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#75: 喧騒の遊園地と不器用なカミングアウト: ゲイを告白するレオノラと、夜のバーに佇む美しい男

「あれ、ルーシャ。今日は休みじゃなかったのかい?」 朝の狭いアパートのリビングで、湯気の立つコーヒーカップを手にアルバートが不思議そうに首を傾げた。 「あ、うん。休みなんだけど……ちょっと同期と息抜きに行くんだ」 「へえ? もしかしてデートか?」 アルバートがからかうように片眉を上げると、ルーシャはお腹の底がざわつくのを感じて慌てて首を振った。 「違うよ! 男の同僚だってば。この前ヒートの抑制剤を融通してくれた、レオノラだよ。給料が入ったからお返しがしたいって言ったら、なぜか遊園地に行きたいって言い出してさ」 「なるほどね。じゃあ、帰りは遅くなるのかい? 夕飯はどうする?」 「え? ああ、まだ決めてないけど……」 「僕は今日は遅番で帰りが遅くなっちゃうから、ルーシャは食べてきてくれると助かるよ」 「うん、わかった。適当に済ませるから、アルバートさんも仕事頑張ってね」 アルバートはいつもの穏やかな笑顔で見送ってくれた。その背中を見つめながら、ルーシャは少しだけ胸をなじらせる。最近のルーシャは、ジミーたちの泥沼劇や、オザンナが病院に担ぎ込まれた凄惨な事故の対応で、心身ともにすり減っていた。アルバートはそれを知っているからこそ、あえて深く追及せず、快く送り出してくれたのだろう。 ——そしてルーシャは、レイクビューにある巨大遊園地『リバービュー・パーク』へと向かった。 待ち合わせ場所に現れたレオノラは、病院で見慣れた白衣姿とは別人のように、仕立ての良い私服をきっちりと着こなしていた。 パークに入った途端、二人の空気は一変した。 「おい、ルーシャ……あれは何だ。人を吊り下げて高速で回転させているが、正気か?」 「僕に聞かれても困るよ! でも、すごく面白そうじゃないですか? 行きましょうよ!」 実は二人とも、本格的な遊園地は初めてだった。 病院では常に冷静沈着で隙のない優等生として通っているレオノラが、賑やかな音楽や甘い匂いに囲まれ、目を輝かせながらも困惑している姿が可愛らしくて、ルーシャは自然と笑いがこぼれた。重く沈んでいた心が、久しぶりに軽くなっていくのを感じた。 絶叫マシンで肝を冷やし、屋台のチキンを不器用に頬張るレオノラを見て、ルーシャは何度も声を上げて笑った。 やがて日が傾き、オレンジ色の夕陽がパーク全体を染める頃、二人は少し離れたベンチに腰を下ろした。 温かい飲み物を手渡されながら、レオノラが静かに切り出した。 「……最近、君が時々悲しそうな顔をしているのは気づいていたよ」 ルーシャは驚いて顔を上げた。レオノラは前を向いたまま、穏やかな声で続けた。 「オザンナの事故のことも、サリーさんのことも……少し話してみないか?」 話は自然とサリーのことへ移り、ルーシャはふと本音を零した。 「正直に言うと……僕、女の人のことがよくわからないんだ。綺麗だと思うし、大切にしたいとは思う。でも、ちょっと苦手というか、男同士の方が気楽で……なんだか性に合ってる気がするんだよね」 その言葉を聞いた瞬間、レオノラの瞳がわずかに揺れた……。やがて彼は、静かな声で告白した。 「……実は、僕はゲイなんだ」 ルーシャは息を呑んだ。噂では聞いていたものの、本人から直接告白されるのは初めてだった。 レオノラは照れくさそうに小さく笑い、肩をすくめた。 「知っていただろう? ……嫌わないといいけど」 「そんな、嫌うわけないじゃないですか」 ルーシャが慌てて返すと、レオノラはホッとしたように小さく息を吐いた。しかしその後、二人の間にどこか気まずい沈黙が落ちた。 閉園の時間が近づき、周囲の灯りが美しくきらめき始めた頃、レオノラが静かに切り出した。 「よかったら、このあと食事でもどうだ?」 ルーシャは一瞬迷ったが、結局首を横に振った。 「……ごめん、今日はもう帰るよ」 自分でも理由がよくわからないままの拒絶だった。レオノラはそれ以上何も言わず、ただ静かに頷いた。 その夜、帰りの駅のホームで冷たい風に吹かれながら、レオノラはいつもの真面目な表情に戻って言った。 「明日の朝、病院で会ってもいつものように冷たくするから、気にするな。……僕は本当に不器用なんだ」 「うん、わかった」 二人は手を振り、静かに別れた。 ◇ ルーシャと別れた後、レオノラはまっすぐ家に帰る気になれず、ダウンタウンにある薄暗いバーへと足を運んだ。 カウンターの端に腰を下ろし、ウイスキーを静かに流し込む。 ふと視線を上げると、カウンターの角の席に一人の男が座っていた。 暗がりの中でもひときわ目を引く、整った美しい横顔。少し疲れたような気怠げな表情が、逆に男の色気を強く引き立てている。 (どこかで見た顔……それにしても、すごく、かっこいい……) レオノラが思わず見惚れていると、視線に気づいた男がゆっくりとこちらを振り向いた。二人の視線が、不意に真っ直ぐに絡み合う。 レオノラは自分のグラスを手に取り、まるに吸い寄せられるようにその男の隣の席へ移動した。そして、少し掠れた声で言った。 「……良かったら、一緒に飲みませんか?」 声をかけられた男は一瞬だけ驚いた表情を見せたが、すぐにいつもの穏やかで、どこか悪戯っぽい笑みを浮かべた。 その笑顔を見た瞬間、レオノラの胸が小さく跳ねた。 つづく — バーのカウンターで、偶然隣り合わせたアルバートに冗談半分で「記憶喪失」の話題を振ってしまったレオノラ。だが、男の剥き出しの瞳から放たれたのは、あまりにも静かで重い本物の告白だった。 「俺は、本当は記憶がないんだ」 次回 #76: カウンターの誘惑と午前二時の猜疑心: チョーカーを外すオメガと、罪悪感に震えるアルバートの指先 「……慰めてあげようか?」 お楽しみに!

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