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02_月夜のまぐわい、闇の青空

 月明りの中、俺は天義会本部にある廊下――その薄い闇へと足を踏み出す。  さわさわと庭の木々が立てる葉擦れとは異なる音が、辺りに響いていた。  ――声がするのは、昼に散々な思いをした来客用の一室。  王との謁見に使われるような、ロンさんの座るべき椅子がメインに置かれたその部屋は、暗殺防止などの観点から、廊下と部屋を隔てる壁の一部が格子窓になっていた。  音を立てないよう足音を殺そうとしたけれども、窓に近づこうとしてそんな必要はないことに気が付く。 「あっ、ん……ぐっ、うっ、ロ、ンッ……!あッ!」  部屋からは、あられもないユエンさんの声の他、ぐちゅぐちゅと水音や、パンパンと肌がぶつかる大きな音がひしめき合っていたからだ。  俺は極力中から姿を見られないよう、半身の状態で格子窓から室内を覗きこんだ。 「はー……出た出た」  部屋の中は、玉座の傍にあるスタンドランプだけで照らされて薄暗い。  その明かりの中、小さなサイドテーブルに、ユエンさんが縋りつくように上体を預けていた。 「お前……また、ナカに……」 「別にここまで来たら、今さらちょっとナカ出ししたって変わんねぇだろ」  露出の高い脇を唯一防御していた格子掛けの紐は、ロンさんに解かれたのかはらりとほどけ、短い裾は手繰りあげられて下半身を完全に露出していた。  サイドテーブルにすがるユエンさんの後ろにロンさんが立ち、下半身は明らかに繋がっていた。 (まだ、来客用の部屋に? ここでロンさんが仕事することなんてほとんど――)  そうしてはたと、俺はあることに気付く。 (もしかして、あの時からずっとここで……?)  そう思うと、やたらと荒い息を吐いているロンさんにも、息絶え絶えのユエンさんの様子にも納得がいった。  ユエンさんはよく見れば髪の毛や服がやけに硬い様子で、一度精液が付いたものが、時間が経過して乾いたのだと伝えてくる。 「ロン、一度……抜け」 「なんだもうヘバったのか? 男娼ってのも大したことねぇな」 「お前が、絶倫なんだ……あっ……」  ロンさんが奥まで入ったモノを引き抜くと、それに快楽を感じているのか、ユエンさんは体を強張らせてびくびくと肩を震わせる。  抜き終わった穴に、ロンさんが自分の指を差し入れると、そこからは淫靡な水音が響いた。 「すげえ量。オレのをたっぷり飲んで、満足か? ユエン」 「んぁ! かき、まわすな……っ」 「だって、どんどん溢れてくんだぜ? 見てて面白ぇんだよ」  ロンさんはそのことを知らしめるように、体を跳ねさせるユエンさんにお構いなく、穴をかき回す。 「あ、ん……はぁ、も、疲れ……んぁッ!」 「は? 知らねぇよ。お前が疲れてることなんて」  冷たくそう吐き捨てたロンさんが、再び自身を手に、ユエンさんの尻の傍に立った。  ゴムも何もないナマのそれを、さっきまで攻め立てていた穴に押し当てる。 「――ッ!?」  テーブルに顔を伏せて耐えていたユエンさんが、挿入の快楽のせいかびくんと顔を上げる。  そのまま、まるで水を求める魚のように天を仰いで、ぱくぱくと口を動かした。 「一度抜いてやった。だろ?」 「あ……ぅ……」 「どうした? 喉かっすかすだな。これでも飲んどけよ」  ロンさんはさっきユエンさんの穴をかき回した指を、彼の口の端から挿し入れる。  ユエンさんは水分を求めてか、彼の指についた精液を舐めとっているようだった。  唾液だけでなく、精液まで混じって粘度を増した音が、見ているだけの俺の下半身も熱くさせる。 「お前のやっすい挑発に乗ってやった分、今日は特に好きにさせてもらう。……って、別にいつものことか」  そう言ってロンさんは、ユエンさんの腰を鷲掴みにして、自分の腰を打ち付けた。 「あッ! あっ、ん……」 「ははっ。こういう時の声だけはいっちょ前に男娼だよな」  挿入されたばかりなのに、ロンさんのモノがユエンさんの中をスムーズに行き来する。  逃げられないよう、ユエンさんを掴む手に力を籠めて、ロンさんは乱暴に自身を何度も叩きつけた。 「やっ、あっ! さっきの、感覚ッ、残っ……!」  一体あれから何回、何十回抱かれたのかわからないが、そのせいかユエンさんはかなり過敏になっているようだった。  昼の凛とした様子が完全に消え去り、テーブルとロンさんとの間でただ体を跳ねさせている。 「もう、イッてっ、あっ! イッてる! ロン……っ!」 「だから知らねぇって、オラッ!」 「っ、あっ! くっ、うぁっ、あぁっ!」  ユエンさんは絶え間ない攻めに耐えているのか、テーブルの端を握り締めて体を縮みこませる。  肩や指先は小刻みに揺れ、ギリギリついている足先は腰を持ち上げるようにピンとつま先立ちになっていて、ロンさんが腰を進める度に尻が波打つ。 (俺のせいで、ユエンさんが―…)  申し訳なさと、興奮する気持ちが入り混じって、感情がぐちゃぐちゃになる。それを反映するかのように、俺は格子窓の前から動けなくなっていた。  