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#65: 思い出のシチューと予期せぬ妊娠疑惑: ペントハウスの甘い同棲と、一刀両断される元生徒会長
すべての泥を被って学園を去り、行く当てもなく冬のロンドンを彷徨っていたところをアルバートに拾われたルーシャ。
ペントハウスで迎えた翌朝、目を覚ますとアルバートはすでに仕事へ出かけていた。一人残された静かな部屋で、ルーシャは掃除や洗濯をこなしながら、ただひたすらに彼の帰りを待ち続けた。
そして夜。
仕事を終えたアルバートが玄関の扉を開けた瞬間、温かく美味しそうな匂いがふわりと鼻をくすぐった。
「おかえりなさい、おじさま!」
リビングへ向かうと、そこにはエプロン姿のルーシャがいた。少し照れくさそうに、けれどどこか期待を込めた瞳で彼を出迎えてくれる。
「アルバートおじさま、何が好きなのかなって考えて……これにしたの!」
ダイニングテーブルに湯気を立てて並べられていたのは、具沢山の『キノコのクリームシチュー』だった。
それを見た瞬間、アルバートは懐かしさと同時に、胸の奥が熱くなるのを感じた。
「わあ、これ、思い出すなぁ。……森のログハウスで、作ってくれたよな」
「えへへ、よく覚えてたね!」(29話参照)
ルーシャは本当に嬉しそうに微笑んだ。その柔らかな笑顔が、アルバートの胸を甘く締め付ける。
温かな夕食のひととき。二人はこれまでの波乱を忘れるかのように、静かで甘い時間を過ごした。学園での息の詰まるような愛憎劇から遠く離れた今、ルーシャはアルバートが与えてくれる絶対的な安堵の中に、そっと身を委ねていった。
◇
一方、ルーシャが去ってから数週間が経過した聖ファーガスン学院では、残された者たちの歪んだ執着が静かに、しかし狂おしく動き始めていた。
静まり返った男子寮の一室で、ジュリアは自身の身体に訪れた「明らかな異変」に気づき、人知れず戦慄していた。
(なんなんだよ……これ……っ)
毎朝、目が覚めると同時に襲いかかる猛烈な吐き気。そして、下腹部の奥からじわじわと湧き上がってくる、これまで経験したことのない奇妙な熱。骨抜きにされたはずのオメガの肉体が、内側から強引に作り替えられていくような感覚。
誰にも言えず、恐怖でガタガタと震えるジュリアは、ついにツェー(Tseh)にだけ打ち明けた。
「……ツェー。僕の身体、なんかおかしいんだ。朝からずっと気持ち悪くて、それに……下のほうが熱くて……」
怯えた表情で、掠れた声で事実を相談するジュリア。そのただならぬ様子に、ツェーはいつもの意地悪な笑みを完全に消し、静かにジュリアの身体を調べ始めた。
脈を取り、肌に触れた瞬間、ツェーの脳裏に「あの日」の光景が鮮烈に蘇った。固く閉ざされていた生徒会室の扉。中から漏れ聞こえていた獣のような衝撃音。そして、鍵が開いた部屋へと飛び込んだとき、長机の上で衣服を引き裂かれ、白く濁った体液にまみれて虚ろに泣き崩れていたジュリアの惨めで淫らな姿。
「……まさか」
ツェーの目が、鋭く見開かれる。
「あの時の……ジミー会長の子では?」
その言葉に、ジュリアは息を詰まらせ、顔を真っ青にしてうつむいた。
普段はジュリアに対して容赦なく手綱を握り、冷酷な毒舌を吐くツェーだったが、幼い頃からこの高慢で脆い『お姫様』の側仕えをしてきた。虐げられ、歪んでいくジュリアを最も近くで見続けてきた彼の中で、主を蹂躙し、種を植え付けた男への、どす黒い怒りと殺意が激しく燃え上がった。
「ジュリア様をあそこまで嬲り、傷物にした挙句……孕ませるとは」
ツェーはゆっくり立ち上がり、冷たい殺気を部屋の中に満たした。
「マクブライドの青二才……絶対に許しません」
震えるジュリアをベッドに優しく横たえ、ブランケットをかけ直すと、ツェーは静かに部屋を出た。その瞳の奥には、冷酷で執着に満ちた光が宿っていた。
◇
