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24_龍の下、金糸雀の囀り
パン、と左目に一発。膝立ちしていた男の顔が天を向き、力なくだらりと手が垂れる。
オレはその身体を横から蹴り、道を空けさせるように退かした。
二つの死体の間には、両足を全開に広げたまま気絶しているフェイがいる。
「おーい、起きろ。フェイ」
軽く頬を叩いてやれば、宙を見ていたフェイの目に光が戻る。
酸欠で身体がだるいのか、指一つ動かそうとしないまま目だけでオレを見た。
「……これで、よかったか……?」
「ああ。にしても、よくこいつらを引き留めようと思ったな。逃げろって言われたろ?」
「……お前は、いつか探して殺すと思った。なら、今探す手間を省いた方が良いだろうと……そう考えただけだ」
「ハッ。組織にダラダラ寄生した連中より、男娼 の方がよっぽどわかってたわけだ」
建物なんてただの箱だ。本部に入られたこと自体に怒りなんてない。
劣化していく屋敷や組織にいつまでもしがみついて、権威が本当はどこにあるかを見失う――永盛堂が屋敷内への侵入を防ぐのに躍起になり、首の後ろががら空きだったように。
(殺して正解だな。フェイの成果で、残党も刈れた。にしても――……)
胸に満ちるのは充足感だ。
目の前に広がる光景を噛み締めていると、フェイは不思議そうにこちらを見た。
「ロン……?」
「ん? ああ、お前が無理矢理されてんの、すげーよかったなってな。たまにはアリ」
「いつも、無理矢理してるだろう……」
「ハッ、お前も結局は悦んでるくせに。ホント、オレに都合がイイ奴だよ」
そう言ってくしゃりと頭を撫でると、フェイはむず痒そうにして、そこで初めて身体をもぞりと動かす。
どうしたのかと観察すると――フェイの短いチャイナ服の裾が、内側から盛り上げる何かで持ち上げていることに気付いた。
「勃ってんじゃん。やっぱよかったか? 犯されんの。さすがはオレの娼夫」
「これは……違う。お前の、せいだ」
どういうことか分からずにオレが首を傾げると、フェイはわずかに頬を染めた。
「お前に認められて……胸が熱くなったら、こうなった」
「都合のいイイ奴だって?」
「ああ。お前の役に、立ったんだろう……?」
まあ、と曖昧な返事を返す。
元よりオレが褒めると嬉しそうではあったが、ここまで露骨に身体で反応しているのは初めて見た。
フェイはようやく動くようになった手を自分の胸に当て、そこから腹を伝うようにその手を下ろしていく。それは開きっぱなしの足の間までするりと下りていくと、フェイ自身で持ち上がっていた短い服の裾を指先で持ち上げる。
「犯されてる間、ずっと考えていた。お前としている時と比べて……ここが、足りなくて。そんな時に、お前が褒めるから」
フェイの後孔は何かを求めて、ひくひくとその口を開いたり閉じたり繰り返す。それをこちらに見せつけてくるのだ。
「……欲しくなった。お前のが、ナカに」
普段の下手すぎる誘い文句が嘘のように、エロい。
ただでさえ血を浴びると昂るのに、目の前の男は煽ることばかりを言う。恍惚な表情で、飼い主におねだりをし続ける。
きっと今のフェイは自覚していないのだろう。普段、尽くしてばかりいるフェイを思えば、そのセリフは珍しいものだった。
この瞬間。男娼としてオレに尽くすためではなく、『自分』が欲しいからねだっている。
「ま、想像以上に仕事してたからな。今日は――赦してやる」
オレはフェイに覆いかぶさった。
血を浴びて濡れたパンツの前を寛げ、だらしなく開いたフェイの孔に求めていたものを当てがってやる。
入口に触れた瞬間から、待っていたとばかりに孔がオレのモノに吸い付いた。
「あ、ぁ……これ……は、ぁ……」
「すげぇ食いつき。そんなにこれが欲しかったのかよ!」
「うあっ!」
ずん、と奥まで一気に進めるも、さっきまで犯されていたせいか、穴はすんなりと呑み込んでいく。
