔のことは本当に悪かったと思ってる。だから……これからは、仲良くしようぜ」 少しぶっきらぼうだが、そこにはかつての狂気や毒々しさは微塵も感じられなかった。 (ジュリアが……ただの『お節介で、少し抜けた奴』になってる……?) 張り詰めていた緊張の糸が、拍子抜けするほどあっさりと解けていくのを感じながら、ルーシャはジュリアに引かれるまま、足早に廊下を歩き出した。 つづく — ジミーはジュリアを密室へと引きずり込むと、泣きながら自らのベルトを引き抜いた。 「ルーシャのことなど、どうでもいい……ッ!!」 「言え!! この部屋で、アニーに何をした!? あいつはは……お前で感じたのか!?」 次回 #59: 嫉妬の暴走と密室の惨劇: 生徒会室の蹂躙と外された枷、砕け散ったジュリアの誇り 「言え!! アニーは……イッたのか!?」 お楽しみに!

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