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12_夜木の帳、恍悦のひと間

 ヤーシュの住まう高層ビルを出た時には夜も随分と更けていて、都心であっても外を歩く人間はそう多くなかった。  夜に訪れる目的のない場所――公園ならば、なおさらだろう。  それを見越して、オレはビル前で待機していた車の迎えを断った。「少し歩いていく」と部下連中に大きな公園の先で待つように告げ、フェイの腰を抱いてひと気のない公園を歩く。  都心とは思えないほど公園には木々が生い茂っていて、それに遮られているからか車の走行音が少し遠く聞こえる。 「危なくないのか、ひと気のない場所を歩いて。天義会の領地の外だろう」  オレ腕の中から、フェイがこちらを見上げた。  その表情はいつもと同じ無表情なもので。特に不安そうにしていたり、心配している様子はない。 「ま、狙われたら返り討ちにすりゃいいだろ。こんな静かで気づかれやすいところで狙うような三流もいないだろうしな」 「……そういうものなのか」 「産まれてこの方娼館で囲われてたお前には、知る由もねぇ話だったか」 「……別に俺のような生まれじゃなくても、知らない話だろう」 「ハッ、そりゃそうだ」  少しむっとしたのか、突っ返すように言うフェイの様子に笑いが漏れた。  第三者がいる時のフェイは、男娼の『苑』として人形のように口を閉ざしているが――二人きりの時は無遠慮で、少し感情が見える。それを見るのが面白くて、つい揶揄ってしまいたくなる。  だから、初めて天義会の外に出たフェイと、二人きりで話したくなっていた。 「何故、急に俺を連れ出したんだ」  ひとしきり揶揄って満足していると、フェイがそう切り出した。  もしかしたら服を着せられて連れ出された時から、ずっと聞ける機会を待っていたのかもしれない。 「そりゃ、お前がやることやったから、ご褒美って奴だ」 「やること……?」 「怪しい奴、チクったんだろ? 間者だったぜ、そいつ」  フェイがよく絡む下っ端経由で、妙な使用人がいたと報告が上がっていた。  そいつは時おり屋敷に入る清掃要員で、傘下の堂が身元を保証していたらしいが――泳がせたところ、本部内の情報を他の組織に流そうとしていたらしく、外部組織と接触を図ろうとしていた。 「よく気付いたな」 「……ただ、違和感があっただけだ」 「けど、それで馬鹿をひとり炙り出せた。……で、お前を連れ出してもいいって話になった」 「どういうことだ……?」 「オレと外に出しても、組織に不利なことはしないだろうって証明されたってこった」  フェイはただの男娼だ。永盛堂が献上しても、密偵の類である可能性は捨てきれない。  オレは、フェイのような奉仕馬鹿にそこまで器用な真似ができるとは到底思ってないが、ズージンが何かと警戒して口うるさかったのは事実だ。  けど、天義会に来てからずっと続けているオレへの奉仕。屋敷を歩き回らず余計なことをしない大人しさ、そして今回の――密告。  それらによりフェイは、ズージンからの一定の“信用”を得たことになった。 「俺はロンの物だ。持ち主を裏切るようなことはしない」 「そりゃオレは疑っちゃねーけど、口ではどうとでも言えるだろ。それが今回のことで、本部中枢で信を得たってこった」  とはいえ、未だに傘下の組織や本部内でもフェイを訝しむ声はゼロじゃない。  ただ、本部を仕切ってるズージンがフェイを多少認めた分、連れ歩き易くなったってだけだ。 (ま、その気になりゃ……いつ連れ歩いたって、誰にも文句は言わせねぇんだけど)  とはいえオレが龍頭になってから不満を垂れる連中も多い。  かかってくる連中を片っ端から潰してもいいんだが、オレも人間だ。対応できる範囲にも限界がある。そうなると、必然的に反感の種を買わないための動きも必要だった。  そのせいでずっと叶わずにいたのが――フェイの連れ出しだ。  今回それが叶って、オレは上機嫌だった。 「お前は本当に役に立つな、フェイ」  ヤーシュに言われて、改めて思う。  オレはオレが思っている以上に、フェイを気に入っている。  ただ頑丈で気持ちのいい孔である以上に、フェイの狂気じみた奉仕が面白くて、都合がいい。  