余程腰に来たのか、フェイはがくがくと体を小刻みに震わせたまま、背を反り返らせた。
面白がってその顔が向いた方を見ると、一人の優男が床で倒れていた。
「あー……こいつか? お前に首ったけだったの」
「ぅ、あ……そ、う……だ」
「そういや前の公園で見たのも、こんな奴だったかもな。暗かったからあんま覚えてねーけど」
まぁいいか、とオレは腰を動かした。前でも後ろでも、動くとフェイの身体が震える。
中の柔壁は奥へ奥へと誘って来て、出そうとすると引き留めるように絡みついてくる。
「はは、身体は正直だな。ナカ、うねりすぎ」
「あっ、うっ、はぁ、あ、ろん……ひ、あっ……」
指先まで伸びきっているフェイの足が、小刻みに震えながらオレの腰に巻き付く。
フェイは元より恥じらいを見せないタイプではあったが、自分から欲しがったことで心が解放されているのか、今まで以上にだらしなく股を開いて、その身体をオレの作る揺れに委ねていた。
娼夫という矜持も、男としてのプライドもない。それはただ欲しかったものに夢中でしゃぶりついている子供のようで。――誰かが見たら、こう言うだろう。
「哀れで、可哀そうな奴なのかもな」
「あっ? かわ、いそ……? あっ、ひぐっ、んっ」
イイところに当たったのか、腹の上まで反り返っているフェイの自身――その先端から、ぴゅくっと愛液が漏れた。
甘イキしたからか、ナカがいっそうぎゅうぎゅうと締め付けられる。
「そこに転がってる男の手を取れば、普通の世界に行けたかもしれないだろ。こんなふうに、男の下で股おっぴろげて、だらしなく涎垂らす暮らしから……よっ!」
「ッ~~~~……は、っ! ぁ……」
奥を突けば、その衝撃にフェイが息に詰まって、喘いでいた声すら途切れる。
つい口から出たのは、以前北棟の庭で問いかけたものと似たようなセリフ。あの時聞けなかった、続き。
オレは血まみれの手で髪をかき上げながら、上体を起こしてフェイを見下ろした。
繋がったまま身体をこわばらせるフェイの様子は、まるで標本にピン止めされた鳥――カナリアだ。
普段は籠の中で淫靡で高らかに鳴かされ、今は力で締め上げられて鳴くこともできない、哀れな籠の鳥。
籠の外に出れば、自由に飛べる世界があるというのに。
「ま、逃がす気なんてさらさらねぇけど」
なぜならオレは、フェイのことをとことん気に入っているから。
今後どれだけ娼婦や男娼を抱きつぶしても、フェイほど頭がおかしくて面白い奴に会えるとは到底思えない。
だからこの男は、その翼で外を飛べることを知らないまま死んでいく。オレが羽を折って、潰す。
「……ら、ない……」
絶頂による硬直が解けてきたのか、フェイの顔がゆっくりとこちらに向いた。
そして、フェイの腰を掴んでいたオレの手に、手を重ねてくる。
「……ふつうなんて、いらない」
おぼつかない細い手が伸び、血に塗れることも厭わずオレの指に指を絡めてくる。
「おれ、は……お前の、男娼。天義会の……お前の、モノだ」
指が絡む度に、中途半端に乾き始めた血がねちゃりと粘度を増して絡みつく。
それはまるで精液のようで。いつも繋がってばかりのオレたちのことを思い起こさせた。
「俺の場所はお前の傍で……お前の下で、使われたい。必要と、されたい」
「…………」
フェイの生い立ちは、気に入った時から軽く調べて知っていた。
母親が娼婦で、引きずり落されるように同じ娼館で男娼になった。
成り行きで犯されて、生きるために目の前の客に尽くして、掘られて、虐げられて。フェイは生まれた時から感覚がイカれている。自我がない。だから、他人の役に立つことでしか生き方を知らない。
逆に言うと、それが自分が生きるための方法だった。そういう方法でしか、生きられなかった男。
言われたままを実行して、流されて、売られて――そんな生き方ばかりのフェイが、言った。
使え、ではない。使われ『たい』。必要とされ『たい』。
それは尽くしているようで、求めている言葉。こいねがう、フェイの意思。
「ハッ……」
気が付いたら、オレは笑っていた。
