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#61: 偽りの告白と見えない蜘蛛の糸: ジュリアンの冷酷な脅迫と、屈服するアニー
深夜のジュリアンの私室。
「兄貴……! どうしよう、このままじゃ俺は終わりだ……!!」
部屋に駆け込んでくるなり、青ざめた顔で泣き縋ってきた弟に、ジュリアンは静かに眉を寄せた。
「どうしたジュリア、何があったんだ?」
ジュリアは震える声で、すべてを白状した。
アニーとの過ち。そして、それが原因でジミーから受けた、生徒会室でのあまりにも無惨で屈辱的な凌辱のこと——。
弟の震える告白を聞き終えると、ジュリアンは静かに目を伏せ、深いため息をついた。
「辛かったね、ジュリア。よく話してくれた」
ジュリアンは大きく温かい手で弟の髪を優しく撫でながら、甘く低い声で囁いた。
「……ジミーの奴め。絶対に許さない。お前の仇はこの俺が、必ず討ってやる」
しかしジュリアの震えは一向に止まらなかった。
「兄貴、それだけじゃないんだ……! 実はニールから聞き出したんだけど、明日、アニーが理事長に呼び出されるって!」
ジュリアはジュリアンの服の袖を必死に掴み、顔面を蒼白にして叫んだ。
「もしアニーが本当のことを話したら、俺は……また本家の更生プログラムに逆戻りだ……! お願いだよ兄貴……助けてくれ……!」
恐怖に顔を歪める弟を、ジュリアンは冷たく妖しく光る琥珀色の瞳で見下ろした。
その唇の端が、ゆっくりと残酷に弧を描く。
「心配するな、ジュリア」
ジュリアンは弟の頰を優しく撫でながら、甘く危険な声で囁いた。
「俺がなんとかしてやる……全部、俺に任せなさい」
弟を安心させて自室へ帰した後、ジュリアンはすぐに行動を起こした。
彼が向かったのは、自分の完全なる支配下にある『ペット』の部屋だった。
小さくノックをすると、しばらくして扉が静かに開いた。
「ジュリアン様……? こんな夜更けに……」
アニーが怯えたように目を丸くして出迎える。
「少しいいかな……アニー?」
ジュリアンは甘く低い声でそう言うと、アニーの返事を待たずに部屋へと滑り込み、背後で重い扉を閉めた。
逃げ場のない密室で、ジュリアンはアニーの前に立ち、その細い顎を冷たい指先でくいっと持ち上げた。
「アニー。お前は、明日、理事長室に呼び出されるそうだね?」
「えっ……?」
アニーが息を呑むと、ジュリアンは目尻を細め、蛇のようにねっとりとした声で囁き始めた。
「いいか、アニー。明日、理事長たちの前で、お前はこう言うんだ。……『ジュリアとの間には、何もなかった』と。わかるね?」
「……ジュリアン様、それは……」
アニーが戸惑いの表情を浮かべると、ジュリアンの指にギリッと力がこもった。
「さらに、こう付け加えるんだ。……『バレンタインの日、体育館裏でジミーに無理やり脅迫されて、恥辱を受けた』と」
アニーの顔から一瞬で血の気が引いた。
「そんな……! 嘘です、それは嘘です! ジミーは、そんなこと……!」
激しく首を振るアニーに対し、ジュリアンは氷のように冷たい視線を落とした。
「お前に選択肢があると思っているのか? アニー」
圧倒的なアルファの威圧感が、アニーの身体を縛りつける。
「もし私の言う通りに証言しなければ……お前が孤児院の出であること、そしてルーシャと『特別な関係』にあったこと……すべてをこの学園中にばら撒く。お前も、ルーシャも、この学園にはいられなくなるぞ」
最も恐ろしい急所を突かれ、アニーは絶望に目を閉じた。
ジュリアンに逆らうことなど、到底不可能だった。
「……さあ、復唱しろ、アニー」
ジュリアンはアニーの耳元に唇を寄せ、甘く残酷に命じた。
アニーは涙をこぼしながら、震える唇で、命じられた「嘘」を繰り返すしかなかった。
その声は弱々しく、嗚咽に混じり、夜の部屋に虚しく響いていた。
◇
翌日。
重厚な空気に包まれた理事長室。
理事長や学園長をはじめとする上層部がずらりと並ぶ、冷ややかな視線の前に、アニーは小さなパイプ椅子に座らされていた。
「さて、アニー君。単刀直入に聞くが、君は転校生のジュリア君から不適切な行為を受けたのかね? むろん、答えたくなければ答えなくて構わないし、ここでの話が決して表に出ることはないと約束しよう。ジミー君の主張は本当なのかね?」
理事長の低い声が室内に響く。
アニーは膝の上で両手を強く握り締め、震えを必死に堪えながらゆっくりと顔を上げた。
「……いいえ、違います」
かすれた声でそう言ったアニーの瞳には、悲痛な涙が溢れていた。
「僕とジュリア様の間には、その様な事実はありません……ジュリア様は、何もしていません……っ」
「ではなぜ、ジミー君はあのような主張を?」
学園長が身を乗り出して問うと、アニーはジュリアンに教え込まれた通りの「嘘」を、涙を流しながら紡ぎ出した。
「ジミーが……僕に、酷いことをしたんです……!」
室内の空気が一瞬で張り詰めた。
「バレンタインの日……僕は体育館裏に無理やり呼び出されて……っ。断ったのに、力ずくで脅されて……体を……汚されました……!」
ボロボロと大粒の涙をこぼしながら、恐怖に震える声で告白するアニーの姿は、誰の目にも『権力者に蹂躙された哀れな被害者』そのものに映った。
理事長室の空気が、凍りついた。
「……つまり、君はジュリア君ではなく、ジミー君に辱めを受けたと言うのかね?」
理事長が重々しく呟き、深いため息をついた。
アニーの悲痛な証言は、上層部に明確な「ジミーへの疑念」を植え付けたのだった。
◇
閉ざされた理事長室での極秘の証言だったはずが、その衝撃的な内容は学園の壁を容易にすり抜け、瞬く間に学園中に燃え広がった。
「おい、聞いたか!?」
「アニーの証言だろ!」
「ああ……ジミー会長……」
「アニーにも乱暴してたらしいぞ」
食堂でも、廊下でも、中庭でも、生徒たちの話題はもはやそのスキャンダル一色だった。
「マジかよ……バレンタインの日に体育館裏で、会長がアニーを無理やり連れ込んでるところを見た奴がいるってよ」
「あの、アニーの失禁……」
「ジミーの策略って話だろ?」
「告白を断られた腹いせに?」
「権力を笠に着ての虐め……!」
事実の断片とアニーの「偽りの告白」が結びつき、瞬く間に「揺るぎない真実」へと変わっていく。
ジミー・マクブライドは、今や完全に、そして修復不可能なまでに失墜しようとしていた。
学園の生徒会長は、たった一夜で「男子を犯す性欲の暴君」という汚名を着せられ、静かに、しかし確実に追い詰められていく。
見えない蜘蛛の糸が、暴君の首をゆっくりと締め上げていた。
つづく
—
「早まるな、ジミー!」アニーの偽りの告発により、追い詰められたジミーは、ついに時計塔のバルコニーに立ち、自ら命を絶とうとする!
自分の嘘が、招いた惨劇にアニーはその場に泣き崩れた。
次回
#62: 絶望の時計塔と身代わりの嘘: ジミーの飛び降り未遂と、すべてを背負うルーシャの自己犠牲
「僕のせいだ……僕のせいで……っ!」
お楽しみに!
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