フェイが天義会に献上されてから半年程度……こんなにも飽きなかったのは、初めてかもしれない。 「…………」 「なんだ、せっかく褒めたのにだんまりか?」  腕の中で顔を伏せてしまったフェイに声をかけるも、顔を上げようとしない。  オレが立ち止まると、だんまりを決め込んでいるフェイも腕の中にいるせいで立ち止まらざるを得ない。 「おい、フェイ。こっち向け」  そう命じると、フェイがゆっくりと顔を上げる。  公園のまばらな街頭に照らされた表情はそれほど明瞭に見える訳じゃない。それでもフェイが、どこかむず痒そうに――ほんの少し、口元を緩めているのがわかった。 「……役目をまっとうできているなら、いい」  声色はどこか喜びが滲んでいて、誇らしげでもあった。  散々荒っぽく抱かれて、マフィアの抱えとはいえ軟禁状態だったというのに――嬉しそうにするのか。オレの役に立ったってだけで。  ぞくりと謎の高揚が身体を走る。 (どんだけイカれてんだ)  オレも大概イカれてると言われる方ではあるが、フェイはそれとあまりにもベクトルが違う。  だからこそ、理解できないし――興味深くて、面白いと感じるんだろう。  そう感じると、もっと見てみたくなる。この男のイカれ具合をどこまでも確かめたくなる。 「なら、ここでも変わらず役に立ってくれるよな?」  いつの間にか勃ち上がっているスラックスの前を示せば、フェイは一瞬眉をひそめて――オレの服の裾を引っ張った。 「……こっちだ」  公園の歩道から外れて木々の合間に滑り込めば、大木に向き合う形でフェイは履いていた細身のパンツをショーツと一緒に躊躇いなく下ろす。  そうして膝くらいまである長衫の背中側をまくり上げ、両足を広げて上体をかがめると、オレに向かって尻を突き出してきた。 「……好きに使え」 「ハッ、相変わらず色気のねぇ誘い方」  どれだけ抱かれ慣れても、妖艶に誘うことに限って言えば、フェイは一向に上手くならない。  それがまたおかしくて笑うと、フェイは少し何かを考えこんだようだった。  そうして、自分で唾液を絡めた指を、オレに差し出した孔にゆっくりと挿入する。 「は、ぁ……ん、ぅ……」  オレが見ている前で、フェイは片手を木の幹に突けながら、もう片方の手で後孔をねちねちとこねくり始めた。  するとすぐさま、その窄まりからはちゅぷちゅぷと水音がし始める。明らかに唾液だけとは思えない音。 「お前……もしかして出かけるってのに、ナカ準備してきたのか?」 「それ、は……そうに、決まって、る……ぁっ、ん……お前が、いつ、使うか……わからない、からっ」  孔に挿し入れた指2本で、フェイは自分の窄まりをわずかに広げて見せる。  中に仕込まれていた潤滑油のようなものが、地面に向かってたらりと一筋落ちていく。それは街灯の光を反射して、てらてらと光っていた。  自分の指での刺激で早くも感じているのか、大きく広げたフェイの脚が微かに震えている。  オレのスラックの中で膨らんでいるモノが、それらを見て強い主張をしていた。 「――前言撤回。すげぇエロい誘い方」  すぐにパンツの前を寛げると、固くなっていた自身が外の空気に触れる。  しかしすぐさま、それは温かい孔の中にずぶずぶと沈んでいった。 「あ、あぁ……は、ぅ……あ、ん……」 「はー……あっつ」  肉棒を包む雄襞は熱を持っていて、奥へ進む度に亀頭に押し広げられてはぎゅうぎゅうと締め付けを繰り返す。フェイの“準備”のおかげで、大きく固くなっていたオレのモノは難なく孔に納まった。  全部入った安堵か、それとも気持ちよさからなのか。フェイは崩れ落ちそうになりながらも、懸命に両手を木の幹につけて、がくがくと震える体を支えようとしている。 「おいおい、まだ挿れただけだろ?」 「わか、ってる……ぅっ、ぁ……」 「まぁでも好きに使えって言われたし――なっ!」  ギリギリまで引き抜き、一気に奥まで貫く。  「ひぐっ」と短い悲鳴が漏れ、フェイの身体は反射的に背中を反らせて大きく震えた。  オレは止まることなく、そのままパン、パンと一定リズムで腰を打ち付ける。一往復する度に、後孔がオレを包み込んだまま脈のようにうねっていた。 