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16_刺青の証、虚ろな残滓

 面倒な決裁仕事を終えて、気晴らしにフェイを抱いている中。オレはある違和感に気付いた。  寝転がっているオレの上で騎乗位をしていたフェイの頭が、ぐらぐらと揺れていた。目が虚ろになりながらも、オレのモノを呑み込んだ下腹部を懸命に擦り上げようと腰を前後にスライドする。 「ん、ぁ……ろ、ん……あっ、あ……」 「おい。さっきより動き遅くなってんぞ」  オレがそう言うのとほぼ同時に、フェイの身体が後ろに傾いた。  糸が切れたようにオレの脚の方に身体を投げ出すと、その勢いで入っていた肉棒がずるりと抜ける。 「なんだ、腹上死か?」  幸い東棟に備え付けられているベッドは大きく、フェイが後ろに倒れた程度では落ちることなんてない。  起き上がって覗き込めば、衣装によって大きく開いたフェイの胸は静かに上下していた。腹上死ではなさそうだ。  代わりに、顔に赤みが差していて、玉のような汗が肌に浮かんでいる。まぁいつも激しく抱いてる時も大体汗まみれではあるが――見る限りでは熱がありそうだった。 「ったく、まだイってねぇのに。……まぁ一回イクまで使わせてもらうか」  “仕事”熱心すぎるフェイなら、自分が熱だろうとオレがイクまで続けるだろう。  仰向けに気絶しているフェイの両脚を大きく開き、オレはほぐれている孔に再び自身を挿入する。  さっきまで挿入っていたそれは難なく奥へと呑みこまれた。すっかり慣れ切っているのか反射なのか、意識が無いというのにフェイのナカはわずかにオレのモノを締め付ける。 「ぅ……ぁ……」 「はは、反応してんのか?」  腰を動かすと、ストロークを繰り返す中で時おり緩い締め付けが起きた。  ただ、当然それだけで達することは少し難しそうではある。とはいえ、時々起こるフェイの緩い反応と、睡眠姦のような状況をしばらく楽しむため、オレは腰を動かし続けた。  角度を変えるためにフェイの腰を引き上げ、上から覆いかぶさるように手を突いた。より奥を抉るように腰を進めるも、気絶しているフェイの反応は当然鈍い。 「ん……ぅ……」 「はー、ぜんぜん締まんねぇ……普段どんだけ感じてんだよ」  そうこぼしながらフェイを見下ろす。ふと、衣装が大きく開いた胸――右胸の刺青が目についた。  それは、初めてフェイを抱いた頃の話。気に入って東棟に囲いだした後に、オレが命じて入れさせたものだ。龍と雲がモチーフになっていて、オレのモノという象徴だった。  それはまるで衣装の一部のようになっているから、普段そんなに気にしたことはなかったが……今日はやけに目につく。 (……あのうざったらしいタレコミのせいだな)  ヤーシュの元に商談に行った時。帰りの公園でフェイを抱いていた時にこっちを見ていた一般人は――どうやらフェイの元客だったらしい。  オレがフェイを抱いているところを見ても、怖気づくどころかさらに嗅ぎまわっているのだと、ヤーシュや諜報部連中からもタレコミが入った。  裏社会の奴なら消せばいいものの、表社会で繋がりのある人間となると簡単には行かない。 (めんどくせぇ。つーか、身の程を知らなすぎるだろ)  刺青を撫でながら、すぐ傍にある乳首をつまんで転がしてやる。するとフェイは、意識がないくせに「はぁ」と吐息をこぼして孔を締め付けた。  寝てても起きてても関係ない。フェイはオレの男娼で、オレのモノ。オレを気持ちよくするために存在する。だというのに、それを図々しくも横から掻っ攫おうとするやつがいる。その不快さは、話を聞いていた以上に膨らんでいた。 「ん、ぁ……ロ、ン……」  まだ目を閉じているというのに、ぼんやりと開いたフェイの口から零れたのはオレの名前だった。  そうして少し前、北棟の庭で抱いた時のことが思い浮かぶ。 『ロン、イき、たいっ……お前ので、イキたいッ……あっ、ん』 『ははっ、この話の流れで、それ言うのかよ』 『あっ、アッ……だって、ほしい、からっ……あんっ』  フェイはオレを求めた。普通の生活と天秤にかけて、オレが欲しいと言った。  もちろん死なないためにオレに都合のいいことを言った可能性もある。けれど、フェイが器用にもそういったおべっかが言えるやつじゃないことは、これまでの時間で証明されている。つまり――。 (――フェイは、オレのもんだ。外野の雑魚がどう言おうと)  そう心の中で言葉にすると、刺青の入ったフェイの姿がやけに淫靡なものに見えてきた。  締めつけは緩いというのに、下腹部に熱がこもる。 「くっ、フェイ……!」  