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#64: ペントハウスの夜と小悪魔の悪戯: 学園を去ったルーシャと、大狼狽のアルバート
聖ファーガスン学院の鉄門をくぐり、ルーシャは夕闇の迫るロンドンの街へと歩き出していた。
街灯がぽつぽつと灯り始めた下町をあてもなく歩いていると、ふと脳裏に白いアライグマの姿が浮かんだ。
(クリリン……)
その瞬間、自分を優しく包み込んだアルバートの大きな手の温もりが、鮮やかに蘇る。
(このまま何も言わずに消えるなんて……失礼だよね。ちゃんと、お別れを言わなきゃ……)
自分に言い訳をするようにして、ルーシャはリージェンツ・パークの片隅にある動物園へと足を向けた。
しかし、ようやく辿り着いた頃には周囲はすっかり夜の闇に包まれていた。動物園の正門は固く閉ざされ、冷たい静けさが漂っている。
「そうだよね……もう閉まってるよね……」
ルーシャはトランクの上に力なく腰を下ろし、ぽつりと呟いた。
孤独が一気に押し寄せてきて、胸が苦しくなる。冷たい風が身体を刺すように吹きつけ、ルーシャは小さく身を縮めてうつむいた。視界がじんわりと滲む。
——と、その時だった。
「こんな夜に大荷物抱えて、どこへ行くつもりだ。行く当てもないくせに」
低くて温かい、聞き覚えのある声。
「アルバート、おじさま……!?」
ルーシャは弾かれたように顔を上げた。
サングラスの奥から、困ったようにも優しい眼差しが自分を見下ろしている。
驚くルーシャを前に、アルバートは何も言わずに歩み寄ると、重いトランクを軽々と手に取った。
「ほら、行くぞ」
「えっ……でも、どうしてここに……」
「文句は後にしろ。こんな夜中に一人でうろうろするんじゃない。危なくてしょうがない」
有無を言わせぬ力強い手が、ルーシャの手を包み込むように掴んだ。
◇
パチパチと暖炉の中で薪が爆ぜ、心地よい熱気が冷え切ったルーシャの身体を優しく包み込んでいく。大きな窓の向こうに宝石のような夜景が広がる、アルバートのペントハウス——。
ソファに膝を抱えて座るルーシャは、むくれた顔で炎を睨みつけている。対面の椅子に座ったアルバートは、そんなルーシャを面白そうに眺めながらグラスを傾けていた。
「……それ、白ワイン?」
「飲みたいのか?」
ルーシャが小さく頷くと、アルバートは苦笑しながら新しいグラスにワインを注いだ。
受け取ったルーシャは勢いよく飲み干し、すぐに二杯目を空けた。甘いワインはあっという間に彼を酔わせ、頬を桜色に染め上げた。
とろんとした瞳でアルバートを見つめるルーシャに、アルバートはグラスを置いて近づいた。そしてルーシャの首元に手を伸ばす。
「……外すぞ」
カチャリ、とルーシャの銀色のチョーカーが外された。白い首筋には長く着けていたせいで赤い擦れ跡がくっきりと残っていた。
アルバートは親指でその跡を優しく撫で、低い声で囁いた。
「跡になっちまってる……可哀想に」
「平気だよ……外したくなかったから……」
酔った甘えた声に、アルバートの瞳が熱を帯びた。彼はその赤い跡にそっと唇を押し当てた。
「あっ……」
ルーシャの肩がビクッと跳ねる。次の瞬間、大きな体にソファへ押し倒されていた。
「……ちょっと、怖いよ……」
潤んだ瞳で見上げ、ルーシャは震える声でこぼした。
「こういうの……どうしていいか、分からないし……」
心臓が早鐘のように鳴っている。アルバートの影が自分をすっぽりと覆っていて、逃げ場がない。温かい吐息が首筋にかかるたび、身体が小さく震えた。
アルバートはルーシャの怯えた瞳をじっと見つめ、大きな手で優しく頰を包み込んだ。
「怖がらなくていい」
低く落ち着いた声が、耳のすぐそばで響く。
「俺が全部教えてやるから……」
そう言いながら、アルバートはルーシャの震える指先に自分の指を絡め、そっと握った。その大きな手の熱と力強さに、ルーシャの胸がさらに激しく高鳴る。
「……本当に、初めてなんだな?」
ルーシャは小さく頷き、恥ずかしそうに視線を逸らした。
「うん……誰とも、こんなこと……したことない……」
その無垢で真っ直ぐな答えに、アルバートの瞳が一瞬、強く熱を帯びた。
「そうか……」
・
・
・
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「うそ。ほんとうは……ちょっと、ある」
アルバートの動きがピタリと止まった。
「……なんだと?」
ルーシャはとろんとした瞳のまま、意地悪くクスクスと笑った。
「実はね……もう何人も……」
アルバートの顔が一瞬で引きつる。
「おい、ちょっと待て。なんだとぉ〜!?」
次の瞬間、アルバートはルーシャの両肩をガシッと掴んで揺さぶった。
「誰とやったんだよお〜! 相手は誰だ!? 男か!? 女か!? 言えこいつぅ〜! 大人をからかいやがって!!」
「わっ、ちょ、ちょっと待って! おじさま、揺らさないでぇ! 頭くらくらするってば!」
ルーシャはキャッキャと笑いながらアルバートの胸をペシペシ叩く。完全に酔っ払った悪戯っ子そのものだった。
「可愛い顔してふざけやがって! この野郎、俺が本気でどうしようかと思っただろうが!」
「だって~、おじさまの反応が面白すぎて……きゃはっ!」
「笑い事じゃねえ! 誰だよ相手は! 今すぐ吐けルーシャ!」
暖炉の前で、二人はじゃれ合うようにもつれ合いながら笑い声を上げていた。
◇
翌朝。
雀のさえずりとカーテンの隙間から差し込む柔らかな朝陽で、ルーシャはゆっくり目を覚ました。
「おじさま……?」
身を起こして部屋を見回すが、アルバートの姿はどこにもない。どうやら自分が眠っている間に仕事に出かけてしまったようだった。
ルーシャは少し寂しそうな顔で、アルバートが寝ていたシーツの部分にそっと手を置いた。
つづく
—
時計塔の騒動で全てを失い、自室で自暴自棄に陥っていたジミー。
そこに乗り込んできたツェーが突きつけたのは、ジュリアの「妊娠の疑い」だった!
「俺が父親なわけない! あいつはアニーとも関係を持っていた!」
次回
#65: 思い出のシチューと予期せぬ妊娠疑惑: ペントハウスの甘い同棲と、一刀両断される元生徒会長
「アニーは『受け』です。ありえません!」
お楽しみに!
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