「うっ、あっ、ひぁ! あッ、んぁ、あ、あぁ……ッ」 「あー、やっぱいいな。お前連れてけると、いつでもできて」  角度を変えて奥を抉るように腰を動かせば、ぎゅうとひと際しぼられた孔から潤滑油が溢れ、足元の草にぱたぱたと落ちて濡らしていく。  相変わらず声だけは女のように淫らで、オレは後ろから抱きしめるように身体を寄せると、フェイの喉元に後ろから触れた。 「いいのか? んな女みたいな声をそんなバカみたいに出して」 「ひっ、おまえの、せいっ、アッ、アッ」 「忘れんなよ。ここ――公園、なんだぜ?」 「! んっ、ぁ、ひぅ、ンッ、ふぅっ、んッ」  オレの言葉に、フェイは慌てて唇を噤んだ。それでも根元までねじ込む度に喘ぎ声は漏れる。  腰を止めないまま、オレはフェイの耳元で唇を薄く開く。 「はは、別にオレは見られても構わねえよ。だから、オレだけを感じて好きに喘げよ」 「んっ、ふ、ぁ、んんッ、んぁ、アッ、うう~~ッ」  そうは言ったものの、フェイは喘ぎを堪えようと懸命に口を手で押さえながら震えていた。  フェイの腰が下がりそうになるところを、オレは両手で掴んでいつもと変わらず好きなようにストロークを繰り返す。  ――そんな中、ふと耳に大きな声が届いた。 「えっ!? わわっ……!」  公園の整備された歩道から、ひとりの優男が驚いた表情でこちらを見ていた。ばっちり目が合う。  オレは腰を止めないまま、空いてる方の人差し指を唇の前に立て、男に向かってにんまり笑った。 「っ……!」  男はオレの仕草を見るや否や、一目散に歩道を走って去っていった。  バカップルの行為を見てしまったのだと、さぞ居心地が悪かったことだろう。 「あーあ、ヤってるとこ見られちまったな? フェイ」  煽るように尋ねるも、こちらに背を向けているフェイの反応はない。  しかし肉棒を奥まで押し込めば、ナカはぎゅうと締め付けるし、肩もビクンと跳ねている。気を失っているわけではなさそうだった。 「フェイ、おい聞いてんのか?」  改めて声をかけながら尻を叩くと、縮みこんでいたフェイの身体が海老反りになる。  そうしてやっとフェイは顔をわずかにこちらに向けた。その表情は、気持ちよさのせいか目から生理的な涙を流し、口端から涎らしきものが垂れていた。 「っ、う? あ、んんっ、ふぅ、ぁ……なん、だッ?」  ――見られたことに、気づいてない。  驚いていた男の声量は、それほど小さくはなかったはずだ。それなのにフェイは、まるで誰も通っていないかのような反応でオレを見る。  それは本当に『オレだけを感じて、没頭していた』ことの証左に他ならない。 (――こいつ)  従順すぎて、もはや自己催眠レベルだ。無意識だとしたらタチが悪い。  乱暴したいような、当たり散らしたいような。都合がよすぎて嬉しいような、潰してやりたいような。言葉にしようのない衝動に近い感情が一挙に襲ってきて――そしてそれは、オレの口元に笑みとなって現れる。 「あーあ、車の連中待たせちまってるけど――仕方ねえよ、なッ!」 「あんっ! ロン、待っ、ふかっ、いッ……!」 「お前のせいだろ、責任持ってしっかり孔締めろよ!」  火をつけられて、オレは差し出された孔を言われた通り好きに使う。  今後フェイを連れ出すと、煽られる度に毎回帰りが遅くなって大変かもしれない。  そんなどうでもいい心配をしながら、気が済むまでフェイの中に精を吐き出したのだった。   *  公園の片隅で、ひとりの若い優男が肩で息をしていた。  つい先ほど、木々の合間に男は見てしまった。  マフィアの龍頭に引き回され、尊厳なく後ろから好き勝手に犯されている――見知った彼の姿を。 「はっ、はっ……ユエン。せっかくまた一目見れたのに、あんなっ……!」  ショックでつい駆けだしてしまったが、さっきの光景が目から離れない。  乱暴をされても懸命に耐えるユエンの姿。娼館の時と一緒だ。 「だめだ、だめだ……ユエンを、助けないと」  悔しさに男は歯噛みした。顔を手で覆い、自分に言い聞かせるような切羽詰まった声。  その声は、木々の葉擦れの音にかき消され、誰にも届くことはなかった――。

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