フェイの腰を両手でがっしりと掴んだ。いつもフェイが喘ぎまくる弱いところを、ずんずんと何度も突く。  身体が覚えているのか、そこを突くとナカの柔壁がわずかだが反応する。その反応を追いかけるように、執拗に執拗に、その場所を責め続ける。徐々に徐々に、胸と下半身が昂っていく。 「ぁ、……ぅ……」 「ナカに、出すぞ……ッ!」  抱え込むようにひと際腰を密着させると、オレは一番奥に精を吐き出した。  フェイも無意識にそれを察知してか、内股が微かに震えていた。 「……ろ、ん……?」 「お、気が付いたか。使わせてもらってるわ」  オレが好き勝手に身体を揺さぶったせいか、フェイは薄く目を開く。  その焦点はまだ定まっておらず、熱がありそうなことは明白だった。それでもオレの言葉を聞いたフェイは、オレを受け入れやすくするためか、よりいっそう足を大きく開いた。 「ん……好きに、して……いい……」 「言われなくてもしてるっての。つーか今一回終わったし」 「そう、か……まだ、やるだろう……? すまない……俺は動けないが、孔は好きに使って……くれ」  気だるそうにしながらも、フェイは気遣わしげな視線をこちらに送った。  目が覚めたなら、完全に気を失っていたさっきより反応は楽しめるだろう。そしてフェイの言う通り、普段なら一回なんかで簡単に満足できるはずもない。  だから、フェイの言う通り孔だけを使えばいい話ではあるが――。 「……ヤル気なくした」 「え……?」  下半身はまだまだできる気概を感じるが、何故だか心の芯がすっと冷えていた。  オレはフェイから肉棒を抜くとベッドから下り、サイドテーブルに用意された濡れタオルで軽く体を拭いて、さっさと着替えを済ませる。  フェイはだらしなく脚を開いたまま、肘をついてなんとか上体を起こしてこちらを見ていた。 「ロン……」 「あー、もう今日はやめ。終わりだ、終わり」  感慨もない。ピロートークをする気も起きない。  ぼんやりするフェイを背に、ひらひらと手を振ってオレは東棟の部屋を出た。   * 「珍しいですね、この時間に私室にいるのは」  北棟の自室で何をするでもなく飛刀を磨いていると、部屋の灯りを見てかズージンが顔を出してきた。  その手には書類の束が持たれていて、オレはそれを見て「げえ」と声を漏らした。 「見ねぇぞ、決裁書は。今日は店じまいだ」 「男娼の元に行った時点で今日見られると思ってませんので、明日で問題ありません。道すがら、在室しているようだったので渡しにきただけです」 「あ、そ……」  優秀な奴ではあるんだが、こうやって先を読まれるのは少しばかり気にくわない。  まぁ東棟に入った時点でいつ出てくるかはオレの匙加減ではあるし、どうせその後に書類を見ることもないから、ズージンの判断は最適解ではあるんだが。 「何かあったんですか?」 「ユエンの奴が調子崩してて使えねーんだよ。全然孔締まんねぇし。適当に誰か見に行かしとけ」 「わかりました。それにしても、それでここへ戻ってくるのは意外ですね」 「あ? なんでだよ」 「いちいち娼婦呼んでいた時は、相手がどういう状態であってもお構いなしでしたから」 「…………」  そう言われて、ふと自分の振る舞いを思い返す。  相手が怯えていようと泣いていようと、痛いと言おうと吐いていようと。オレが気持ちよくなるために金を払っているんだからと、確かに気にしていなかった気もする。なんならそれで“駄目にした”こともあった。  それなのに、破滅的に献身すぎるフェイを前にしたら――どうにも気が削がれていた。 「普段イイぶん、今ぶっ壊すのもったいねぇだろ。オレは役に立つもんは使えるとこまで使う主義なんだよ」 「そうですか。では、代わりに別の娼婦を呼びましょうか。発散は足りていないのでは?」 「あー……まぁ、そうだな。頼むわ」  さっさと撤退してきてしまったが、元よりヤル気があって東棟に行っていた。だから、あるかないかと問われれば当然答えは『ある』だ。  かといって一人で発散するのも味気がなさ過ぎるので、オレはズージンの提案をありがたく受け入れた。 「女、すげー久しぶりじゃね?」 「今の『彼』が結構長いこと持ってますからね」 「なんか、ちょっとワクワクしてきた」  新鮮で前向きな気持ちになるものの、ズージンから帰ってきた言葉は「そうですか」というそっけないものだ。  フェイの具合と比べて、どんなものだったか。オレは実験のような気持で、わずかに高揚する心を抑えきれなかった。

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