奉仕というベクトルにおいて、フェイはいつだってイカれてるが……それを除けば冷静で賢い男だ。
だから、きっと何度も――何年も、下手すれば十何年も。考えたことがあるはずだ。
娼館の窓の向こう側。客の語る外の世界。天義会の門の先、広がっている遠い空の下。部屋の隅に転がる男にねだれば連れていってくれるであろう美しき世界を。
しかし、それを蹴って――自分から台無しにして、この男はオレを求めている。
精液と血に塗れて、死体の間で、ついさっき人を殺した男に股を開いて、自分の意志で肉棒を求める。
「やっぱ、イカれてるな。お前」
虫一匹殺さない顔で。傍にいる死体から溢れた血だまりの中で、人殺しに抱かれたがる。
――これが、心躍らずにいられるものか。
「あっ……!?」
気が付くと、指を絡められた手を振り払って、フェイの腰を掴んでいた。
肌が触れ合う音が高らかに鳴るくらい、何度も腰を打ち付ける。フェイの奥を穿つ。
「ン、ぐっ! あ、んっ、はげしっ、ロンッ、うぁっ!」
「使われたいんだろ? 叶えてやるよ、ほら! ほらよ!」
「あっ、あんっ! も、っと……! きもち、いっ……!」
フェイは必死に自分の両太ももを手で押さえ、オレのモノをより奥に受け入れようと足を開く。
どれだけ激しく揺さぶられようとも、フェイはオレを見ることをやめようとしなかった。それは自分が誰に抱かれているかを刻み込んでいるようで、ひどく心地がよかった。
「ひぐっ、あッ、んっ! はッ、んぐ、ロンッ、ロン……ッ!」
「――雲 」
「あんっ! ユ、ン……? ひぐっ、あっ、あっ」
気が付いたらそう呟いていた。
べったりと血の付いた手で、フェイの右胸にある刺青をなぞった。雲を纏った龍のモチーフ。
腰を打ち付ける衝撃でフェイの身体が揺れ、モチーフの龍を打ち消すように血に濡れる。
「オレの、名前。偽名って、わかってただろ?」
「ユ、ンッ……あッ!? あン、あっ、駄目、まず、いッ……!」
ぎゅううとフェイの奥がひと際強く締め付けられた。
絶頂しているのだと知りながら、オレは一度発散するためにその締まりの良くなった孔に、何度も己のモノを突き入れた。
「ひぐっ、イッてる、あン! イッって、るッ! あ、あ、あッ…~~!」
「知らねぇっ、って! そのまま、締めろ! くっ、う……!」
痙攣の止まらない奥で、高まって大きくなったモノから白濁を一気に吐き出す。
散々煽られたせいか、いつもより多く出ている気がした。
「あ、ぅ……ユ、ン……」
「さっそく呼びまくりだな。いいけどよ」
いつの間にか、振り乱れた髪が汗と血でフェイの顔に張り付いている。
目にかかった髪の隙間から覗くラズベリー色の瞳。それが不意に、柔らかく細まった。
「やっぱり……雲なんじゃないか」
フェイは、おかしそうに笑っていた。どこか勝ち誇ったような笑みだ。
以前、熱を出したフェイが、虚ろな意識で同じようなことを言っていたことを思い出した。
『……雲みたいなやつだな』
確かに、実はあの時点で言い当てられていた。それはつまりフェイは賢くて察しの良い人間であることの証左ではあるのだが……。
ただ少し。ほんの少しだけ――その笑みが癪に触った。
「あッ!?」
ナカに埋めたままの己のモノを、ぐりぐりと奥に押し付ける。
音は聞こえないはずなのに、骨を通じてなのだろうか。行き止まりでもある一番奥から、吐き出した精液が柔壁でこねくり回される音が聞こえた気がした。
「おく、やめろ……ひ、う……アッ、あン……」
「調子に乗ったお前が悪い」
「乗って、なッ、いぃ……ッ! ひ、あっ! ユンッ!」
黙らせるために腰を動かす。
フェイは身をよじって、その身をより血に塗れさせながらもオレだけを感じている。
それが心を酷く掻き立てて、堪らない。
そうしてオレはまた、いつものようにフェイの腰を掴んで何度も何度もその繋がりを深くし、そのナカを満たし続けた――。
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