真っ白いユエンさんの肌が薄暗い中でも浮かび上がり、出し挿れするロンさんの乱暴な動きに合わせてなまめかしく揺れる。 「ふぅっ、あぅ、あっ、あんっ……!」 「なんだ。そんな声出せるってことは、まだイケるみたいだな。なら……」  ロンさんはユエンさんの腰から手を離すと、テーブルに伏した彼へピッタリと覆いかぶさる。  ユエンさんの顔の横でテーブルの端を掴むと、ロンさんはその状態のまま腰を激しく揺らし始めた。 「あっ!? キツっ、アッ、ロン、これ、駄目だッ……!」 「オレは、全然っ、気持ちいいけど?」  がたがたとテーブルごと揺れ、逃げ場がないことに耐えかねてかユエンさんがいやいやと首を左右に振る。 「当たっ、あん! 駄目な、所っ! 当たって、るぅっ……!」 「はぁ?当ててんだよ、当然だろ。ほら、ほら!」 「~ッ、あっ、ひっ! ん、ぁ……っ、ぐぅっ!」  ピンと伸ばしてたユエンさんの足の指先がぎゅっと丸まる。  びくんびくんと跳ねる体に呼応するように、膝も曲がって背も反り返り、ユエンさんの身体は完全にロンさんの思うままになる。 「あッ、んあぁッ! イくッ、イくッ、ロンッ……!」 「オレはまだ。お前早すぎ」  息が上がってはいるものの、ロンさんはいつものスタンスを崩していない。  ロンさんの動きに合わせてテーブルに擦られていたユエンさん自身から漏れ出ているのか、それとも何度も精液を注がれた穴からこぼれているのか、ユエンさんが上体を預けているテーブルの縁からは液体が床に零れ落ちていた。 「ふぐぅっ、あっ、ああぁッ、ひぐっ!」 「ハハッ! 何回イッてんだ? ナカ、ずっと締め付けてやがる!」 「おくッやめっ! あッ、ん、ふぅっ! ひぎっ」  揺れるテーブルに、泡立つ精液の水音、ぱたぱたテーブルの縁から落ちる白濁に、肌がぶつかる音。  目の前からあふれる音の全てが俺を刺激して、それ以外の音が一切遠ざかる。 「アッ、キて、るうッ! ヒッ、あっ!」  格子越しであることを忘れるほど、とろけたユエンさんの顔ばかりが目に入る。  誰に懇願するでもない目はぎゅっと細められ、口からは涎が零れ、切なげに顔が歪む。  ロンさんに何度も何度も身体を揺すられ、既に絶頂しているのか、痙攣が止まらない様子だ。 「やっと、オレもイキそうだ……ッ! お前のナカ、何度だって、出してやるッ!」 「かひゅっ、あァ! ロンッ! ロン、ひぎっ、またッイぐ――ッ!」 「ユエン……ッ!」  ロンさんが腰を何度か強く叩きつけ、ユエンさんに密着した状態で止まる。 「―――ッ、ッ……!」  ユエンさんの声のない悲鳴を皮切りに、さっきまでのあられもない音が一斉に止んだ。  そうして周りには、ただ静かな夜が戻ってきた。  虫の声すら聞こえない夜に、ぱたぱたと精液が床に垂れる水音だけがわずかに俺の耳に届いた。 「はッ、はぁッ……ぁ、ぅ……はァ……」  しばらくして、ユエンさんの荒い呼吸が辺りに満ちる。 「はー……出した」  満足げなロンさんは、一仕事終えたとばかりに自身を抜いて、爽やかな声を漏らしながら身を起こした。  死んだように体をテーブルに預けるユエンさんに見向きもせず、棚に置かれていた飲み物を一人飲み干す。  そうしてテーブルの傍に再びやってきて、ロンさんはユエンさんの前髪を鷲掴みにした。 「ユエン、お前がオレの邪魔を何度したっていい。お前なら、許してやる。その分、こうして抱いてやるけどな」  彼の声が聞こえているのかいないのか、ユエンさんはただ息を吐いて目をとろんとさせている。 「って、散々組員達をかばってきたお前は、もうその身に染みてるだろうけど」 「かばって……ない……」 「はいはい、そう言うことにしといてやるよ」  ロンさんの言葉を聞いて役割を終えたと思ったのか、ユエンさんの手足から完全に力が抜けてだらんと下がる。  死んだのかと心配したけれど、彼は少し荒い呼吸を繰り返していて、俺はほっと胸をなでおろした。 「ユエンのおかげで組員が減るペースも緩やかになって、この組もさらにデカくなったしな」  ユエンさんが気絶したのに、ロンさんは独り言のように言葉を漏らす。 「何を考えてんのかはわからねぇが、組員庇った後に抱かれるコイツはやけに感度いいんだよ」  まるで誰かに話しかけるような言葉に、俺は『それ』が『俺』に向けられていることに気付くのが一瞬遅れた。  薄暗い夜とは不釣り合いな空色の目が、こちらを向いた。 「すげぇ乱れてただろ? 黄泉路への餞別にちょうどいい光景だと思わねぇか?」 「……えっ」  爽やかな空色とは対照的な、暗闇を内包した銃口も一緒にこちらを向いている。 「いるんだよなぁ、こうしてせっかくユエンが助けた命を放り出す――とびきり馬鹿な奴が」  不気味な空色の下に、三日月のような笑みが浮かぶ。 「まぁ、オレは――誰がどうなったって、別にいいんだけどな」  パシュッと空気が爆ぜる音を最後に、俺の全ては黒に染まった。

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