ジミーは時計塔での騒動以来、学園中から「権力を笠に着て男子を蹂躙した暴君」として白い目を向けられ、築き上げてきた誇りも信頼もすべてが泥にまみれていた。荒い息を吐きながら、ベッドの端で頭を掻き毟り、自暴自棄な怒りと虚しさに身を焦がしていた。
コン、コン、コン。
重苦しい静寂を破るように、静かだが遠慮のないノックの音が響いた。
「……何か用か!」
ジミーが扉を乱暴に押し開けると、そこには冷酷な眼差しで自分を見下ろすジュリアの世話係、ツェーが立っていた。細身の体躯から放たれる冷たい威圧感が、廊下の空気を凍てつかせる。
「相変わらず見苦しい荒れようですね、ジミー会長。いえ、今は元会長……ですか」
「お前……! 人の部屋に何の用だ! 嫌がらせなら他所でやれ!」
ジミーが獣のように低く唸り、胸ぐらをつかみかからんばかりに距離を詰める。荒々しい息がツェーの顔にかかるほど近くで睨みつけるが、ツェーは微動だにせず、氷のように冷たい視線を返した。
その瞳の奥に、静かな怒りと侮蔑、そして底知れぬ執着が渦巻いている。
「ジュリア様に、妊娠の疑いがあります」
「……は?」
唐突に突きつけられた言葉に、ジミーの思考が一瞬で真っ白になった。血の気が引いていくのが自分でもわかった。
「聞こえませんでしたか?」
ツェーは一歩踏み込み、ジミーの顔を真正面から見据える。声は低く、抑揚を抑えながらも、刃物のような鋭さで突き刺さった。
「あなたがあの日、生徒会室で欲望のままに組み敷き、獣のようにジュリア様を犯し、蹂躙した……その結果、ジュリア様があなたの子供を身籠ったかもしれないと言っているのです」(59話参照)
「ふ、ふざけるなッ!!」
我に返ったジミーの顔が、怒りと動揺で真っ赤に染まった。彼はツェーを指差し、逆上混じりに怒号を浴びせる。
「なぜ俺が父親なんだ! 嘘をつくな! あいつは、あの部屋でアニーとも関係を持っていたじゃないか! 俺はこの目で、二人が机の上で淫らに絡み合っているのを直接見たんだぞ!」(50話参照)
アニーに裏切られたあの日の光景が、ジミーの胸を再び激しく焼けつかせる。
ジュリアが他の男とも肌を重ねていた以上、自分が父親であるはずがない——そう叫ぶジミーに対し、ツェーは深くため息をつくと、心底呆れたように鼻で冷笑した。
「……まだそんな的外れなことを言っているのですか。この期に及んで」
「なんだと!?」
「仮にその現場があったとしても、そのカップリングではアニーは『受け』です。ありえません! そもそも、アニーもジュリア様もオメガ同士。オメガ同士の身体が交わったところで、子供ができるわけがないでしょう! アルファのあなたが父親なのは明白です」
ツェーの容赦のない論破が、ジミーの脳頭を容赦なく殴りつけた。
「あ……」
ジミーの顔から、一気に血の気が引いていくのがわかった。オメガバースの絶対的な現実。どんなに拒絶しようとも、遺伝子と本能が刻んだ事実は変えられない。自分の犯した暴力的な蹂躙が、最悪の形で結実しようとしている。
動揺でワナワナと震え、言葉を失って立ち尽くすジミーの胸元に、ツェーはポケットから取り出した薬局のメモを強く叩きつけた。
「四の五の言わず、まずは街へ出てこれを買ってきなさい。……話はそれからです」
「学園の監視の目を盗むことくらい、元生徒会長のあなたなら容易いでしょう。……早く行きなさい。これ以上、ジュリア様を不安にさせるな」
有無を言わせぬツェーの圧倒的な威圧感に、ジミーはただ、手の中のメモを強く握りしめることしかできなかった。
つづく
—
ジミーの存在に嫉妬するアルバートは重く威圧的なフェロモンでルーシャを追い詰める。
「お前、本当はあいつと『やった』んだろう?」
次回
#66: 屈辱の検査薬と嫉妬の暴走: 執着する元生徒会長と、夜の街へ消えたルーシャ
「おじさまなんか、大嫌いだ!!」
お楽しみに!
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