88 / 95

#88: 突然の来訪と束の間の安らぎ: 孤独を埋め合う二人と、夕暮れに響く笑い声

夜の冷たい静寂の中、ルーシャは這うようにして自分の四畳半のアパートへと戻ってきた。 灯りをつける気力もなく、ベッドに倒れ込むと布団を頭からかぶった。 声を押し殺して泣くルーシャの脳裏には、街灯の下で親しげに指を絡め合い、レオノラのアパートの奥へと消えていった二人の姿が、鮮明に焼き付いて離れなかった。 (どうして……おじ様が、レオノラと……?) 自分の身体を抱いていた男と、心の支えだった優しいおじ様。その二人が、繋ぎ合った手で夜の部屋へ消えていった事実が、ルーシャの胸を容赦なく抉る。 信じていたものが音を立てて崩れ落ちていく感覚に、ルーシャは布団の中で身体を小さく丸め、声を殺して泣き続けた。涙が枯れるまで、ただ一人で震えながら。 ◇ 翌朝、眩しい冬の太陽が部屋に差し込んでも、ルーシャはベッドから起き上がることができなかった。 遠くから学校の始業を告げる鐘の音が聞こえてくるが、それさえも遠い世界の出来事に感じられた。ただ身を小さく丸めたまま、静かに涙を流し続けることしかできなかった。 ——昼前。 静まり返った部屋に、突然激しいノックの音が響いた。 ドンドンドン、と執拗に続く音に、ルーシャはびくりと肩を震わせた。居留守を使おうかとも思ったが、音は一向に止まない。重い足取りで玄関へ向かい、恐る恐るドアを開けた。 そこに立っていたのは、ジミーだった。 「ジミー……? どうしてここに……」 ニューヨークにいるはずの彼が、なぜシカゴにいるのか。混乱するルーシャだったが、ジミーの大きな体躯を見た瞬間、胸の奥から「もう一人になりたくない」という強烈な孤独と渇望が溢れ出した。 考えるよりも先に、ルーシャはジミーの胸に縋りつくように飛び込んでいた。 ジミーは驚きながらも、すぐにルーシャの身体を強く抱きしめると、そのまま部屋の中に押し入り、背後で乱暴にドアを閉めた。 「自分の子供ではなかった」という解放感と、ずっと抑えつけていた欲望が一気に爆発した。 二人は言葉もなく狭いシングルベッドへと雪崩れ込み、互いの衣服を貪るように剥ぎ取った。 ジミーは鬱屈した欲望のすべてをぶつけるようにルーシャを求め、ルーシャもまた、心の空洞を埋めるようにその熱を受け入れた。 しかし、ジミーが熱い吐息と共に唇を重ねようとした瞬間、ルーシャは頑なに顔を背けた。 「……ダメ。キスは、しないで」 「なんでだよ、ルーシャ。これくらい……っ」 なおも迫るジミーの胸を、ルーシャは両手で強く押し返した。 「ダメ。……それ以上しつこくしたら、ジミーのこと嫌いになる」 少し拗ねたような、けれどはっきりとした拒絶の言葉。その上目遣いの視線と言葉に、ジミーはぐっと息を詰まらせた。 「その代わり……ちゃんと、気持ちよくしてあげるから」 ルーシャが囁きながら手を伸ばすと、ジミーはそれ以上何も言えなくなった。 二人は狭いベッドの上で、まるで自暴自棄になるように激しく身体を重ねた。遠くから学校の鐘が何度も響く中、二人はただ互いの熱に溺れることしかできなかった。 ♡ ひとしきり激しく交わった後。 ベッドの上で仰向けになっていたジミーが、物足りなさそうに隣のルーシャの腰を引き寄せた。 「なぁルーシャ……もう一回、おねだりしてもいい?」 子供っぽく甘えるような声に、ルーシャはぷいっと顔を背け、シーツを胸元まで引き上げた。 「ダメ。もういっぱいしたでしょ?」 ジミーはニヤリと笑うと、シーツごとルーシャの身体を無理やり組み伏せた。大柄な体躯で上から圧し掛かり、逃げられないように腕を押さえつける。 「いや! 離して!」 「いいじゃん、ルーシャ。もう一回しようよ……」 「もう、しつこいなぁ……。僕、怒ったからもう帰る!」 そう言ってジミーを押し退け、ベッドから出ようとするルーシャの手首を、ジミーが慌てて掴んだ。 一瞬の静寂の後、ジミーが呆れたように言った。 「……帰るって。ここ、お前の家だろ?」 ルーシャはピタリと動きを止め、ハッとしたように自分の四畳半の部屋を見回した。 「あ……」 自分で言っておきながらあまりに的外れだったセリフに、ルーシャの頰が微かに緩む。ジミーも堪えきれずに吹き出し、二人は思わず声を上げて笑い合った。 張り詰めていた重苦しい空気が一気に解け、二人はベッドの上でじゃれ合うように身体を寄せ合った。 窓から差し込む光が、徐々にオレンジ色の夕暮れへと変わっていく。 遠くで夕刻を告げる鐘の音が響いていた。 ルーシャはジミーの熱い腕に抱かれながら、心の奥底にある冷たい絶望を、ただ一時だけでも忘れようと、目の前の温もりに必死に縋り付いていた。 つづく — 激怒したペンドルトン夫人——ヒルデによって、雪降る夜に追い出されるジュリアとツェー。 「……今すぐその薄汚いベータの赤ん坊と共に、この屋敷から出て行きなさい!」 次回 #89: 冷酷な放逐と狂暴な本性: 凍てつく街に追われるジュリアと、理不尽な暴力に怯えるルーシャ 「二度と私の前に顔を見せるんじゃない」 お楽しみに!

ともだちにシェアしよう!